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第二十一話

 その頃、もう片方のエリアでは、来夏、アレシア、羽計の三人が間引きを……いや、単純に来夏が暴れているだけのような感じになっていた。


「くう~!やっぱりお前はいいなぁ」


 自らの愛剣を見て、来夏はおっさんみたいな感想を吐く。

 それを見ながら、羽計は溜息を吐いていた。


「相変わらずだな。来夏」

「ん?オレが相変わらずと評価されない時なんてあったか?」

「ありませんね」


 来夏の言い分にアレシアは即答する。

 思えばいつも通りである。


「そう言えば聞いていなかったな。来夏、なぜ秀星を『剣の精鋭』に入れようと考えたんだ?」

「来夏が誰かを勧誘するとき、あなたが面白くなると考えたから誘った。と言うのは私もわかっています。なので、その理由を知りたいのです」


 二人から来た質問に、来夏は簡単に答える。


「オレが『視た』感じだけどな。多分アイツ、オレより強いからな」

「何?」


 羽計は、そういいきる来夏に驚いているようだ。

 来夏が言う『視た』というのは、彼女が持つ『スキル』である『悪魔の瞳(ラプラス・アイズ)』のこと。

 スキルとは、評議会の調査によると、『特殊体質』のようなものだ。

 体の中に『存在する』というより、『溶け込んでいる』と表現する方が正しいこの概念。

 先天的、後天的の両方で発生するもので、中には、純粋な『ステータス強化』とも呼べるものが存在する。

 そういった身体能力強化の能力は倍率が高くないのであまり目立たない上に気が付きにくいのだが、何もないところから火や水を出すといった超常現象、表の世界で言われる『超能力者』というのは、こういう存在だと評議会は判断している。


 スキルの多くは、発動プロセスや具現化される効果の内容が完全に決まっている分、融通が利かないものが多い。

 例としては、『白銀狼マクスウェル』だ。

 冷気と熱気の認識能力はかなり高いが、それ以外を認識しようとするとあまりうまくはできない。

 来夏が持つ『悪魔の瞳(ラプラス・アイズ)』は、大ざっぱに言えば『視界に存在する様々なものを視覚情報として認識する』と言うものだ。

 具体的な説明が難しいので割愛するが、相手の強さくらいは簡単に分かるのである。


「秀星さんが、来夏よりも強いのですか?」

「間違いねえ。アイツはオレより強い。真正面から戦ったら、何回やってもオレは負けるだろうな」

「ふむ、その戦力を手に入れるためか?」

「強いやつはいても困らねえしな。アイツはどっちかっつうと他人が決めた流れに乗るタイプだし」


 来夏から見て、羽計も考えているようだ。

 最近、周りの状況変化が急変し続けている。

 秀星は、その流れにずっと乗り続けているのだ。逆らっている感じがしない。

 出会った当初から、様々なことを知っているかのように落ち着いていたが、諦めたような雰囲気を内に秘めている感じがする。


「戦力確保とは言うが、最近、カルマギアスの動きが活発だからな、オレは今の『剣の精鋭』に不満があるわけじゃねえけど、それでも、戦力強化はしておきたかった。流れを作れば勝手に入ってくれるのなら、勧誘は早いもん勝ちだからな」

「だから、私たちのチームの『空気』を見せたわけですね」

「『少数精鋭』っていうのはこういうときも便利なもんだ。ん?」


 金色の毛並みの熊が出てきた。

 しかも三頭。


「こんな変種の熊、いたか?」

「分からん」

「私も初めてみますが、一人一頭というわけで、行きましょうか」


 だが、勝負はほぼ一瞬だった。

 来夏は大剣を振りおろして、ガードしていた腕(あと魔石)ごと一刀両断。

 羽計は、魔法で強化した連撃で翻弄し、最終的には首を落とした。

 アレシアは、超スピードで接近して、レイピアで心臓を貫いた。

 一人一頭。

 それに加えて、変な感想を戦闘に持ち込まないタイプである三人は、気持ちを一瞬で切り替えることが出来る。

 優奈と美咲はまだそのあたりがしっかりできていないので、来夏や羽計とはペースが違う。

 そのため、一番子守りになれているアレシアに任せていることが多いのだが、それはそれとしよう。


「来夏。魔石ごと斬ってどうする」

「いいじゃねえか。砕いても情報を入力できるんだからよ」

「そういう問題ではありませんよ」


 戦闘が終わると同時に、彼女たちはまた口を開く。


「それにしても……オレが視た限り、なんか変だなこいつら」

「変?」

「モンスターが他の領域に流れるパターンはそう多くねえからな」

「エリア同士が離れていることもあり、人目につかないレベルの大きさを持つモンスターが流れることはあります。ですが、ここまで目立つモンスターが今まで発見もされていない。何者かが作為的においた可能性があります」

