第二百六話
秀星の説明を聞いたことで、どういうものなのかを把握することが出来たのは事実。
しかし、実際に見ないと分からないもので、テレビ電話を使って実際に解錠魔法を使って飛び込む。
周りからは消えたように見えるだろうが、当然そんなことはない。
秀星の視界には真っ白な素材で作られた内部が見えている。
そして、そんな秀星の様子を見て、ほかのメンバーも納得したのか、入っていったようだ。
「外から見ればあんなもやもやだったのに、中に入ると広そうですね」
秀星の後ろから歩いてついて来るリアンがそうつぶやいた。
「だな。大体こういうのは、魔力が多ければ多いほどそれをぶち込んで何とかするってパターンが多いし、必然的に広くなる」
「力技ですね」
「脳筋魔法使いが多いんだろ」
「魔法使いなのに脳筋……」
秀星の夢のない言葉に呆れるリアン。
とはいっても、世の中はそんなものだ。
才能があれば確かに高威力・広範囲の魔法を使うことはできる。
しかし、それしか使わないのであればそれは脳筋だろう。
とにかくぶっ壊せそうなハンマーを振りおろせばいいとかそういう思考とほとんど変わらない。
「しかし……案外まともな奴もいたようだ」
「え?」
「敵さんがこっちに来てる」
感覚神経が優れている秀星の方が遠くからの足音を感知できる。
秀星とリアン以外の誰も廊下にいないうえに足音がよく響く素材で床が作られているが、それでも、秀星の方が遠くの音を聞きとれる。
「全く足音が聞こえません」
「そりゃ足音が立ちにくい素材で靴とか作ってるからだろ」
地の利というのはそれも含めるのだ。
ちなみに、そんな素材を靴を履いているのに遠くから来ているのが分かるのは、単純に秀星が拠点に入ってから魔力を周囲に出して反響させ、それを感知しているからだ。
「直接戦闘ばかり考えるのは悪いことじゃないが、まだまだだな」
「……精進します」
「素直でよろしい」
話は終わり。
角から誰かがこちらをうかがっている。
「いるのは分かってるぞ。『ホーミング・バレット』」
魔方陣が出現して弾丸が飛んでいく。
角を曲がっていった。
そして、何かに直撃するような音と『ハウッ!』というちょっとどこに当たったのか表現してはいけないような感じの声が聞こえた。
「秀星さんって鬼畜ですね」
「何を今更。行くぞ」
角を曲がってみると、ムキムキでラバースーツを着た男が内股で近くの部屋に入って行った。
なんというか、誰も幸せになれない光景である。
「入ってみるか」
「罠だと思いますけど」
「俺もそう思ってるよ」
秀星は扉に手をかける。
鍵がかかっていた。
「なるほど、ぶち抜いて入って来たところを袋叩きにする作戦か」
「どうするんですか?」
「まあやれるもんならやってみろって話だ」
秀星はドアを蹴り破った。
中では二十人ほどのラバースーツ男が待機していた。
こちらに掌を向けている。
そして、それを秀星が認識した瞬間、彼らは魔法を使って来た。
様々な種類の魔法である。
が、そんじょそこらでは秀星には通用しない。
秀星は蹴り破ったドアを魔法で強化。
振り回して魔法を全て叩き潰す。
全員が『!?』となった。リアンも。
「『パライズ・グラウンド』」
地面に魔方陣が出現。
スタンガンを使ったかのように、彼らに電流が流れ始めた。
悲鳴を上げてどさどさ倒れる男たち。
「……秀星さんって無茶苦茶ですね」
「だな。ふざけていてもまだ加減が足りないくらいだし」
とはいえ、ここには用はない。
全員を縄で縛っておいて、希少性が低そうな機械にドアを振りおろす。
機材の破壊も任務の一つだ。
「え、ドアで壊すんですか?」
「うん。こう言った拠点では確実に現地調達できるから」
「そりゃそうですけど……」
納得いかなさそうな表情のリアン。
気持ちが分からなくもないが、ネタにでも走らないと正直つまらないというのが秀星の思考である。
「さて、次行くか」
「はい」
部屋を出てドアを引きずりながら先に進む秀星。
リアンは少し他人のフリをしたくなったが、やるだけ無駄だと思ってあきらめることにした。
そしてドントコすすむ秀星。
角を曲がると、今度は廊下に集団が待っていた。
彼らは『よし来た!ってえっ、ドア!?』という表情だった。
リアンとしてはよくわかるし、秀星もぶっちゃけ分かっているがあえて何も言わない。
「どうしたんだ。こっちは侵入者なんだ。さっさとかかって来るといい」
男たちは余裕そうな秀星を見て、手の平をこちらに向ける。
秀星はドアの面に左手で魔方陣を付与した。
明らかに何かを仕掛けて来ると判断した男たちが魔法を放つ。
だが、秀星はドアを持ち直すと、上の辺を男たちに向けた。
そして、魔方陣を叩く。
すると、上の辺の一部から魔法の弾丸が次々と出てきて、魔法をぶっ壊していく。
