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第二百二十七話

 スケジュール管理がいい加減すぎるだろ!

 と秀星は叫びたかった。

 というか実際に叫んだ。

 その理由はもちろんある。


 学校にきて、この学校での注意事項を聞いた後、机の中に入っていた教科書一式を使って実際に授業をすることになった。

 学校の勉強ではなく、実際に魔法についての授業なのでみんなやる気である。

 秀星たちが住む九重市には魔法関係の塾や訓練施設が存在しないのだ。

 魔法社会の名家である風香や、もともとこの学校にいた羽計はともかく、他の生徒はこういうのが初めてなのだ。

 秀星は異世界で学校に潜入していたことがあるのである程度分かっているが、それでも、地球式の授業はわからない。

 ので、正直楽しみにしていた。


 問題なのは、授業開始十分後のことだ。

 なんと、先生が放送で呼ばれたのである。

 しかも、外せない相手ということで、先生はなんと秀星を先生役に任命して教室を出て行ってしまった。


 で、現在。


「えーと……『体内で生成された魔力は心臓でため込まれて血液とともに体内を巡回している』……魔力が血液と混ざれるほど体積と質量があったら俺の体重はアフリカゾウを超えとるわ!」


 自分が読み上げた文章にツッコミを入れて教科書を教壇にたたきつける秀星。

 とまあ、こんな感じだ。


「あの、秀星君。実際にはどうなってるの?」

「魔力は常に体積と重量がマイナスになって体内に存在する」

「……?」


 雫が聞いてきたので秀星は答えるが、誰もわかっていない。


「……そもそも、魔力の生成と貯蔵の話がこの教科書では全然わかってない」

「どんな手順になってるの?」

「まず、普通に生成される」


 秀星は風香の質問に対して、黒板に長く真横に線を書いて、線の上側にマグネットを五つ貼り付ける。


「あ、この真横に引いた線だけど、これがプラスとマイナスの境界線みたいなもんだ」

「……実際には存在してないのか?」


 羽計が聞いて来る。

 が、秀星は首を横に振った。


「『存在してない』だと『ゼロ』だ。それよりも小さい状態みたいな感じだな。言葉にすると『存在していないモノよりも短く』『存在していないモノよりも軽い』みたいなわけのわからんことを説明することになるからおいておくけど」

「はあ、マイナスにねぇ……」


 訳の分からん話だが、それでも楽しそうなので若干ギリギリで聞いているような感じだ。


「……まあそもそも、マイナスって言う概念そのものが、それがあった方が計算が楽だからって言う部分もあるだろ。そう言うレベルの話をしてしまえば、虚数も存在価値は変わらん。ていうか、それを言い始めると『(ゼロ)』だって昔はなかったからな……話がそれた」


 と言うよりさっきからそんな感じだが。

 自分の考え方や知識を出そうとしているのだと思いながら振り返ってみると、まだまだ自分は子供だと思い始めてくるのだから惨めなものである。


「で、生成された魔力って言うのは、その境界線を通ってマイナスの領域になる。ただ、この状態になって来ると物理的な意味では干渉できないから、生成した本人とは魔力的なつながりしかないわけだ。だからこそ、俺達はマイナスだとかそういうわけが分からなくなった状態の魔力でも使える」

「なら、それを使うときはマイナスからプラスに戻るのか?」

「そういうことだ。ちなみに」


 秀星は黒板の線の上にある五つのマグネットの内、四つを線の下まで下げる。

 だが、一つはおいておいた。


「このマイナスに変換するというものだが、変換力が個人で異なる。生成したすべての魔力を貯蔵できるって訳じゃない。もちろん、変換力が高ければ高いほど大量の魔力をため込むことができるし、変換力が生成力を上回っている場合、生成した魔力を全てためることが出来る」

