第二百十五話
現在書き溜め中の小説を投降してしまって申し訳ないです。
遠距離攻撃手段を持つものが上半身を狙い、近距離攻撃手段を持つものが下半身を狙う。という、十四歳が考えるにしては現実的な手段で拠点を制圧したアリアナ。
しかし、ミラベルとデイビットはその比ではなかった。
部屋の中に閃光手榴弾を投げ込んで目を潰し、睡眠薬が入った霧を生み出す魔法で思考能力を奪い、最後にかかと落としを脳天にぶち込んだ。
ぶっちゃけ魔法国家だが魔法関係ない。
その時の周りの隊員からの問いに対する返答だが。
ミラベルの方は『新人時代にデイビットさんが言っていましたので』
デイビットの方は『楽だからいいだろ』
とのこと。
私情を挟まず淡々と進めるのかと思っていたら、かなりの部分が私情だった。
そのことにげんなりした隊員たちだが、人はロマンだとか見栄えを求めなければ大体こんなふうに楽に終わるのだ。
ならば、これから自分たちが気にするのはこの先のことである。
そんな感じで、効率重視、と言う点のみを優先した拠点制圧は完了である。
★
アレシアはレイピアを握りながら扉を見つめる。
わずかなぶれも許されない技術を練習してきて、それをまだ使うほどのものではなかったが、ここからは分からない。
「行きましょう」
扉を開けるアレシア。
それに対して、公安メンバーは何を言えばいいのかわからなかった。
出番がなかったのだ。
遠距離攻撃においてすさまじい実力を持つアレシア。
秀星を出会ってからいろいろと聞いたこともあるだろうが、まず知識の段階でかなり強くなっている。
王族として真面目に、地味に、堅実に積み上げている強さ。
経験だけで言えば一番足りないだろうが、それをものともしない才能に恵まれたことも含めて、公安メンバーたちはアレシアの戦闘に入ることすらできなかった。
アレシアとしても自分一人でどこまでやれるのかが気になっていたこともあって、もう何とも言え無い状況になっている。
だが、ここから先は何となく違う気がする。
アレシアはそう思うのだ。
アレシアは扉を開けて、中に入る。
そこにいたのは、一体のドラゴン。
全長三十メートルほどで、真っ黒の鱗を持っている。
「……このドラゴン。特徴をどこかで聞いたことがあるような」
自分で言っておいて気が付いた。
このドラゴンが、人間を生贄にして使用される召喚結晶で生み出されたドラゴンだと。
秀星が言うには人間に戻す方法もあるらしい。
ただ、あの規格外な秀星が自分に押し付ける以上、もうそれとは関係のないものなのだと推測する。
「……行きます」
レイピアを引き絞って、一閃。
心臓があると推測される場所に斬撃の衝突音が響くが、あまり効いた様子はない。
(なら、これで……)
アレシアはレイピアに付与魔法をかける。
そして、連続で同じ場所をついた。
先ほどよりも削れやすくなっている。
「!」
ドラゴンも驚いたようだ。
アレシアがやったことは単純で、レイピアに防御力低下の付与をかけただけである。
アレシアの超能力は『射程距離』という制限がなくなる。というもの。
前提が大きく異なるが銃と同じだ。
ならば、単純にレイピアの振り方だけを考えるのではなく、付与魔法をはじめとした小細工だっていろいろ出来る。
そもそも……レイピアである必要性も低いのだが、それは今は置いておこう。
「逃がしませんよ」
大きな体だが、そもそも生物である以上は急所が必ずある。
そう言う箇所の情報は頭に常にいれている。
持ちだせる選択肢が多ければ多いほどいいのは当然だ。
とはいえ、単純に近づいて斬る。というのも、敵の攻撃を全て封殺したうえで繰り返すのならそれはそれで一つの『技』と言えるだけのものになるが、アレシアはそういう領域には立てないし、もとから目指していない。
「GUOOOOOOOOOO!」
ドラゴンも、アレシアとの勝負は基本が遠距離だと考えたのだろう。
まるで光線とも呼べるブレスを放出してくる。
アレシアは付与魔法で跳躍力を強化する。
そして、空中にいながら突きを五回。
全て心臓があると推測される場所に当たった。
ドラゴンはすごくいやそうな顔をしている。
もともと、ドラゴンの討伐となれば、その方法は限られる。
ドラゴンは当然飛翔能力を持っている(なんで室内で呼んだ……)ので、遠距離攻撃で翼を狙って飛翔能力を奪い、そして高度を下げることで一網打尽にするのだ。
ただし、ドラゴンとしては負けるかもしれない場所で戦い続ける意味はないのだから、プライドが高いものを除けば大体逃げられるのだが。
だが、アレシアの方法はそれとは全く違うものだ。
まあ屋内なのでそもそも跳べないことは置いておくとして、何かと精度が高い。
そもそも……そんじょそこらの防御力低下付与の魔法など、このクラスのドラゴンになれば自動で無効化している。
簡単に言えば効かないのだ。
魔法耐性が高いのでそれが普通なのである。
だからこそ、一般的なものが相手なら付与魔法など使わない。
「削るところから始めるのは多くの方と同じ。ただし、その速度は早いですよ」
セオリー通り。
ただし、技術があるものがセオリーに従った場合、その成果は大きくなる。
今のアレシアはそのようなものだ。
ちなみに、天井を破壊することはこのドラゴンにはできない。
そうなるように召喚されている。
結果的に、もうすでに、アレシアのテリトリーにいるようなものである。
頑丈な鱗も、肉も、骨も、いずれは鎧としての性能を失っていく。
倒すこと、それだけなら、アレシアには可能な範囲だった。
「新しい技術を使うまでもありませんね」
ただ、一つだけ。
このドラゴン、秀星なら一撃である。




