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第二百三十八話

「秀星君。今日は朝から何をしてたの?」


 四日目の朝。

 恭太を警備員に引き渡した秀星は、屋上で風香と話していた。


「ん?ああ、偵察しに来ていたやつがいたから適当にボコッて警備員に渡しておいただけだ」

「……秀星君って仕事が早いんだね」

「向こうが時期尚早とか言ってられないから結果的にこっちも早くなっただけなんだけどな」


 実際に警備員に突きつけるまでの速さはともかく、気が付く速度でいえば『警報』の神器を持つミラベルのほうが断然早いだろう。

 まあそこは、神器を十個持つゆえの差というものだ。


「それにしても、結構速いね……いや、二週間しかないと考えると普通なのかな」

「そういうことだ」


 時間制限というのはいつでも人に取り巻くものだ。

 回避する手段は基本的にはない。

 そしてそれが極端に短いのは、『学生が絡むイレギュラー』である。

 そもそも二週間も離れるという状況そのものが高校生にとってはあまりないものだ。

 魔法社会に生きる学校としてもそれは変わらない。


「どんな敵が出てきても、とりあえず秀星君がいれば大丈夫だと思えばなんだか安心できるね」

「あまり手柄を取りすぎても問題はあるけどな」


 秀星を完璧に戦闘員としてとらえていたアースーと同じというわけではないだろう。

 重要なところで私情を挟まないとしても、くだらないところで私情を持ってくる人間は一定するいるものである。

 それはそれなりに誰かに譲っておく必要がある。

 秀星くらいの規格外を呼ぶのならアースーくらいの潔さがほしいものだが、それを求めるのは酷だ。

 トップに立っている五人はともかく、その下にいる人間は余計な我慢が出来そうに感じない。


「あと……見られてるよ」

「わかってる」


 少し声の音量を下げた風香に合わせて、秀星も返答する。

 当然ながら秀星だってわかっている。

 トップの五人だけではないだろう。指揮系統の違いが感じられることもある。

 思ったより多いようだ。

 だからと言って、秀星の底を見ることができるとは思えないが。


「で、風香は何人いると思ってる?」

「……六十三」

「残念。六十四だ。間接的に『無視(64)していてください』って言われてるのかと俺はずっと考えてる」

「そこまで気が利くとは思えないけど」

「俺もそう思ってるけどな」


 無視するとなれば本当に無視するのが秀星である。

 本当にいないものとして扱うので、それはそれでいいのだが、その裏にいるものに予測がつくと考えると少々目障りである。


「多いね」

「全員を察することができる風香もすごいと思うがな」

「私の場合は魔力が見えるし、風魔法使いだから空気からでもわかるから」

「そうか」


 秀星は風香が言う『風魔法』を『魔法』だとは思っていないのだが、そこは置いておくことにした。

 気が付いているから、疑問だからと言って聞くほど事情が分からないやつではない。


「秀星君も風魔法を使ったらいろいろわかると思うよ」

「……風香は俺がそれを使うほど敵が強いって思うか?」

「敵じゃないよね」

「敵じゃないが、味方だからと言ってこそこそしているのがわかったら多少は気分が悪くなるもんだ。そう思うだろ?アトム」


 秀星はドアの向こうに隠れているアトムに声をかける。


「……気が付いていたのか」

「もちろん」


 だが、風香は驚いているようだ。


「……全く気が付かなかった」

「まあ、それが普通だと私も思うけどね。秀星君。一応なぜわかったのか聞いておこうか」

「ん?ああ、別にむずかしいことじゃない。俺たちくらいのレベルになると、隠れるときは『気配をなくす』んじゃなくて、『雰囲気に溶け込む』のが重要だってわかるからな」

「ふむ」


 アトムがうなずいた。

 秀星は続ける。


「だから、あたりを俺が発する気配で覆い尽くす。っていうのをオンオフで切り替えていただけだ。『通常の雰囲気』と『俺が発した雰囲気』の内、どちらかに溶け込もうとすれば、雰囲気が切り替わったとき目立つからな」

「なるほど、私は普通の雰囲気に溶け込もうとしたはずだ。だからこそ、君が発する雰囲気に切り替わったとき、本来の雰囲気に溶け込もうとしている私は目立つということだね」

「そこまで分かれば、あとはその本人を探ればいい」


 秀星はいたずらが成功したような目でアトムを見る。


「隠すのがうまいやつっていうのはいるものだが、俺からみて他との違いがはっきり分かるほど隠せる人は限られてる。ほかの人間の技術を本気でまねておけばバレたとしても誤認させることはできるが、正直に隠そうとしているんだからわかりやすかったぞ」

「勉強になるね」

「だろ?」


 ここで風香が首をかしげる。


「まあまずその、雰囲気をオンオフで切り替えるっていうのが私はよくわからないんだけど……」

「口では説明できん」

「私もできないね」


 アトムもできないとは言わないが、難しい話である。


「ちなみに、風香がわからなかった六十四人目がアトムだからな」

「え、そうなの?」

「当然だろ。アトムだって、さっきから俺を見ていた人だったんだから」

「……それもそっか」


 アトムは苦笑する。


「で、アトムは何をしに来たんだ?どうせ最初からバレるだろうなって思ってたんだろ?」

「どんな手段で見破るのかを試したのは事実だけどね。本題に入ろう。秀星君。君が使っていた基礎魔法の完成形のような、勢力図をひっくり返すような技術の露見はこれからは避けてほしい。ということだ」

「まだ劇薬はいっぱいあるんだが、止めておいたほうがいいか、まあそもそもあの基礎魔法の技術がその程度の影響しかない時点で、俺は期待してないよ」

「まだあの技術には秘密があるのか?」

「誰かが気が付くと思うけどな」


 言葉にするなら『すでに手遅れ』である。

 と思ったとき、チャイムが鳴った。


「あ。もうそろそろ授業だね。私は先に戻ってるから」


 風香はそういうと、屋上から出て行った。

 風香がいなくなったところで、秀星はアトムのほうを見る。


「それにしても、政府直下パーティーのリーダーに、意思決定機関議長、名家筆頭に、最大財閥、最高学府の生徒会長か。ずいぶんと豪華なメンバーだな」

「!?」


 アトムは本気で驚愕したようだった。

 それもそのはず。

 そもそもトップの五人だが、そもそも五人だという情報すら、上層部にも存在しないのだ。

 あくまでも『会議』の直結機関として暗部がいたりするが、その暗部だって五人の顔も名前も知らない。

 なんとなく察することはできても、確信している者はいない。

 そしてその隠蔽には神器も多数からんでいて、セフィアシステムでも無理がある。


 アトムとしては、秀星が、自分がその中の一人であることはなんとなく察していると思ったが、全員がわかっているとは想定外だったようだ。


「忠誠心のある部下。確かにそれはいいもんだが、俺からすればそんな『揺らがないもの』を持っている奴なんてカモと同じだ。あいつらは全員、アトムたちに忠誠を抱いて、そして自らが裏切っているなんて微塵も思わずに、俺の手駒に成り下がってるよ」

「……人心掌握。ということか」

「俺が暴れすぎて最近しっかり動いてないから焼きが回ったんじゃないのか?もうちょっと気を引き締めることをお勧めするよ」


 そういうと、秀星も屋上を後にした。

 秀星は四日目の朝にして、このメイガスフロントにおいて、下から上まで、すべてに焼きを入れたといってもいい。

 これで何かが変わるのなら期待する。

 これで何もわからないのなら見限る。

 それだけのことだ。

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