「カルマギアスの可能性は?」

「他の組織でも不可能じゃねえだろうな。ただ、それなりにコストがかかってる気がする」


 プラチナランクであり、さらに少数精鋭である剣の精鋭は、様々な任務に放り込まれる。

 今回のような新種のモンスターを発見することもあった。

 ただし、今回の場合は数に問題がある。

 そして、本来倒すはずのモンスターにあまり遭遇していない。


「何かやったな」


 変に出しゃばったバカが乱獲するのは珍しいわけではない。

 犯罪組織が密猟するのも、よくあることだ。

 妙なモンスターを送りこむことも、よくあるケースだ。


「ま、報告だけはしっかりするとしますか」

「そうですね」

「うむ。で、どこまで話した?」

「秀星さんを手に入れるということは早い者勝ちであり、私たちの場合は空気を見せることで納得させることが出来る。と言った内容だったかと」

「オレもそんな感じだったと思う。なら、そこから話すか」


 来夏が歩きだしたので、羽計とアレシアもついていく。


「とりあえず、秀星みたいなタイプは、オレたちみたいなチームに入れやすいんだ。もともと全員が女だってことは……関係あるかどうかは知らねえけど」

「そうか」

「気にしている様子はなかったですね」

「だからまあ、その話は置いておくが、おそらくあいつは、心のどこかで、評議会に入ることそのものは決めていたはずだ」

「何故だ?私が最初に誘った時は断っていたぞ」

「最初に断っておけば、全面的に賛同しないって言外に言えるからだろ。ただ、所属しようと考えた理由はおそらく、罠ごと踏み抜くタイプでもあるってことも原因の一つだ」


 その手の人間はどこにでもいる。


「だが、何を求めて評議会に入るんだ?何かメリットが……」

「いや、たぶん秀星は自分のことは全部自分でできるだろ。少なくとも、魔戦士として戦う上でも、誰かの協力を必要とはしないはずだ」

「ならなぜ……」

「メリットがないと分かっていても了承するということは、デメリットの回避。と言うことになりますね」

「そうだ」

「……だが、どんなデメリットがあるんだ?」


 単純に強いといってもジャンルがあることは羽計もわかっているだろう。

 だが、来夏が言いたいことは分からないのだ。


「おそらく、秀星が持つ力そのものだろう」

「力?」

「オレが視た感じ、あいつは鍛えて手に入れたものじゃなくて、勝ち取ったものを使って強くなったみたいだからな。何かしらの試練をクリアした……みたいな感じか」

「要するに……制御ができないということですか?」

「手加減はできるだろうが、1を入力して10の出力が出てしまうようなものが中にはあるはずだ。そう言った力を『自由に使える状況』を嫌っただけだ」


 来夏としても、秀星が持っているそれが何なのかはわからない。

 本人の身に余る力であるかどうかはともかく、想定以上であることは確かだろう。


「なるほど、確かに、何にも所属しない魔戦士はいるが、そう言ったもの達は命令されない代わりに、自分で決める必要があるからな」


 勧誘はされるだろうが、強要はされない。


「ただ、何処にも所属せず、その上で何もしないという選択をすることも可能だろう。デメリットの回避とは言うが、力技でなんとかなる気もするが……」

「ま、そこは秀星の性格の問題だろ。芸人でいう『押すなよ。絶対に押すなよ!』状態っていうか……羽計にはわからんか……」


 首をかしげる羽計を見て、来夏は説明を中断した。

 アレシアが補足する。


「要するに、口ではそう言っていても、実際にはやってほしい。といった雰囲気のことです」

「嫌だと言いながらもやりたそうにしている人間。ということか?」


 概ねそんな感じだ。


「まあ、なんていうんだろう。『組織に所属する』と言うことは、ある意味で保護に入れるってことでもあるからな。組織くらいなら自分で作れるだろうけどそういうタイプじゃないだろうし」


