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第二百四十七話

 単純に素材を手に入れるだけなら別に時間は対して必要がない秀星。

 ノルマのついでとばかりにパッと行ってパッと帰ってきた。


「……まさか雫が図書館に用があるとは思っていなかったな」


 学生寮に戻ってきた秀星だが、その視界の端に、図書館に入って行く雫を見かけた。

 ちょっと気になったので聞いてみることに。


「秀星君。私だってね。勉強してないわけじゃないんだよ?」

「……一夜漬けだよな」

「もちろん」

「じゃあ普段は?」

「勉強と全く関係ない本ばっかり読んでるに決まってるでしょ」

「だろうと思ってたけどな」


 秀星としてはどういえばいいのかわからなくなってきた。

 雫はマイペースである。もちろん秀星もそうだが。


「まあ、今日に関しては美奈ちゃんに呼ばれたんだけどね」

「なるほど」

「秀星君。あんまり美奈ちゃんと会ってないように見えるけど、大丈夫なの?」

「美奈はパーソナルスペースは狭いけど精神的にまだそうでもないから距離感を測りかねてるみたいで、俺の方から来てほしそうな雰囲気を出すまでは放置と言うことにした」

「秀星君ってそう言う女心とかわかるの?」

「氷山の一角くらいならわかる」

「……さすがに全貌は見えないか」

「当たり前だろ」


 女心がそこまで分かる人間がいるのなら世の中苦労しない。


「美奈ちゃん中学三年生だもんね。秀星君はちょっと精神年齢高めだから想像とちょっと違うのかな」

「……精神年齢と肉体年齢の差か」


 ならば、元魔王である基樹は一体どうなるのだろうか。

 少なくとも数万年レベルで『存在』していたはずだが。


「で、俺も混ざっていいのか?」

「勉強道具何も持ってないけどいいの?」

「授業の内容全部わかってるからな」


 雫から拳が飛んできたので体をのけぞらせて回避する秀星。


「ぐぬぬ……私に対する当てつけか!」

「そういうわけじゃないけどな」


 図書館で待ち合わせているという三階に行く。

 本当にいろいろと本があるようだ。

 ぶっちゃけ、魔法で上位鑑定をすれば要約した内容を頭に入れることもできるし、そもそもラノベレベルの文量なら一秒もかからないので、本を読むという作業に対して苦を感じない。

