第二百五十一話
基樹の試験の影響を受けた人間は多いが、それは何も味方だけということはない。
秀星を探るため、学園内部に内通者を仕込んでいるFTRの者たちにとっても、この試験の映像は驚異的なものだった。
そして、才能があふれた者たちも中にはいる。
説明を聞いて、驚愕しながらも確かめてみると、今までの自分たちが苦労してきた以上の成果を得た。
それはそれで悔しいことではあるが、やってみるとすごいのだから仕方がない。
『これを使って、数の暴力で攻め込めば、秀星であっても勝てる』
そう考えるものは多かった。
第一、秀星というのはどれほど強かったとしても一人の魔戦士でしかない。
ならば、かならず隙がある。
その隙を物量作戦で攻めることでむき出しにして、それをどうにかすれば問題はない。
……と考えるのは下級の構成員たちの話である。
当然、上層部に関してはこれ以上のことを考えている。
『この技術に対して天敵と呼べる技術を持っていたらどうするのか』
ということ。
あれほどの大観衆の中で披露した技術だ。
当然、対応策を考えないわけがない。
そもそも、自分たちが何か画期的な技術をノーリターンで完全公開するとなれば、それを軸に敵が作戦を立案した時に、専用の特効策をぶつけてズダボロにするために決まっている。
さすがにここまでフルボッコにされていれば、焼きが回った老害でも学ぶというものだ。
真面目に訓練すればだれにでも手に入る技術といっても過言ではない。
何十年も先の技術を使うということがどういうことなのかよく理解させられる相手だ。
そして、何十年も先の技術ならば、それに対抗するための技術というものは必ず存在する。
この技術が秀星の切り札というわけではないだろうし、それ以上の技術を抱えていることまで考えなければならない。
正直、もうこの時点でお手上げといえばお手上げだが、それでも、自分たちの目的の達成のためには、秀星という存在は邪魔だ。
まあ、仮に『朝森秀星対策部』のようなものを作ったとしても、文字通り時間と金と人材と物資をドブに捨てるようなものなので経理が首を縦に振ることはないだろうが、それでも邪魔なものは邪魔である。
そして、そこまで考えたうえで、どうすればいいのか。ということだ。
正直ここまでコテンパンにされておいて、正面からぶつかって負けたら何番煎じかわからない。
絡め手で行こう。と思うのは当然である。
だが、新しい問題が発生する。
『そもそも弱点あるの?』
ということだ。
人には大体つけ入る隙がある。
どれほど強かったとしても、何とかして人質を取れば、それを盾にしてボコボコにできるかもしれない。
フィクションでは、『当たらなければ意味がない』とかいう状況では『当たっても意味がない』ことが多いので、ボコボコにできるからと言ってダメージが入るかどうかはまた別なのだが、そこまで考えるとどうしようもない。
というわけで、人質にとることができたとしよう。
で、それを秀星に見せて、まあ定番のセリフを言ってボコボコにし始めるとして……本当に人質を盾にし続けることができるのかという問題が出てくる。
はっきり言って転移とかしてくる奴が相手なのに人質を取ってもすぐにお帰りになられるだけである。
ならば、毒だの呪いだの、そういったものを利用し、その回復手段を隠し持つことで解決できるのではないかと一瞬思ったが、そもそも秀星が相手だと毒も呪いも通用しない気がするのだ。
単に神器を使っているだけでなく、魔力に対する知識の深さがここまでの疑念を抱かせる。
人質作戦は即座にゴミ箱にポイされた。
新しい作戦を考える必要があるのだが、正面から行っても人質を使ってもどうにもならない上に、不殺主義者ではないところを考えると、ぶっちゃけ上層部はこれ以上のやばい手段で秀星を怒らせたくはない。
が、邪魔なのだ。
秀星が邪魔ということは、言い換えるなら『計画のためには人体実験をする必要がある』ということだ。
人体実験に対して敏感であり、なおかつどうしようもないと思えるほど強い秀星がいる限り、計画が進まない。
いや、まったく進んでいないわけではないが、肝心な部分が進まない。
FTRにとっての天敵。それが秀星だ。
結論。
『いるかどうかしらないけど勝てる人を外部からスカウトしよう』
これ一択である。




