第二百四十二話
「ダンジョンのモンスターって弱いな」
「元魔王が何言ってんの?」
ジュピター・スクールにおいて、生徒会だとか風紀委員のような役職についていない生徒は、必ず素材集めのノルマが発生する。
そのノルマを前提にしてジュピター・スクールは様々な企業と交渉しているそうだ。
他の学校ならまた違ったものになるそうだが、ジュピター・スクールでは、平日は大体このノルマで拘束される。
とはいえ、ノルマを設定したり、過程を評価しなかったりと、成果主義なのがよくわかる学校だが、強者からすればそんなノルマなど暇つぶしにもならない。
「いや、なんだろうな。経験しないだろ?ダンジョンのモンスターって」
「自然界のモンスターは違うけどなぁ」
そういいながら二百ミリリットルの牛乳をチューっと飲んでいる秀星。
ダンジョンの話をしているが、すでにそのノルマは終わったのである。
「戦闘のたびにリセットされ、ダンジョンの中で人が死ぬごとにラスボスまでの道が大きく再構成されて難易度が上がる。というのが通常のダンジョンだが、まあ、学校の施設として管理する以上はそれくらいがちょうどいいのか?」
「それなりに大きいダンジョンは時間経過で内部構造が変わるからな。ダンジョンの中じゃなくても、幻惑魔法を使って内部状況を再現できなくはないが、あんまり意味ないんだよね」
内部構造の変化に慣れることはできても、モンスターとの戦闘はあまり良い影響はない。
絶対に死なないとわかっている敵の討伐など、訓練にはならない。
「とはいえ、勘違いしたところで後悔するのは本人だけだ」
「それもそうだけどな」
牛乳を飲み終わった秀星。
パックを折りたたむと、近くのゴミ箱に手裏剣のように投げ入れた。
「……器用だな」
「できないのか?」
「牛乳パックでゴミ箱を破壊することはできるぞ」
「なんで魔力を纏わせるんだ……」
文化の違いというか常識の差を感じる秀星。
「いや、異世界でやったことがあってな」
「うん」
「投げたと思ったらカラスがさらっていった」
「すごいなそのカラス」
魔王が投げたパックをどうやってさらっていったのだろうか。
少なくとも普通にカラスではないだろう。
「で、この学校は何か厄介ごとに巻き込まれているのか?」
「ん?」
「いや、飛行機でここに来るとき、黒いドラゴンを見かけたからな。睨んで追っ払っておいたが」
「さすが元魔王」
秀星も可能だがしんどい手段である。
第一、睨むだけで追っ払う場合、敵側の洞察力が低いと全然効かないのだ。
素人に差などわからないのである。
「しかし、ドラゴンを追っ払うなんてなぁ。どんなドラゴンだった?」
「あんな感じだ」
「ん?」
秀星は基樹が指差す方向を見る。
全長四十メートルくらいでやたら光沢のある黒いドラゴンがいた。
「こりゃまたなんの面白味もないドラゴンだなぁ」
「何をどう進化したら面白味のあるドラゴンになるのか知りたいところだ」
「そりゃあれだ。ギャグ漫画とかなら永遠におならを繰り返すドラゴンとかいるだろ」
「もう少し真っ当な進化を求めるべきだな。というか、すでにギャグみたいなゴリラがいるんだからこれ以上変な動物など勘弁してくれ」
「元魔王でも来夏は異常なのか……」
「いや、なんだろうな。すごい奴なんて言うのは異世界でもいるんだよ。だがな、そいつらは『種族的な狂気』とでもいうのか?そういう『納得はできないけどわかりやすいもの』なんだが……」
「頭のネジが外れているというより、頭がネジ以外の何かで止まっているような奴は見たことがない。ということか」
「簡単に言ってしまうとそうなる」
……。
「ただ、あの沙耶という娘。かなり遺伝子を継いでいるぞ」
「それは俺も思う」
「秀星はほしいか?あんな娘」
「苦労しそうだなぁ」
「というか、子供がいるんだから当然夫もいるわけか。どんな奴だ?」
「ちょっと中性的な顔の男性だ」
「うわー……詰んでるな」
「世の中には勇者っているけどさ。俺はそういう男こそ勇者なんじゃないかって思うよ」
「そうだな。俺をギリギリで倒したあの勇者……あいつは女だったが、男だったら聞いてみたい。来夏を嫁に欲しいか?とな」
「なんて答えるんだろうな」
「神にもわからんと思うぞ」
……グルル。
「ていうか、基樹ってあんなにステータス下げられても勇者と戦えるんだな」
「所詮人間だからな。全種族トップの俺が簡単に負けるはずがないだろう」
「でも負けたんだよな」
「スタミナまで最低まで下げやがって。あれがなかったら絶対に勝ってたぞ」
「勇者弱いな」
「当たり前だろ。魔王は勝ち続けるのが仕事。勇者は一度でいいから倒すのが仕事だ。経験と覚悟の重さが違う」
「だよなぁ。RPGでもそんな感じだし」
「実際やってみるとわかるが、あれ魔王視点だとただの地獄だぞ。俺なら絶対に回復キャラを滅多打ちにする」
「それただのクソゲーじゃん」
「だって普通だろ。後方支援がないとまともに戦えないのに横一列に並んでるんだぞ。なんであんな陣形なんだ」
「知らん」
……グルルルル。
「あとあれだな。魔王って二回攻撃だろ?」
「ボスキャラは大体そうだな」
「主人公側が四人いるんだから四回攻撃でいいだろ」
「マゾすぎるわ!」
「だって魔王だぞ。なんで普通のボスキャラと同じ枠にぶち込まれなきゃならんのだ!」
「魔王が四回攻撃とか鬼畜すぎるわ!」
「だって魔王のレベルって一定なのに、主人公側は最大レベルまで上げてから突撃できるんだぞ。明らかに不公平だろうが!」
「元魔王だからってRPGのラスボスに肩入れしすぎだろ。で、実際にやったそうだな。どうだった?」
「最大レベルまで上げたら俺が命令する必要すらなかった」
「そりゃそうだろうよ」
……グルル……グスン。
「話をもどそうか。来夏の話だったな」
「ああ。そうだな」
……シクシク……モウカエル。
「しっかし、なんであんな遺伝子になったんだ?」
「ムキムキのライオンみたいな魔戦士がいるんだが、そいつを見た瞬間に、でかいおならをしたら鍛え始めたらしい」
「いったいどんなガスを抱えていたんだ?」
「知らん」
「そのガスを解析できたら完全な淑女というものを理解できる気がする」
「あー……その考えはなかったな」
まだまだ止まらない二人の会話。
そのそばで、少し、羽音が響いたそうな……。
★
「フフフ。あの最新型のドラゴンなら、いくらジュピター・スクールといえど……お、メールか。ええと……『無視されて悲しくなって帰ってきたみたいです』……デリケートすぎるだろ!」
納富清治は、部下からのメールで驚愕するのだった。