 とはいえ、多くのことを知るという点に関していえば、自宅で自分が持っている神器について考えている方がいいので、娯楽目的以外で本を読むことはほとんどないのだが。


「あ、雫さん!とお兄ちゃん!」


 美奈がとてもかわいらしい笑顔でこちらに手を振った。

 ノートを広げて、三角定規と分度器をもって参考書と格闘中のようだ。すこし頭から湯気が出ているので負けているような気がするが。


「美奈ちゃん。頑張ってるね」

「はい!次のテストで満点をとれるように頑張ってます!」


 秀星は雫が血を吐いたような気がした。

 そんな幻覚が見えた。


「お兄ちゃんは勉強じゃないんですか?」

「俺は授業の内容を全部わかってるからな」


 三角定規が喉に飛んできたので左手で掴む秀星。

 正直怖い。どんな風に育てたんだ我が両親よ。


「ぬうう……持たざる者たちへの当てつけみたいです!」

「その理論だと私も持たざる者に入るということになるんだけど……」

「まあ俺と比べればな」


 雫の拳と美奈の分度器が飛んできたので、右手で拳を受け止めて、左手で分度器を止める秀星。

 この時点でいろいろと人間をやめている。


「で、何処やってるんだ?」

「魔法陣の構築云々ですね」

「……三角定規と分度器だけじゃなくてコンパスもってこないとできないぞ」

「うそーん!」


 筆箱の中を探るが、発見できない美奈。


「まあ、俺の使えよ」

「お兄ちゃんありがとう!……あれ、もってたの?」

「いや、便利な素材が世の中にはあるからな。それを変形させただけだ」

「あ。だからシャーペンの芯が入ってないんだね」

「そういうことだ」


 自分でシャーペンの芯を出してとりつけている美奈。

 そして、ハッと気が付いたように秀星を見る。


「……これって結構すごい技術なの?」

「いや、そうでもないぞ」


 便利にできているので美奈も普通に変形させることはできる。

 納得したのか、作業に入る雫と美奈。


「……?」


 本棚一つの先から唸り声が聞こえてきた。

 秀星は確認する。

 そこでは、本を大量にそばに置いてパソコンに向かって唸る良樹がいた。


「……良樹、何やってるんだ?」

「……ん?秀星か。これか?槙野家は魔法社会の名家で、周りから『うしろ盾になってくれ』ってことでいろいろ寄付金をもらってるのが一番割合の高い収入なんだが、そうして入って来る金の管理が膨大だからな。それでいてケチな奴が多いから、俺も頭をひねって動いておかないと親族に絞られるんだよ」

「結構闇を抱えてるんだな。しかもそれなりに家族全員が魔法の鍛錬をしているみたいだな」

「名家だからな。最低限、鍛錬をしておかないと周りから舐められる。才能だけで胡坐をかいても、それが技術化されたら俺達は不要になるからな。常に上の技術を見つけるために訓練だってしっかりしてるんだ」

「本音は?」

「乳母が怖い」

「素直でよろしい」


 パソコンの画面は見えない位置で座る秀星。


「それにしても、わざわざ図書館を使って頭をひねるのはどうなんだ?」

「俺は報告書類はメールに添付ファイルを付ける派だが、実際に情報を集める時は活字メディアだ」

「なるほど」


 そこまで言うのなら、メリットやデメリットも本人は理解しているだろう。


「それにしても、寄付金が基本収入とはな」

「大体名家はそんなものだ。トップクラスになると、当主の人脈は相当なものになるから、寄付金が中心になる。まあ、寄付というよりはカツアゲみたいなことをしているところもないわけじゃないが……」

「槙野家はそうじゃないのか?」

「親父も乳母が怖い」


 乳母さん強すぎ。


「苦労してるんだな」

「親父も苦労してるからな。トップクラスの名家ではあるが、才能と言う点に関しては周りと比べて若干落ちてるんだ」

「オマケに親父を除いて親族が実質敵か」

「そうだ。はっきり言ってストレスがたまる」

「だからあんな態度だったわけか」

「舐められない態度っていうのは必要だが、ストレスまでため込むとああなるということだ。荒療治で治ったが」

「よかったな」

「良い笑顔で言うのやめろ」


 秀星をジト目で見る良樹。


「とはいえ、このあたりの金の回りがおかしいからな。現金で積んできやがって……倉庫が持たないんだよ全く」

「……思えば、あまりにも金額が高いところでも現金払いのところがあるよな。ぶっちゃけ需要あるのか?」

「表社会の方で言えば確かに円はドルに及ばないが、魔法社会で見れば、円が大量にほしい連中は多いからな」

「そこまで……あ、高齢者たちか」

「ああ。今だに老人たちはカードなんて使いたがらないし。数年前に出来たものを渡しても最新のものが来たと勘違いしてるやつが多いんだ。魔法社会では特に」

「ふむ……」

「回収は大変だが、債権に関しては企業が買い支えてるみたいだな。新川グループだったか?」

「ああ。あそこね」


 魔法社会でトップに立ってる五人の内の一人だったはずだ。


「そんなわけだから、魔法社会の会計としてはそれなりに円を刷ってるんだ。魔法社会では動く金額がバカみたいに多いから、表社会のほうで出ているデータ通りの印刷枚数だと足りない」

「なるほどねぇ」


 思っていたより大変だ。


「で、秀星は何をしに来たんだ?」

「俺は単なる付き添いでここに来た」

「あっそう」


 会話終了。と言った空気になった。

 言葉で交わす以上の情報がお互いの中にあるので、これ以上の会話が必要なくなったのである。

 話しかけておいてなんだが、良樹の方は時間が足りなさそうということもある。


「じゃあまた」

「ああ」


 秀星は雫と美奈の方に戻って行った。


(名家ねぇ……)

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