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第二話

 異世界から帰ってきて翌日。

 五年も異世界にいて、急に戻ってきて普通な生活ができるのか?と疑問に思う人もいるだろう。

 できるんです。

 魔法だったり、兵器だったり、異世界で手に入れておいて保管して置いたものなど、それらを組み合わせると、『表層心理的』に過去の自分を引っ張りだしてインストールできる。

 『過去の自分自身の演技』ということもあるが、神器が修正してくれるし、アルテマセンスによって演技は天才レベルだ。

 少なくとも、周りが疑問に思うレベルのボロは出ない。日常生活において。

 ……ただ、変に勘がいいやつっているんだよな。

 演技の精密さとかそう言うことではなく、『演技していることそのものを読み取ってくる』ような勘が働く人間がたまにいる。

 フィクションにおける女の勘もそんな感じなのだが、あれだけはアルテマセンスでも突破できないのだ。本当にフィクションだけで勘弁してほしいのだが……。


「……セフィア」

「なんでしょう」

「あれ、何?」

「『霊獣(れいじゅう)』ですね」


 秀星は学校近くに来るまで通学路で普段は誰にも会わない。

 そして、自転車で来るような距離ではなく、普通に歩いて来ることが可能だ。

 途中まではセフィアが鞄を持つといって聞かなかったので、それはそれとして任せた。

 途中で、遠くの方に狼がいるのが分かった。

 ……だが、変な狼なのだ。


 白い粒子のようなものが漂っており、毛並みも真っ白さらに言えば、かなり大きい。

 普通の狼の大きさは、体高が六十センチ~九十センチ。体長が百センチ~百六十センチくらいだったと思うのだが、この狼は体高の時点で二メートルを超え、体長は四メートルを超える。

 どこからどう見ても普通ではないだろう。


 そして最大の特徴、ちょっと浮いている。

 いや、狼としては地面に立っているつもりなのかもしれないが、某青猫ロボットのようにちょっとだけ足が浮いているのだ。


「『霊獣』ってこっちにいたのか?」


 動物、魔物、霊獣。

 『生物』と言うもののカテゴリは、この三つに分かれるのだ。少なくとも秀星はそう言う感じで分けている。

 魔力的な要素をあまり持たずに進化してきたのが動物。

 魔力的な要素を伸ばして進化してきたのが魔物。

 魔力的な部分しか使わずに存在するのが霊獣。

 と言った分け方である。


 人間は動物から進化した種族で、魔族や亜人は魔物から進化しており、妖精や精霊といったものは霊獣である。

 なのだが、霊獣とは言うが幽霊とはちょっと違う。

 魔力は質量を持っているからだ。

 幽霊は怨念と言う形で存在はするが、物理的な干渉手段は持っていないのが通例である。

 霊獣は、れっきとした物理的な影響を持つモンスターなのだ。


「おそらくいたのでしょう。ただ、霊獣を認識するためには、特別な感知能力が必要になります。気が付かなかったのも無理はないかと」

「だよなぁ……ていうか、あれって種族的に何?」

「『エイドスウルフ』……自分を見るものに対する幻術が得意です」

「……思ったんだ。あの狼、俺達が気が付いてるってこと分かってないよね」

「そうですね」


 そう言った存在が地球にいることに秀星は驚いている。


「セフィア。こういった生物についてと、あと、こういった奴らに対応している組織について調べておけ」

「畏まりました」


 まずは知ることだ。

 下手に暴れるとこういうのって批判がすごいことを、彼は知っている。


 ★


 九重市立(ここのえしりつ)沖野宮高校(おきのみやこうこう)

