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第二百二話

「あれって……拠点につながってるんですか?」

「可能性あるだろ」


 普通に見ただけでは全く分からない場合でも、魔力的にそれを認識することが出来れば分かる場合もある。

 さらに言えば、湖の上などわざわざ確認する人はあまりいない。

 その別空間に拠点を作るという発想すら本来ならぶっ飛んでいる。と考えれば当然だろう。


「なら、このまま乗りこんだ方が……」

「いや、それは止めておいた方がいいと思うぞ」

「どうしてですか?」

「おそらく、元凶になりそうなものがある。が、このままだと手柄をごっそり奪うことになるからな」


 秀星は基本、こう言った裏でごそごそやる時は一人でやる。

 指示を出すとしてもセフィアにしか出さない。

 そうすれば、誰かと組まないことになるので一人で最後まで納得できるのだが、今はチームとして動いている。


 リアンも単独で任務を遂行するタイミングが多いからだろう。報告する以上に真っ先に向かうことを選ぼうとしている。

 よほど緊急でなければそれは必要ではない。


(まあ俺も、もうそろそろ夏休みが終わるから速めにケリを付けたいけどな)


 内心でそのようなことを考えながら秀星はリアンの方を見る。

 手柄をごっそり奪うことになる。という言い分を聞いて、とりあえず報告して全員で向かうことを察したリアンの表情は悪い。

 もちろん、誰かと一緒になった時、リアンだけが評価されない。ということは秀星も理解している。

 このまま乗りこめば、秀星とリアンだけで拠点を壊滅させた。という情報だけが残るため、リアンが評価されるのだ。

 だが、それは秀星ほどリアンがまだ先を見ることができていないだけである。


「俺が言う『手柄を奪う』っていうのは、今も探しているであろう『別の拠点の場所』についての話だ。俺とリアンがいれば、確かにこの拠点はつぶせる。で、そこに保管されているはずの別の拠点の情報を掴めるだろ。ただな、それだと、今もローラー作戦してる奴らの手柄につながらない。あの拠点を俺達二人で攻めることそのものは文句は言わん。だが、まだその時じゃない」

「そうですか……」

「それと……多分あの拠点にいるやつは、俺の予想だと相当の実力者だ。ぶっちゃけ、リアンでも勝てるかどうかわからんぞ」

「!?」


 目に見えてわかるほど表情を変えるリアン。

 無論、彼は格上と戦ったことが無いわけではない。

 むしろ、格上を相手にとって、時間稼ぎをすることで記憶と言う情報を奪い、そして糧にして生きてきた。

 敵にとっては、弱点だと認識したことが次の瞬間には改善されているという意味不明な状況になる。

 だからこそ、格上でも勝ってきたし、格下なら勝利も当然だ。

 しかし、秀星の予想と、魔力だまりから分かる部分からの判断では、この先の拠点にいるのは、秀星はともかくリアンには荷が重い相手だ。


「リアン。お前は今まで、強いやつとは戦ってきたが、勝てない相手と戦ったことはないはずだ。『相手が強くても勝てる』って自然と思いこんでる」

「でも、僕は今までずっと……」

「極端な話、俺に勝てるイメージがあるか?」

「……初見なら」


 なるほど、そういう意見もある。


「そりゃ大きく出たもんだ。だが、確信を持って言えるか?」

「……いえ」

「だろうな。そしてそういうもんだ。リアンは油断も慢心も無く、強者から得られる糧を積み上げて、急激に強くなった。だが、それではまだ立てない領域ってものがある。お前自身に器ができていないからな」

「……調子に乗ってすみません」

「素直でよろしい。それじゃあ戻るぞ。これは……アースーを引っ張りだす案件だ」

「へ、陛下をですか?」

「そうだ」


 他の拠点がどうなっているかは知らないが、秀星の予想ではかなりの奴が相手だ。

 上層部をほとんど引っ張りだす。と言う状況にもなりかねない。

 そしてそれは、秀星以外の者が拠点を発見した場合は分かるはずだ。

 それが分かるような魔法を教えたのだから、それは当然である。


(しかし……俺は本当に、リアンと組んでいるだけだな。確かに誰とも組んだことがないリアンからすれば大きな進歩ではあるが、いまいち俺が教えるのが下手と言うこともあるし……その時その時で必要なことを教えるのはそれなりにできるんだがなぁ)


 秀星はぐちぐちと考える。

 まとめると『参考にならない』というのが朝森秀星と言う男だ。


「強者と言う中ではアースーもいいラインを超えてくるからな」

「はぁ……」


 いまいち納得できていないようだ。

 そしてそれと同時に、秀星は分かった。


「……なあリアン。ひょっとしなくてもお前、アースーよりも自分の方が強いって思ってないか?」

「え……」


 図星だったようだ。

 少なくとも、否定する様子は全くない。

 完全にそうであるかどうかはともかく、どうにかすれば勝てると考えているだろう。


「ま、リアンのスキルがすごいのは俺もわかる。実際すごいからな。そうして得られるもののわりに、剣しか使えないだろ」

「……そうです」


 リアンの方ができていない。

 秀星の見立てからすれば、確かに『メモリーバイト』というスキルは効力が絶大だ。

 しかし、その還元率が悪い。

 油断も慢心も無い。ただ、視野が狭い。


(これは一度負けないと分からないことなんだがなぁ……その負けたうえで納得して受け入れて、そうして立つ領域なんだが、まだ早いかね?)


 実体験が頭をよぎる秀星だが、口には出さない。

 というより、リアンが過去を受け入れるのにためらいがないタイプの人間だとは思えないということもある。


(扱いに困るやつはたまにいるが……ここまで伸び白が面倒な奴も久しぶりに見るなぁ)


 とはいえ、ここで愚痴を言っても仕方がない。

 秀星は拠点の魔力だまりを見る。


(良い教材になってくれることを祈るだけか)


 秀星は視線を戻した。


「一度戻るぞ」

「はい」


 素直について来るリアン。

 ただ、足取りは今までとは、少し違った。

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