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第二十話

 間引きとは言うが、結局のところ、増えすぎたモンスターを適度に倒すことである。

 九重市とはまた違った場所にある森。

 そこが、今回の間引きポイントだ。

 森の入り口あたりで『熊出現・注意』という立札があったのだが、居るのは熊よりも恐ろしい時があるモンスターである。

 なお、下手な魔物よりも野生動物の方が強い。

 人間だって動物の一種だが、モンスターと戦えるだろう。それと同じだ。

 ただし、野生動物故の限界と言うものが存在し、独自の進化を遂げたモンスターの中には天敵になるものもいる。

 そう考えると、人の手で対応する必要が出てくると言うわけだ。


「よーし、到着したな」


 ちなみに、初めてあった時から何時も来夏が着ている、胸に白い聖剣が描かれている赤いブレザーだが、『剣の精鋭』の制服だった。

 鎧を含めた金属装備は着けないが、評議会として正式(魔法社会もある意味裏社会なので正式と言えるのかどうかは微妙だが)に依頼を受けた時にはあれを着ていくらしい。

 通気性も高く、長袖ではあるが夏でも快適なので、来夏はよく着ているらしい。


「来夏、そんな大剣振れるのか?」


 その制服の上に、胸当てやら、サポーターなど、金属装備を付けて、背中には鈍色(にびいろ)の大剣を背負っている来夏。

 刀身の大きさがほぼ来夏の身長と同じである。


「ん?ああ、問題ねえよ。オレの愛剣だからな」

「……さいですか」

「ところで、秀星さんが持っているそれは一体何なのですか?」


 本部で見た時のようなものに似ているが、材質が違うドレスを着たアレシアが聞いて来る。

 腰にはレイピアを吊っている。

 明らかに服装面で防御力が低そうだが……。


「ん?俺が持ってるこれか?」


 秀星は自分の腰に吊っている剣を見る。

 まあ、見たところ、ただのシンプルな剣だ。

 鋼で作られているような見た目である。

 秀星の服装は金属部品がところどころつけられた剣の精鋭の制服だ。

 ちなみに、制服の制作を依頼していた時に業者が言っていたが、『あれ、男の子が入ったんですね』と言われた。

 全然気にしなかったのだが、思えば秀星以外、全員女だった。

 顔面偏差値も高い。ちょっと……いやかなり癖が強いけど。


「何か制限とかいろいろ五月蝿そうだったからな。購入したものは回収されないらしいから、自腹切って買った」


 ということを、明らかに何かをごまかしているかのような表情と雰囲気を出していった。

 アレシアは察してくれた。


「そうですか。分かりました。メンテナンスはしっかりしてくださいね。プラチナランクなので、割引込みで頼めますから」

「覚えておくよ」


 とはいうものの、メンテナンスの必要はないと思っている。

 秀星が持っているのは、『星王剣プレシャス』の『ランクを誤魔化しています状態』である。

 普段は切っ先が紅に染まった銀の長剣だが、別の剣の形にすることが出来る。

 切れ味はそのままで、見た目は鋼の剣なのだ。

 不自然な部分が出てくるだろうが、秀星の方もアルテマセンスがあるので、そこのところは自分で調節すればいいだけのことだ。

 ちなみに、この状態を命名したのはプレシャス本人(本剣?)である。

 ほとんどの神器には意思があり、無意識なコミュニケーションが存在することで、主人が思ったように機能を行使することができるようになっているのだ。

 もうすでに察していると思うが、プレシャスのネーミングセンスは『そのまんま』である。


「とはいえ、今回の任務は大したものではないがな」

「で、羽計、なんで君は『剣の精鋭』の制服そのままなんだ?」

「私はこれがいいと言うだけの話だ」


 羽計は剣の精鋭の制服そのままであり、全くいじっていない。

 ブレザー姿であるため、学校に突入しても何も言われなさそうだ。

 背には真っ黒な両手剣を吊っているので、そのままでは無理か。


「ま、問題ないでしょ。いつもこんな感じだし」


 両腕に籠手を付けて、両足にグリーブを付けて、多数の魔法文字が刻まれている短剣を二本腰に吊った優奈が、両手を腰に当てて言う。

 活発な印象な彼女らしく、上はノースリーブで、下はスカートではなくホットパンツだ。


「羽計さんはいつも通りです。ね。ポチ」

「グルル……」


 いつの間にか、大型の虎に変貌しているポチに乗って、槍を持っている美咲が言う。

 金属装備は防具としては使わず、ポチに乗ったままで戦うために長いものを使うらしい。

 それなら遠距離武器でもいいのでは?と思わなくもないが、狙撃の腕が壊滅的なのだそうだ。

 ポチは普段は小さくなっており、大型の虎になっている今が本来の姿らしい。

 メンバー移動用の大型トラックで猫缶を頬張る姿はほほえましいものだったが、トラックの荷物置き場から槍を持ちだした美咲を見て不穏な何かを感じたと思ったらこの有様である。


