第二十三話
準備期間は終了。どんどんペースを上げていきます。
ぶっちゃけぼく個人としてもくどいと思ってた……。
運搬システムと言うのは重要性が上がると異様に整えられるもので、魔力を運搬するシステムはもうすでに確立している。
秀星は一応、本部に行くようにしているが、長居はしない。
ただ、『剣の精鋭』に入っていることは知らずに、魔力が多いことだけを知っている人間からたまに勧誘されることもあるが、剣の精鋭の名前を出すと引いてくれる。
来夏が怖いのだろうか。
アレシアが面倒なのだろうか。
羽計がうるさくなりそうなのだろうか。
優奈が何をしでかすかわからないのだろうか。
いろいろ原因は考えられるだろう。
美咲に関してはどうなるのかわからないが、虎の方が分からん。
触らぬ神に祟りなし。無関係であることが一番問題ない。
最近は、そんな日常だった。
★
「秀星君。評議会の任務に参加したって聞いたけど、大丈夫なの?」
「問題はなかったぞ」
秀星が任務に参加したと聞いて心配になった風香は、屋上に秀星を呼び出して話していた。
評議会の任務と言うのは、確かに細かい分類が一応できるくらいには様々だが、それでも、高ランクのチームに入って秀星がどうにかできるレベルだとは思っていなかった。
ただし、呼び出した秀星を見ても、たいしたことのないバイトから帰ってきたような、そんな印象を受ける。
魔力が極端に多くなった日から、以前との違いを認識し始めていたが、ちょっとずつパズルのピースを集めていたのがいきなり意味のないものに変わったような気がする。
少なくとも、風香にとっても非日常的なことが連続して起こっているような気がするのだ。
「やっていたことって言っても、最近は間引きとか、その他もろもろって感じだしな。そこまでつらいものではないし」
そうぼやく秀星だが、実際のところはいろいろやっているのだ。
そして、その任務内容を風香は知っている。
間引きだけならまだいい。
百歩譲っているが、まだいい。
ただ、小さな犯罪組織ならかなり相手にしているはずだ。
魔法社会にいる者達にとって、魔法を使わない犯罪組織は大した脅威とは言えないのだが、それでも、人を相手にすると言うことがどういうことなのか、風香だって知らないわけではない。
秀星は、簡単にそれらをこなしている。
(慣れている感じがするけど……)
ただ、慣れというのは必ず時間を必要とするものだ。
一体どこで?と言う話になるのだが。
「でも、いきなりプラチナランクのチームに入ったんでしょ?」
「半ば勧誘されたような感じだけどな。ただ、どういう雰囲気なのかなんて、俺に聞くんじゃなくて試しに行ってみれば分かると思うぞ。九重市支部の場所を知らないわけじゃないだろ」
「それはそうだけど……」
特にそこまで興味がなさそうな雰囲気の秀星。
言っていることは確かに間違ってはいない。
八代家としてのコネもあるので、おそらく、いろいろ聞こうと思えば聞けるだろう。
だが、風香はそういうものだとは思っていなかった。
とはいえ、この会話の雰囲気は、本人が本当のことを言っているのにこちらが認めていないだけのような気がする。
それに、秀星のようなケースは前例がないわけではない。ということもあるが。
「……わかった。ちょっと行ってみる」
どうせ本人からは特に何かを聞けるわけでもない。
ならば、風香としても行ってみる方が早いだろう。
有言実行、迅速果断。ということで、行ってみる方が早い。
★
評議会の支部は基本的に、認識阻害の結界が存在する。
しかし、この認識阻害の結界そのものも、あまりコストパフォーマンスがいいとは言えないもので、そこまで数が多くないのが現状である。
九重市に設置するだけの何かがあったのか、それは不明だが、とにかくあるということだけは事実なのだ。
「え……」
そんな九重市支部だが、実はちょっとしたビルのような大きさになっている。
といっても、周りにそんな建物が多いので、逆に小さな建物を作ると目立つということもあるが。
「うそでしょ……」
支部にやって来た風香の目に映ったのは、倒壊する建物、感情なく動き回る魔導兵たちだった。
どこからどうみても、明らかに襲撃されている。
さらにいえば、何をどう考えても過剰戦力だった。
「とにかく、何とかしないと……」
何をするべきなのかは風香にもよくわからない。
ただ、このままでは非常にまずいということも確かである。
かなり大量に配備されている魔導兵だが、おそらく、ヒョロ眼鏡が使っていたものと同じだ。
若干新しくなっているような雰囲気はあるが。
風香は札をとりだして、それに魔力を流し込むと、刀に変わる。
そして、出入り口あたりで門番をしている一つの魔導兵に斬りかかった。
魔導兵はこちらに気が付くと、胸のパーツを開けて銃口を見せてくる。
「邪魔!」
走りながら、刀を引き絞るように構える。
風が集まり始めた。
「旋風刃・鬼道一閃!」
突きを放ちながら突撃する。
銃口から放たれた銃弾は、風香のそばに集まる『質量感のある風』によって風香に届くことはない。
そのまま魔導兵の胸を貫き、コアを砕いた。
「刀のランクを上げておいて助かった」
魔導兵から刀を抜いて、建物の中に入って行く風香。
自動ドアが壊れているので、そのまま蹴り破って中に入る。
中は数多くの機能が停止しているようだ。
周りから見ても建物が壊れているのが分かるほどだったので当たり前と言えば当たり前だが、電気がついていないし、いたるところにひびが入っている。
「大広間がある。ここに集まってるのかな」
案内板を見てそう判断する風香。
いずれにせよ、ここには研究員がいたはずだ。
それらを捕らえて一箇所においておくためには、それなりに広いスペースで、なおかつ、設備的に何もないような部屋が必要になる。
丁度一階にある。
風香は頷くと、その場所に向かって走って行った。
途中で魔導兵が何体かいたが、門番よりも型が古いのか、銃口を急に向けてくるようなこともなく、一撃で破壊していく。
(あまり良い配置は見えないけど……あまりこういうのに指揮官が慣れていないのかな?)