ついでに、男たちを麻痺させて戦闘不能にしていった。
「……あの、なんですかそれ」
「……『ドア銃』だな」
「それの元ネタって部屋のドアじゃないですよね」
「日曜の朝っぱらからドアを振り回す警察官とか俺は見たくないな」
「……ところで、それってリロードできるんですか?」
「できないに決まってるだろ」
当然とばかりに断言する秀星。
これでは救われるものも救われない。
とはいえ、長居は無用。
秀星は男たちを縄で縛って先に進む。
そしてさらにドントコ進むと、今度は今までよりもムキムキ感が増した男が立っていた。
「FTRのプロテインって実は高性能なのか?」
「さあ……」
疑問に思う秀星だが、リアンとしては反応に困る。
すると、その男は笑い始めた。
「ハッハッハ!一体どこのコソ泥が入ってきたのかと思えば、ここまで大物だったとはな。しかし、そんな貧弱装備で乗りこんでくるとは、正気を疑うぞ」
そういう男だが、リアンとしてはドアを引きずっている少年に対して何の追及もないところに正気を疑う。
「まあ、俺が来た時点で過剰戦力みたいなものだから、別に対した装備はいらないのさ。で、アンタは強いのか?」
「フン!この強靭な肉体を見れば分かるだろう。試しに一発撃ちこんでみるといい。私にはそれが通用しないことを教えてやろう」
「なるほど」
秀星はオールマジック・タブレットを起動させる。
魔方陣が出現して、緑色に輝いた。
「『永久脱毛光線』!」
「うおおおおおお!?」
男は魔方陣から放射された閃光を全力で避けた。
それに対して秀星はわざとらしく首をかしげる。
「どうしたんだ?ただのビタミン供給光線なんだが」
「……そんな魔法、使うことあるんですか?」
「四年か五年に一回くらいかな」
そもそも秀星が異世界にいたのは五年間なので使っていたとしても一回である。
男は息を整えながら立ち上がる。
そして黒髪のオールバックを触ってちゃんと髪があるか確認していた。
「あー焦った。下らんことをするんじゃない!」
「いやでも、本来の魔法名とは違う魔法を使うのはよくあることだろ。『髪の毛チリチリ』とか言っておいて頭に注意を向けさせておいて膝カックンとか、やらない?」
「「やらない」」
どうやら味方はいないようだ。最初から分かっていたが。
そもそも、今日の秀星は盛大にネタに走りたい気分なのだ。重要任務中なのにふざけた奴である。
「さて、別にどうでもいいからさっさと倒すか」
「フン!私のこの強靭な肉体には……」
「『ポイズン・ボム』」
男はぶっ倒れた。
「さて、行くか」
「何でこうなるんですかね……」
リアンはげんなりしていた。
それはそれとしてドントコ進んでいる。
「そう言えば、秀星さんってどうやって強くなったんですか?」
「どうした急に」
「いえ……羨ましいなって思って」
「まあ、スキルから考えてリアンは評価されにくいからなぁ。俺の場合は……強いものを手にいれた。それだけだ」
「え?」
「強くなる方法は二種類。今の自分を伸ばすか、本来身の丈に合わないものを制御するか。そのどっちかだよ。俺は後者だ」
神器は確かに使うだけならデメリットないのだが、最初は思うような出力になってくれない。
そのため、制御である。
「一気に強くなるのであれば、制御の方がいい。だが、制御するってことは、本来の『性能』があるってことだから、限界が決まる。代わりに、成長を選ぶ場合、どこまでだって強くなれる」
「……」
「とはいっても、どちらかを重視するとしても、どっちかしかやらないっていうのは逆に不可能だから、そのあたりは考えないとな」
「じゃあ、秀星さんは、限界を決めたってことですか?」
「そこにたどり着くまでの道が長いんだ。だから、まだ俺は強くなれるよ」
「僕も強くなれますか?」
「限界って言うのは多分、どんな時でも決まってるんだ。でも、今いる場所が限界って訳じゃない。だから、人はそれを可能性って言うんだ」
リアンはまだ、『メモリーバイト』がどれほど強いものなのか、どれほど評価されるものなのかを知らない。
だからこそ、まだまだ先がある。
「さてと……ん?」
秀星はあることに気が付いて、リアンをつき飛ばす。
後ろに立っていたリアンは尻餅をついた。
「え……」
リアンが驚いた瞬間、秀星とリアンはシャッターで分断された。
秀星は下を見る。
そこには床がない。
完璧に落とし穴だ。
……まあ、秀星は飛べるのだが。
(やれやれ、やっとか。乱数で管理されてる罠って言うのは面倒だな)
秀星はそんなことを思いながら、穴の下に下がっていった。
(さて、言いたいことは言っておいたし、後は、リアンがどれほど頑張れるか見てみるとしますか)
秀星は穴の下。というより別の階まで来て、そんなことを考えるのだった。