「ま、パッパと済ませて帰ろうぜ」


 来夏の言う通りなので、秀星もうなずいた。


 ★


 大剣を持つリーダーの来夏。

 レイピアを持つアレシア。

 両手剣を持つ羽計。

 徒手空拳の優奈。

 虎上で槍を振る美咲。

 それに加わった、長剣を持つ秀星。

 この六人で行くわけだが、『剣の精鋭』は今までは奇数だったが、偶数になったことで分けやすくなったといっていいだろう。


 所有する戦闘手段を考えて分けるとすると、羽計と秀星はほぼ同じで、他の四人は少々違う分類に入る。

 モンスターを倒すと魔石が手に入る。

 ただ、魔石には魔力が存在するのだが、モンスターの情報が多く詰め込まれている魔石を集めても、魔力を大量に集めることはできない。選択肢が無いので今まではそれだったが。

 任務を円滑に遂行するためのツールが存在する。

 魔石を即座に鑑定して、何のモンスターを討伐したのかを遠隔入力するアプリが存在し、評議会所属魔戦士が持つ端末にはすべてインストールされている。

 間引きとはいえ、別に、こまめに連絡をとる必要もないのだ。


 というわけで、うまく分かれることになった。

 二人ずつで分かれるのか、それとも三人ずつで分かれるのか、と言う話だが、討伐予定数から判断して三人ずつというアレシアの判断が採用された。

 話した結果……。


「秀星さん。よろしくです」

「大体はあたしたちに任せておけば問題ないからね!」

「よろしく……」


 秀星は子守りを任されたような気分になった。

 秀星と優奈と美咲の三人。

 ポチも数に入れるとするなら四人となるのだが、それはそれとして、このメンバーで行くことになった。

 ちなみに、普段は二人と三人で分かれて、来夏+羽計、アレシア+優奈+美咲と言った感じに分かれるそうだ。

 何で意図的に子守りを任せるような感じになったのだろうか。

 秀星としては疑問を禁じ得ないのだが、それはもういいと思うことにした。

 きっと考えても無駄である。


「そういえば、あたしたちは何を倒すんだっけ?」


 首をかしげる優奈。

 いつもこんな感じなのだろうか。

 アレシアも休みたかったのだろう。


「俺は全部覚えてるから、モンスターに遭遇したら指示するから安心しろ」

「記憶力がすごいです!」


 目を輝かせながら秀星を見る美咲。

 秀星としても、アルテマセンスがなければ不可能な領域なので、その反応は当然である。


「あ、蜂!」


 美咲が指差した先には、蜂と言うかなんというか、明らかに昆虫の進化過程を無視したような大きさのモンスターがいた。


「討伐対象だ」

「分かったわ」


 次の瞬間、優奈は突撃していた。

 蜂のすぐ下までまっすぐ走った後、腕を振ってジャンプしながら殴りつける。

 蜂は回避するが、優奈は当然それは想定済み。

 近くの枝を蹴って三次元的な動きをしながら蜂を翻弄して、最終的にかかと落としを叩きこんで倒した。


「よしっ!」

(……なんだこの子)


 秀星は、優奈がじゃじゃ馬だとは思っていたが、ここまでパワフルだとは思っていなかった。

 いろいろ考えているうちに、優奈は魔石をとりだして鑑定し、袋の中にいれる。


「ま、こんな感じで集めて、必要数に達したら帰れるわけ。分かった?」

「もし達していなかったら?」

「規定時間までにできなかったことを報告する義務があるわ。この任務の討伐必要数だけど、この数字を決めている人はかなり優秀な人だから、なにかしら原因があると考えるわけよ」


 『なにかしら』ねえ。

 横にいる美咲が補足してくる。


「評議会に所属していない魔戦士が動いていた場合です。でも、その場合は出回っている素材市場を調べると判断できるらしいです」

「もしそこでも数が合わなかったら、何かモンスターが出てきたか、誰かが隠し持っているか……」

「あとは、犯罪組織が確保している可能性も考えられるわ。どんな素材を集めたのかを算出して、計画を予測して、そこから、対応クエストが出るされることもある。とにかく、報告することは重要なのよ」


