第二百十八話
研究意欲は低いが勤労意欲はある。というのは転ずれば、職務上の訓練に対する意気込みは平均すると高いということでもある。
秀星たちが進んでいる間に、危険がないと判断した公安の回収班たちが拠点で防衛していた者たちを収容車両に突っ込んでいた。
そのため、歩いて戻る彼らの周りには誰もいないし、会話を聞くものはいない。
「で……リアン。さっきの戦闘だけど、俺の言葉にどれほどの嘘があったと思う?」
「え?」
秀星から質問に、リアンは一瞬、何を聞かれているのかが理解できなかった。
「……いくつか嘘があったんですか?」
「そのとおりだ。というか、いくら規格外だからってそれはないだろって言える部分はいくらでもある」
秀星は確かに威圧したというのは間違いない。
だが、別にちょっと細工しただけというのは流石にない。
「吹っ飛んだのは、俺が隠れて付与魔法を使って跳躍力を上げた。ちょっとだけ神経も操作させてもらったがな。あいつがリミッターが吹き飛ぶほど全力を出したとか、それでも勝てないから後ろに飛んだとか、あの件は全部嘘だよ」
「な……え、でも、それでも凄いですよね」
「はっきり言っていろいろなことを無駄遣いしているけどな」
確かに秀星は規格外と呼べるほど強いかもしれないが、弱点というより、つけ入る部分が全くないということではない。
最初から全力を出さざるをえない敵だってもしかしたらいるかもしれない。
そんなレベルだ。まあ誰でもそうだが。
「じゃあ、なんであんなことを?」
だが、言い換えるならば、あの隻眼の男に関しては、普通に戦って勝つこともできる。
言葉を使うことなく、無駄な技術を使うこともなく、ただ純粋に実力の差があるのだから当然。
「確かにできたよ。ただ、ああいったわけのわからないことをするやつっていうのは、実は俺だけじゃない。リアンはスキルの都合上、ソロで戦うことが多いだろ。そういった頭のおかしい洗脳じみたことをされたとき、どこからどこまでがハッタリなのか、それを考える必要がある。まあ、いずれにしても敵は余裕があるだろうし、撤退を視野に入れるのが手っ取り早いが、逃げられないときは戦うしかないからな」
「それもそうですね……そういえば、あの男と戦ったとき、メモリーバイトで記憶を奪えなかったんですけど……」
「そんなこともあるだろ。そもそも、汎用性があるのが魔法で、特化しているのがスキルだしな。超能力はその間にあるけど、広義の上だと全部変わらんし」
「……そうなんですか?」
「そうだよ。それに、ちょっといじればスキルの特化性を操作できるし、それは魔法も同じだ」
口をあんぐりと開けているリアン。
「じゃあ、僕も頑張ったら、メモリーバイトを制御できるようになるんですか?」
「リアンのスキルの詳細はわからんが……可能性はゼロじゃない。いや、ゼロなのかどうかがまだわからないっていうのが正しいな」
魔法だのスキルだのといろいろあるが、これが魔力技術という視点で見るときりがなくなるほどだ。
それほど汎用性があるので、一概に確定できないときが多い。
「秀星さんはすごいですね」
「誰かがいずれ気がつくことを今知っているだけだがな」
「なら……魔法があるゆえの恐ろしさっていうのはあるんですか?」
「当然いろいろあるよ。まあ、その中の一つを選ぶとすれば……」
秀星は少し考えたあと、つぶやく。
「死んだあとでも復讐できることじゃね?別に難しいとは思わないな」