「ため込むことができなかった魔力はどうなるんだ?」


 クラスメイトの視線が残ったマグネットを見る。

 秀星は頷いた。


「二つのパターンだな。人間や動物なら体の外から出ていって、モンスターなら体内に混ざる」

「人間の体は魔力に適してないの?」

「あくまでもため込むことに関してはそうなる。モンスターの場合は内臓レベルで魔力に近い場合があるから問題はないけど」


 そういうものなのだ。というより、これ以上のことが知りたいというのなら深淵を除くことになるので止めておきたい。


「まとめると、魔力そのものが『生成』されて、マイナスに『変換』されて、やっと『貯蔵』されるわけだ。わかったか?」


 クラスメイトからの反応は『なんとなく』と言った感じだった。


「その貯蔵って、体のどこなんだ?」

「ぶっちゃけ全体だな。漏れ出てこないような構造になってる」

「……その構造の話って長くなる?」

「もちろん」


 基本の時点で教えることが出来る項目が多すぎる。


「だったら、なんでこの教科書を書いた人は、そんな風に予測したのかな」


 雫が呟いた。

 全員が『そう言えば』と言いたそうな表情になる。


「マイナス領域に入った魔力を観測することができるスキルはそれなりにあるが、スキルっていうのはほとんど、機能はわかっても構造がわからないことは多くある」


 もっとも身近でいうと来夏の『悪魔の瞳(ラプラス・アイズ)』だ。

 とはいえ、見えているといっても、本当にみているだけだ。

 人は理解できない数学の問題を見たとしてもその答えがわかるはずがない。


「で、体の全体に魔力があるが、たぶんマイナス領域のものだと理解せずに見ていたんだろうな。で、体の構造で、最も体内を巡回しているのだと分かりやすいものといえば『血液』で、基準となるのが心臓だと思ったんだろう」

「……血液とほぼ同化してるって考えたってこと?」


 風香が聞いてくるが、秀星としてはうなずくしかない。


「じゃないのか?」

「血液は骨髄で作られるのですが……」

「あれ、そうだったっけ?」

「……」


 エイミーの指摘に疑問符を浮かべる雫。

 秀星はスルーした。はっきり言って教師失格だが、秀星は気にしない。


「まあとにかく、そう判断できる何かがあって、それが原因でこんな阿呆なことが書かれてるってことだ」

「じゃあ、世間で言われてる才能が、実は根本的に間違えてる可能性もあるよね」

「世の中大体そんなもんです。ただ、これだけは覚えておくといいっていう構造がある」


 秀星は線の上に放置していたマグネットをとって回収した後、線の下にある四つのマグネットのうち、一つだけを上にあげた。


「このマグネットの例だと、魔力生成量の八割を変換している。要するに『変換効率八割』になるわけだ。

だが、これはプラスからマイナスになる時だけであって、別にマイナスからプラスになるときも同じというわけではない。むしろ大きく下がる」

「……じゃあ、生成できる量と比較すると、一度に使える魔力っていうのはかなり小さいんだね」

「そういうことだ。このマグネットの例だと、魔力生成量と比べて二割くらいまでの規模までしか魔力を同時に使うことができない。ということになる」


 雫がそれを聞いて、教科書をぱらぱらとめくっている。


「……あ、『魔法の発動は魔法名を発声、もしくは強く意識することで、体内の魔力を動かすことで発動する』って書いてる」

「別に間違ってるわけじゃない。そういう操作方法も実際にある。俺が言ってることも教科書に書かれてることも変わりはない」


 そこまで説明したとき、風香が気が付いた。


「ねえ、ちょっと待って。魔力って、マイナスからプラスに変換されないと魔法には使えないんだよね」

「厳密には、魔力に関係する技術すべてだな」

「じゃあ……なんらかの影響で、『魔力がマイナスからプラスに変換されない状態』になったら……」

「当然のことだが、一切使用できない」


 教室の空気が凍った。

 根本的なことを知る。

 それはとても重要で、理不尽なことだ。


「ちなみに、プラスからマイナスへの変換を禁止する魔法もあるし、両方を同時にかける魔法もある。プラスからマイナスに変換されないってことは、魔力がたまらないってことになるから、体内に残っている魔力だけでどうにかする必要があるし、マイナスからプラスに変換できないってことは、さっき言った通り、魔力を使った技術が使えないってことになる」

「でも、空気中にある魔力を使えば……」

「無理だ。なぜなら、『空気中にある魔力を使う』ためには『体内の魔力を使う』必要があるからだ。第一、人の言葉にいちいち空気中の魔力が反応していたら、世の中は災害であふれてるよ」


 風香が言う『空気中の魔力を使う』というのは、厳密には『体内の一の魔力』を使って、『体外の十の魔力』を使うというものになる。

 そのため、マイナスからプラスに変換されない場合は適用されない。


「風香が言う技術は、魔法具で代用できる。だが、その場合も同じだ。使えない結果に変わりはない」

「……」


 教室の空気が凍りついた。


「あんまり言いふらさないほうがいいぞ。革命が起きるからな」

「わ、わかった」


 秀星は、まだ言ってないことがある。

 それは、モンスターの内臓が魔力によって動いているということだ。

 本来は細胞分裂を繰り返しながらも機能しているそれらが、モンスターの場合は魔力で代用されている。

 要するに、モンスターに対して無変換技術を使うと、即座に心停止して簡単に死んでしまうのだ。

 心臓が動かなくとも生きることができるモンスターはいても、魔力すら使えずに動くことができるモンスターはいない。

 だからこそ、秀星はどんなモンスターが現れたとしても恐れたりはしない。

 この技術を知っている自分が、モンスターにとって天敵であると知っているから。


(まあ、何事にも例外はあるけどな)


 秀星は、自分の中にある十個の力を思い浮かべて、そう考えた。

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