 言いたいことと、どういうことなのかはわかった。

 モンスターの素材である以上、その市場も裏と言えば裏だが、掟やモラルが存在し、管理されたものはしっかり存在するということなのだろう。

 そういった場所で確認するために、報告する必要があるのだ。

 評議会側は、多少のミスがこちらで発生するとしても、失敗するとは考えていない。

 そうなれば、失敗した原因は、評議会以外のどこかにある。と言うことなのだろう。


「じゃあ、これから狩っていくわよ!」

「……ちなみに、討伐目的ではないモンスターが出てきたらどうするんだ?」

「基本は威嚇して追っ払うわよ」


 あ、結構簡単な感じだったな。

 その時、秀星の索敵範囲内に何かが入った。


「……何か来るな」

「うん」

「え?」


 美咲は何もわかっていないようだが、ポチの方は分かっているようだ。

 出てきたのは……四メートルくらいありそうな熊だ。

 インパクトはある。

 毛並みが金色なのだ。


(自己主張の激しい熊だな……)


 秀星は一体何がどうなって結果こうなったのかさっぱりわからない。


「秀星、アイツは討伐対象なの?」

「いや、アイツの情報はなかった」


 忘れるはずがないと秀星は思う。


「でも、倒した方がよさそうね」

「倒してもいいのか?」


 つい先ほど『威嚇して追っ払う』と言っていたはずだが。


「そのあたりもしっかり報告すれば問題ないです。ね、ポチ」

「……グル?」


 ポチは首をかしげた。


(……不安)


 しっかりルールブックを読んでおくべきだったと秀星は思った。

 どんな量だったとしても数秒で頭に叩きこめるのだ。むしろ何故やらなかったのか……。


「まあとにかく、倒すか。多分倒さないよりマシだ」

「そうと決まれば!」


 もともと逃げる気も逃がす気も毛頭なかったであろうことは思考の地平線の外の方においておくとして、優奈は突撃する。

 熊が振りおろした腕を避けて、股間を蹴り上げた。


「グギャウ!」

(気持ちは分かる……)


 まさかいきなりどう頑張っても鍛えることができないところを蹴り上げてくるとは思っていなかったのだろう。熊が悶絶した。

 だが、弱点を攻撃されたとしても、周りの状況を考える必要があるのがモンスターの悲しい運命である。

 上からはポチが襲い掛かっていた。

 両腕で熊にボディーブローを入れて、美咲は槍で心臓をつく。

 さすがに心臓に対する攻撃は防御してきた。股間は防御していなかったが急所は分かっているようである。


「俺も動くか」


 ポチが離れたタイミングに合わせて、秀星は熊に肉薄。

 勢いに乗せて斬ると本当に一刀両断してしまうので、かなり手加減して斬る。

 手加減もアルテマセンスでいろいろできるのだ。

 プレシャスからすれば寸止めプレイのようなものなのであまりやりすぎると怒られます。

 二回ほど斬った後で腹に蹴りをぶち込んで、即座に離れる。


「フフン。あたしのファーストアタックが効いているわね」


 文字通りの『きゅうしょにあたった!』なのだから当然というか必然というか……いずれにせよこの場で追及するべきではないだろう。

 ただ、優奈が『そういう攻撃』をためらわない性格であるということをしっかり覚えておくべきだと秀星は感じた。

 秀星の場合、避けることはできても鍛えることはできない。

 ……もうこれ以上、この話題の説明は控えよう。


「ま、このままだとだらだらするだけになるし、さっさと決めましょうか」


 優奈が右足のグリーブのつま先でトントンと地面とつつくと、光りだした。

 威力増強の魔法だろう。


「ポチ!」

「グルアアアア!」


 美咲がポチに命令のようなものをすると、ポチは口からレーザーを放射した。


(ええっ!?)


 秀星はその攻撃に驚く。

 しかも、直撃した熊はめっちゃひるんでるし。

 その隙に優奈は接近。

 鳩尾に跳び蹴りをぶちかました。


「グオオオオ……」


 熊は少しの間ふらふらした後、バタンとうつ伏せに倒れた。

 仰向けなら演技を疑うところだが、あの様子なら大丈夫だろう。

 というか心臓の鼓動が聞こえないし。


「大勝利!」

「です!」


 雰囲気として『イエーイ!』みたいな感じでハイタッチをする優奈と美咲。


(なんだろう……うまく説明できないが、子守りが必要な理由が分かった気がする)


 秀星はげんなりしながら、かなり本気でそう思った。

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― 新着の感想 ―
[一言] すごいまともな意見ですね! それと子守はしなくていいと思いますよ。よっぽど先輩ですしね相手は。それに今までの流れから性格的に状況を面白がる方が自然でしょう、この主人公なら。
[気になる点] この組織に入って給料等の話が出てきませんが、魔力の提供、魔物の討伐等対価は、どうなってるの?
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