第二百八話
アリアナは自分の前に立つ公安のメンバーの援護だった。
もとより、彼女はライフルを持つ援護射撃型の魔戦士である。
明日まで分かる未来予知、とはいっても、自分に関係することしかわからないという限定的なものだ。
基本的に、誰がどういう状況なのかが分かるので、手のかからない子として育ってきている。
ただし、アレシアには通用しなかったり、アーロンは通用するかどうかを選んでくると言うわけの分からないものだったが、とにかく、何も知らないものからすれば面倒な能力であることに変わりはない。
未来予知という力を使った戦闘手段と言うものにはいろいろあるが、要するに自分の基礎能力を上げれば上げるほど選択肢が増えるということだ。
勝てる道がないのであればそもそも乗らなければいいだけの話で、勝てる道があるのならそれをすればいい。
ただし、未来予知の力は自分が理解できる範囲に及ぶ。
要するに……秀星を相手にするとなった場合の勝ち筋は全く見えなかったわけだが、それでもいろいろ教えてもらうことはできる。
もとより、知識を貪欲に集めれば勝てる場合が多いので秀星にだっていろいろ聞くのだ。
ただ……罠だらけであっても何も通用しないというのは、何とも嫌なものだが。
「よっ!」
弾丸をブッパして、壁にあったパネルを粉々にする。
すると、近くにあったドアが開いた。
「……あれって破壊しても入れるんですね」
「そうですね」
カードキーがあれば一発なのだが、当然そんなものはない。
ただ、ここまで容赦なくぶっ壊せるのにも理由はある。
アリアナの予知能力は、すでに行動した後が分かるのだ。
知識と言うのはあくまでも解析材料であり、行動後の結果判定は超能力の機能として備わっている。
ドアの中に入ると、様々な機材があった。
アリアナは頷いた。
ドパンドパンバキバキガシャンガシャンドガアアアアアアン
容赦などなかった。
しかも最後には手榴弾を投げた。
公安のメンバーが絶句している中、部屋で弾丸をばらまくアリアナ。
大人びた印象のあるアレシアとは違って幼いイメージがあったのだが、ここまで破壊衝動があったとなるとドン引きである。
ちなみに秀星の場合はもっと徹底的にやるのだがそれは置いておく。
「よし、次に行きましょう!」
満面の笑みでそういうアリアナ。
公安のメンバーは、逆らったらやばそうと思うのだった。
ただ、実際問題、アリアナは強い。
どんな戦闘員が来たとしても、敵がしたいことをさせずに、味方がやりたいことをやらせる。
司令塔と言うよりは縁の下の力持ちと言った力を発揮し続けるその能力は、後ろを任せるのには心強い。
というより、公安のメンバーは最初、アリアナが弱い分類に入ると思っていた。
厳密には、自分たちの仕事に付いてこられる実力はなく、十四歳として強い分類に入ると思っていた。と言えるだろう。
体力もしっかり作っており、それなりに走っているがばてる様子はない。
ライフルを背負っているので荷物の重量としてはアリアナが一番重いのだが、それを意に介していない。
そして、未来予知のおかげで、敵が出てきたときに一番戦闘準備完了が早いのはアリアナだ。
麻酔弾といえ、ようしゃなくライフルで狙い撃てる教育と言うものが十四歳の王族に対して正しいのかどうかはともかく、現場の人間から見ても悪くはない。
のだが……。
(やばいやばいやばいやばい!初めての潜入捜査。めちゃくちゃ緊張する!)
当の本人の心臓はバクバクだった。
テンションがハイになっており、表面上、少なくとも意識できる範囲では取り繕っているが、無意識領域ではヤバいことになっている。
そもそも、任務に出ることはほとんどない。
エインズワース王国の王家として訓練も受けているし、超能力の性能も向上させてきた。
だが、実戦はほとんどない。
訓練と言っても、あの多種多様な空間を作れる部屋で行ったことがある程度。
潜入捜査に向いている能力だということは知識で知っていても、実際にそれを活かすとなると心臓がヤバい。
(お兄様やお姉様、お父様はこんな状態でもいつも頑張っていたのですね……)
最初の一回で慣れるであろう三人を例に挙げるアリアナ。
よくアレシアにいたずらをするが、さすがに神経までは太くないようだ。
とはいえ、このあたりで一度、しっかりとした経験を積んでおくのは重要なことである。
(はぁ、精進しないと。ですね)
頼れる大人が周りにいるのだが、素直に頼れないのは子供だからだろう。
本来周りが察して温かい目で見守るはずの状況が、うまくかみ合っていないのであった。