 来夏としても面倒ではあるが、察することはできるので、ネタ部分をスルーしていろいろすることは多い。

 というか、活発に見えてツンデレの雰囲気がある優奈がそんな感じだった。

 羽計も、真面目で理性的な部分と本心がごっちゃになることがある。

 美咲も、今では言いたいことを言えるが、会った時はそうではなかった。

 面倒な奴を引っ張るのに来夏は慣れているのだ。悲しい経験である。

 同性であるなら、一緒のベッドで抱きしめて寝れば大体どうにかなる。

 秀星はぶっちゃけ簡単だった。

 来夏から見ても女は面倒な部分はあるが、男はバカなので操作しやすい部分がある。

 とはいえ、男がバカでなければ世界が回らないのも事実なのだが。


「だから、『流れに乗れる状況』に乗っかりたかった。だからこそ、『自由である』ことよりも、『命令される立場』であることを望んだってとこだろ。評議会は、最も大きな流れに乗れる組織だ。というより、それくらい大きくないと、『堤防』が簡単に決壊する」


 組織というのは常に、抱えきれる限界が存在する。

 秀星が手加減すればいいだけの話かもしれないが、それでも、大きな組織ゆえに解決できることも多い。

 不正があろうとなかろうと、暗黙の了解の範囲であれば組織は続くだろう。

 評議会が秀星を抱えきれるかどうかは別だが、だからと言って他に選択肢はない。

 だからこそ、とも言える。


「だが、それなら、隠れ続けることを徹底すればいいのでは?」

「強すぎる奴は良く油断するからボロが出るんだよ。魔力量に関していえば、八代風香経由で情報が来たんだろ?」

「……それもそうだな」


 ただし、まじめにやると世界が耐えきれないので、大雑把にやるしかないのだが、そうすると徹底できないのでボロが出る。その連鎖である。


「オレは、アイツはただ単に魔力の多いだけで、普通の高校生であるということしか聞いていなかったが、見てみりゃわかる。あれは相当に厄介だぞ」

「剣の精鋭で抱えて行けるのか?」

「できるんじゃねえの?」


 来夏は予測している。

 自分たちがまだ知らない。秀星に対して『助言を行える者』が存在することを。


「ま、別に問題が出てくるわけじゃねえだろ。秀星も、流れに乗ることを望んでいるみたいだからな」

「ただ、世界が用意した堤防を壊さないように、自分で流れを調節する必要がありそうですけど」

「……私にはよく分からんが、秀星が本気を出すつもりがないということは分かった」

「今のところはそんな感じでいいんじゃねえの?」


 本気を出すつもりがないのは分かったが、その状況が多くの者にとって都合がいいと言うのなら、それは悪いことにはならない。


「ただ問題なのが、秀星はおそらく、今オレが言ったことを自覚してないってことなんだよな」

「どういうことですか?」

「オレはよく視れば、精神状態だとかある程度の思考を認識できるんだが……そういうことを考えている訳じゃなさそうだったぜ」


 何があったのかはわからない。

 ただ、秀星が勝ち取って手に入れた『何か』によって、彼の『絶対価値観(アイデンティティ)』に変化があった。

 先ほど来夏が説明したのは、そういうレベルの話であって、彼が普段から認識するレベルの話をしている訳ではない。


(あとは……なんだろうな。うまく説明できない感覚だが、世界そのものが、秀星が動くことを望んでいるみたいだ)


 来夏はそう考える。

 とはいえ、それをアレシアと羽計に言ってもよく分からないだろう。


「ま、今は小難しいことは置いておこうぜ。どうせ、大きな命令をするのは組織(うえ)だからな」

「そうですね」

「今は任務を遂行する。それでいいか」


 問題と言うのは、スケールの大きさによって、改善プランが長くなるものだ。

 どうでもいいものを放っておくとあとで困るが、どうしようもないものをすぐに解決することは不可能である。

 三人は、それを知っているのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] あんまり尊敬は出来ないタイプのヒーローかな?主人公ううむ。この場合何か魅力があった方が没入できそうなんだが。
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