第二百三十話
――やりすぎた。
秀星はそう思った。
ちょっと本気を出してしまうと相手が確実に死んでしまう場合、相手を傷つけない攻撃に関しては全力で遊べるというのが性質の悪い強者の特権というものである。
「すまなかった。雑魚とか、クズとか言ったことは撤回する。本当にすまなかった」
才能があるとかないとか、そう言うのは関係なく、爆撃されたのは本当にトラウマになったようだ。
心を粉微塵にしたわけである。
あれほど取り巻きをそばにおいて傲慢な態度だったのに、一人で頭を下げてきた。
(……まあ、さすがに雑魚だとかクズだとか言ったままにしておきたくなかったってことか)
まさか九十度体を曲げて誤ってくるとは思っていなかった。
「俺はもう気にしてないけど、本当に理不尽な奴が敵になった場合、あれが自分に当たるから覚えておくといいぞ」
ただでさえ青かった顔が白くなる良樹。
「……よく覚えておく」
「見かけで判断しないようにな。ハムスターの皮を被った巨大ムカデみたいなモンスターが実際にいるくらいだからな」
「わかってる。もうこんなのはこりごりだ」
「よろしい」
良樹は部屋を出ていった。
「それにしても、あんなにへこんじゃうなんてね」
「だが、今のは私でもやりすぎだと思うぞ」
「憧れる余地すらなく『恐怖』を与えてたもんね」
「さすがにあれはヤバいですよ」
雫、羽計、風香、エイミーからの評価としては『明らかにやりすぎ』だった。当然である。
「まあでも、これでなめたことをしてくるやつはいなくなるだろ。絡まれるのは片付けるのは簡単でも相手だとするのは面倒だからな」
「ズルしてるって言われるんじゃないの?」
「したところで悪いことなんてない。忘れたのか?魔戦士の仕事はモンスターを倒して魔石と素材を回収する『貢献』なんだ。エンターテイナーじゃないし、そもそも致死性がなければ何をしてもいだなんて言ったのは向こうだろ?」
全て事実である。
「まあ、もともと秀星君は私達よりも高い次元にいるからね!」
「次元が高いというより、外側にいるような気がするのですが……」
我が事のように喜ぶ雫と、首を傾げるエイミー。
とはいえ、こればかりは少数精鋭と言われる剣の精鋭と同じレベルに来ないとわからないものだ。
「とはいっても、槙野良樹だったか?魔法の発動に関して言えばすごい実力だな」
「秀星君から見てもそう思うの?」
「一番最初に炎の玉を出したとき、通常のファイア・ボールよりも大きかっただろ?あれは評価できる」
「うーん……確かに、私や風魔法を使うけど、やれと言われてすぐにはできないね」
「魔法陣は脳内の演算領域で出来上がる。そして、同じく演算領域にある魔力の保存機能を制御している部分に信号を送って、その魔法に必要な魔力が変換されて、魔法は発動するんだ。で、あのタイミングで威力を増幅させようとすると、魔法陣を構築する段階で『威力設定』をフリーな状態にして、そこから変換機能を手動で動かす必要がある。魔法陣をいじることはできても、この変換機能を手動でいじるのが難しいんだ」
「本来自動で行われていることをマニュアル操作する必要がありますからね……」
エイミーが苦笑している。
だが、すぐに表情が変わった。
「でも、それを使えば、魔力の無変換技術が使われている状態でも、正常に魔法を使えるのでは?」
「エイミーが何を勘違いしているのかはわかった。実際できないよ。俺があのとき言った技術は、プラスとマイナスの変換そのものを無効にするという言うことだ」
「なるほど、かなり面倒だね」
「だが、無駄じゃないぞ。実際、魔力の自動変換を無効にする魔法は存在する。その状況なら、手動で使えることに意味がある。あと、自動変換無力化はいうほど難しくない」
「そうなの?」
「ああ。魔力そのものに干渉するのが俺が授業中に言った技術だ。だが、こっちは単なる体の中の機能だからな」
人間の動きは神経に支配され、その神経は電気に支配されている。
デリケートな構造だが、コントロールできれば、支配権を無意識領域から意識領域に変換できるのだ。
「体の構造は複雑だからな。意外とゴニョゴニョしやすいんだよ」
ゴニョゴニョってなんだ。とは、少女たちは聞かなかった。




