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第二百五十二話

「そう言えば来夏って何しに来てるんだろうな」


 秀星はふと思った。

 何度か見かけては暴走している来夏だが、そもそもいる理由が分からない。

 トラックを運んでいたということらしいので、運送業者のバイトでもしていたのかと思ったが、剣の精鋭としての稼ぎがあるのでバイトをする意味はない。


「おそらく……みんな集まってるからフラッと来て、何か出来そうなことがあるかなと思って探していたらトラックを発見した。と言った感じでは?」


 アレシアの説明でなんとなく秀星は察したが、はっきり言ってくるしい説明であることに変わりはない。

 だが、来夏は思ったより単純な頭の構造をしている。

 スキルによって相手の精神状態を把握することが出来るので、申請が通るのか通らないのかと言うことを即座に判断できるゆえに、潜りこんだと言ったところだろう。

 いずれにせよ、トラックを肩に担ぐというのは想定外だったと思うが。


「まあ、そんなもんか」


 正直、秀星としても考えるのは面倒である。


「……ん?」


 秀星の耳に、ボールを木製バットで打ったような音が聞こえた。


「……この学校って、普通の学校の部活みたいなものってあったか?」

「ありますよ」

「……まあ、どこにでも時間が余るやつはいるか」

「いえ、部活動に所属していると、午後のダンジョンのノルマが無くなるので、幽霊部員が一定数いますよ」


 ダメじゃん。


「まあなんていうか、別に珍しいわけじゃないか」

「そうですね」


 見に行くことにした。

 そこでは……。


「ハッハッハ!どうした!このままだとパーフェクトゲームになっちまうぞ!オレの球を打てるやつを連れてこい!」


 どこにあったのか、完璧に野球スタイルの来夏が、左手にグローブをつけて高笑いしていた。


「あのゴリラは何やってんだ」

「野球ですね」

「いやまあそうなんだが……って、キャッチャーが宗一郎なんだけど」


 こんなところで何やってんだ生徒会長。


「他の人では取れないのでは?」

「すごくありうるな」


 丁度、来夏がボールを受け取ったところだった。

 そして、思いっきり振りかぶる。


「オリャアアアアアア!」


 来夏が投げた豪速球……いや、殺人球は、当然バッターには見えないので、見送るしかない。

 そして、宗一郎の顔面を守るメットに真正面から直撃。

 ズガアアアアアアアアアン!というちょっと命の危機を感じそうな音とともに真上に跳ね上がって、キャッチャーミットに落ちてきた。

 ちなみに顔面を守る目的のものが完全にひしゃげているが、秀星が見る限り、宗一郎は無傷である。


「世の中で唯一、来夏のキャッチャーになれる男か」

「馬鹿馬鹿しい気がしますが凄いですね……」


 来夏は神器持ちでもなければ、人間よりも上位の種族というわけでもない。

 本当の意味でただの人間のはずなのだが、なんだあれは。


「絶対防御。みたいなスキルを持っててもあれは嫌だなぁ」

「突き破ってきそうな気がしますからね」

「ていうか、取れるというか止めることができる宗一郎もギャグ補正が高すぎるだろ」

「今更ですね」

「たしかに」


 今度は来夏がバッターボックスに立った。

 木製バットを構えている。

 ピッチャーはビビりまくっている。

 だが、投げることにしたようだ。

 ベンチから『キャプテン頑張れ!』という地獄への片道切符のような応援が来ているので、一球も投げずに終わるのはマズイのだろう。


 ピッチャーは振りかぶって、投げた。

 秀星の目算では時速145キロメートル。

 来夏を相手にビビっていることを考えるとなかなかの球速だ。

 来夏はユニフォームが破けそうなほど筋肉をムキムキと張り上げて、思いっきり振った。

 しかし、球は宗一郎が構えるミットの中へ。


「……ん?」


 来夏がバットを見る。

 途中から砕けていた。


「あ、振る途中で砕けてるな。もうちょっとゆっくり振るべきだったぜ」


 何だアイツ。

 と思っている間に、来夏は新しいバットを持ってきて素振りしている。

 普通に振ることができているようだ。

 そしてまたバッターボックスへ。


「よし、次はちゃんと打てるぞ。来い!」


 秀星は読唇術ができる。

 ピッチャーが『嫌です』といったのが見えた。

 はっきり言って膝が笑っている。

 このままでは埒が明かないだろう。

 というわけで。


「おい、ピッチャー俺に変われ」


 秀星がグラウンドに上がった。

 アレシアが『来夏を連れ出せばいいだけの話なのでは?』とかなんとか言ってるが、無視である。

 部長さんは俺を世界破滅の危機に訪れた救世主を見るような目でグローブと帽子を渡してきた。

 ベンチに戻ると同時に崩れ落ちている。ご苦労さま。


「ほう、秀星が相手か、相手にとって不足はねえな!」

「ちょっとお灸を据えてやるさ」


 ボールの感触を確かめる秀星。


「行くぞ来夏」

「おう、来い!」


 秀星は振りかぶった。

 そして、思いっきり投げる。


「オリャアアアアアア!」


 来夏はバットを振った。

 だが、残念、それはカーブだ。

 秀星は第一球目から変化球で勝負する男である。


「舐めるな!」


 来夏は普通に当ててしまった。

 考えてみれば当然のことなのだが、スキルによって圧倒的な視覚の情報量を持つ来夏に、球速が落ちる変化球で勝てるわけがない。

 と言っても165くらいは出ていると思うのだが。


「甘いぜ秀星。真正面からかかってこい!」


 といっても、普通の部員には今のが変化球だったのかすらわからないくらいのものなので全員が首を傾げているがこれ以上は言わないほうがいいだろう。

 ちなみにさっきのはファールだった。

 誰かがいたような気がしなくもないのだが……まあ騒ぎになっていないので大丈夫だろう。


「なら、行くぞ!」


 再度振りかぶる秀星。

 そして放たれた豪速球。

 来夏は……なんとジャストミートの位置に直撃。

 秀星は『んなアホな』と思いつつ、どこに飛ぶのかを予測。

 上に飛んだ。

 予測どおりの場所に飛んで来たのはいいが、正直怖い。

 グローブで受け止めて、右手を後ろに添えて、なんとか止めた。

 そして頭から地面に墜落しそうになったので、受け身をとって起き上がる。


「ふう……俺の勝ちだ!」


 それと同時に大歓声が巻き起こった。

 悔しそうにしている来夏だが、一応満足しているようである。


 さて……何をしに来たんだったかな。俺たち。

 と、秀星は今更ながら考えるのだった。

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