そんなことを思考の隅の方においておくとして、大広間についた。
ドアが吹き飛んでいるので、少しだけ開けて覗くとかそういう話ではすでにない。
壁に背を当てて、少しだけ中を見て状況を確認する。
白衣を着た研究員のような人達が手錠で拘束されており、その周りで、大量の魔導兵が待機している。
そして、どこかで見たことがあるようなヒョロ眼鏡がいた。というか該当者が一人しかいないが。
「フフフ。九重市支部の制圧は完了した。あとは、大量の魔力を持つ朝森秀星を捕獲すれば、ミッションコンプリートですね」
ペラペラしゃべってくれて助かる。
膨大な魔力を持つ秀星を狙っている組織は多い。
というより、評議会としても隠しておくはずだったのだが、周辺組織が騒ぐものだから制御が利かなかったのだ。
順風満帆の未来が見えた人間は自重しないものである。
「魔導兵は約二十。門番や、ここに来るまでにいた魔導兵よりも最新式みたいだね」
外見からは分かりにくいのだが、風香は漏れ出ている魔力を認識することが出来る。
それを基に視ると、大体の情報が分かるのだ。
さらに言えば、前回襲われた時にいろいろと魔導兵の情報を確認したので、そういう部分は良く分かる。
「どうみても、私が到達するより彼らが銃口を向ける方が早い」
ならば、遅らせればいいだけだ。
人のように動くが、人ではなく魔装具だ。
魔力の供給が鈍れば、その分だけ動きが遅くなる。
風香は札を四枚ほどとりだすと、魔力を流し込んで、それを一気に部屋に投げ込んだ。
そしてその三秒後。風香も中に走りだす。
「む……貴様は八代風香!」
ヒョロ眼鏡が気が付いたようだが、風香がそれを気にしている時間はない。
一体の魔導兵のそばに到達し、力の限りにコアをついた。
前に襲撃された情報をもとにすれば、彼らのコアは頑丈な素材で護られている。
変に躊躇すれば、その瞬間こちらに隙ができる。
ならば、一撃必殺のつもりでやるのが一番。
「ハッ!」
刀そのものを付与魔法で強化して、コアごと貫く。
「な……最新式の魔導兵のコアを……」
ヒョロ眼鏡が驚いているところを見ると、どうやら、破壊されるのは想定外のようだ。
とはいえ、魔導兵とはいうものの、前回は装備のランクが足りなかっただけだ。
無論、自分たちの実力不足もあるにはあるが、それでも、装備のランクが上がれば対応できるレベルも上がる。
風香が現在使っているのは、本来の風香の装備を無理矢理携帯できるようにしたものである。
力技がいくつか必要だったが、完成したので問題はない。
(驚いている今なら……)
さらに刀を振るって、二機のコアを破壊する。
「ぬ……これ以上はさせるか!……なんだ?うまく魔力が……」
自動化に胡坐を掛いた弊害である。
自分でどういう構造なのかを理解していないので、少しハプニングがあると対応できないのだ。
(さっきまでの魔導兵とは違う。こっちは、若干マニュアル操作が必要になるみたい)
頭の中で魔導兵の情報を更新していって、魔導兵をつき壊していく風香。
魔力の流れが悪くなり、入力したタイミングと実際の行動にあるタイミングが違ってくる以上、対応はほぼ不可能だろう。
稼げる時間はまだもう少しある。
もっというと、あの札の効力がもうすぐ切れる。
(あと一体!)
斬り続けていた風香は、最後の一体に視線を向ける。
そしてその瞬間、札の効力が切れた。
「ぬ……人質に銃口を向けなさい!」
最後の魔導兵が、拘束されている研究員たちに向かって銃口を向けた。
(マズい!)
そっちに意識が向かないように幻術まで並列で行っていたはずなのだが、何故かあまり効いていない。
魔導兵が銃口を向けて……。
「ハアッ!」
天井をぶち破って入って来た羽計が振りおろした剣が頭から魔導兵を両断した。
「羽計さん!」
「む?お前か」
羽計は風香に気が付いたようだ。
すると、このタイミングでヒョロ眼鏡が割りこんでくる。
「またあなた達ですか。本当に我々の邪魔をしてくれますね」
「知らん。第一、前回はお前の方が狙ってきたのだろう」
「フン!そんなことはいいのですよ」
ヒョロ眼鏡は白衣のポケットの中にあるスイッチを押したようだ。
すると、部屋の出入り口から男たちが入って来る。
三人だ。
見た感じ、一人がリーダーで、二人はその取り巻きと言った感じだろう。
リーダーの男は紫色の髪を伸ばした長身で、実力のあふれるオーラを身にまとっていた。
背に吊っている黒い剣が何とも禍々しい。
取り巻き二人は、二人とも魔法使いのようだが、指輪の魔装具で補っているタイプのようだ。恰好はチンピラだが。
「フッフッフ。第二ラウンド開始ですよ」
そしてそんな中で微笑むヒョロ眼鏡。
あの三人の強さはよくわからない。
だが、魔導兵よりも確実に強いのは確か。
風香は気を入れ直すことにした。