 秀星が通っている学校だ。

 特に妙な部分はない。

 『家から近いから』という理由だけで通うような学校があるだろう。それと同じだ。

 ただ、思っていてもぶっちゃけちゃうと学校に失礼なので言わないように。


「……もっとラノベを持ってきておくべきだったかもな……」


 秀星はそうつぶやいた。

 十の神器の一つであるアルテマセンス。

 圧倒的なほどの基礎能力を得るものだ。

 身体能力向上。五感情報拡張と補正。記憶力・演算能力上昇。

 そして、魔力生成能力、及び魔力的技術の行使力の上昇など。

 簡単に言えば、RPGに出てくるようなステータスが大幅に向上するといっていいだろう。

 外見的にはそうでもない。

 ただ、速読まで強化されるとは……ラノベ一冊が一秒とか頭おかしい。

 パラパラ漫画でも見ているかのようなスピードでページが進んだが、実際には普通に読んでいるのだ。

 これで頭がおかしくないとすればどうなるというのだ。まるで意味が分からない領域である。


「まあ、もうラノベで時間稼ぎはできんな。保存箱に入れてくることもできないわけじゃないけど」


 オールハンターの保存箱の保管容量は地球を超える。

 ただし、オールハンターは全ての法律・条令・規則などを常に認識しており、収納するためには所有権が自分にあると確信している必要がある。

 ただ、大きさに特に制限はないので、飛行機も船も入るのだ。

 ラノベを入れるのはできるといえばできるが、どうせ多くなるのならダウンロードすればいい。


「マシニクルとスマホを接続して改造するのもありか……」


 マシニクルは兵器ではあるが、電子的、魔力的という両方の観点から見てすさまじい性能を持つ。

 スマホを改造する。性能を格段に上昇させるプログラムを作ってインストールすることくらいは普通にできるのだ。


「ま、教室だし、それは置いておくことにしようか」


 ラノベを鞄に突っ込んだ。

 すると、教室の出入り口で音がした。

 見ると、一人の女子生徒が入って来たところだった。


 八代風香(やしろふうか)


 緑色の髪を腰まで伸ばしており、常に微笑の絶えない少女だ。

 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能(体力はあまりない)という、2・5拍子揃った少女である。

 神社の出身と秀星は聞いたことがある。

 それもあって中学時代に文化祭で巫女服を着たそうで、その時の写真が今だに『学生裏市場』で流通しているという噂だ。闇や裏と言うのは日常の近くにいるものである。

 ちなみに一番値段が高いのは『着替え中』だそうだ。ぶっ飛ばされても文句は言えない。

 なお、巨乳である。その大きさはFと言うことだが、確かに、ある。


 入ってきた瞬間にクラスメイト全員が風香の方を向いたが、数秒後に空気が戻っていって、またしゃべり声が聞こえてきた。


「……入ってきただけで空気を変えるか。異世界(あっち)にいた時はそこまで気にしなかったが、すごいもんだな」


 呟きながら、秀星は鞄のチャックを閉めた。

 視線を感じる。

 その方向を見ると、風香と秀星の目が合った。

 いや、秀星を見ているが、実質、ほかの何かを見ているようにも感じる。


(何を見ているんだ?)


 すると、スマホのバイブ着信が来た。

 チャットだ。

 今頃の時間になって秀星に何か話があるような人間は珍しい。


『セフィア:私です』

『秀星  :お前か!』


 秀星が感じたのはただ一つ。


(なんでこうなった!?)


 とはいえ、チャットの話は続く。


『秀星  :え、セフィアって携帯買えたの?』

『セフィア:メイドですから』

『秀星  :さすがにその説明は無理があるぞ』

『セフィア:冗談です。スマホ。と言うものを自作しました』


 自分で作ってしまったようだ。


『秀星  :自分で作ったのか』

『セフィア:構造さえ分かれば可能です。ナノレベルと言うのが少々厄介でしたが』


 秀星は納得しようとしている。


『秀星  :まあ、学校にいる時でも自然に連絡が取れるのはいいことだ。で、他に何か用か?』

『セフィア:秀星様。魔力が漏れていますよ』

『秀星  :え?』

『セフィア:周辺地域に存在するモンスターについて調べたところ、【八代家】という神社を中心として、治安を維持していることが分かりました。八代家以外にもそれらしき団体はいますが、丁度、秀星様のクラスメイトです。秀星様ほどの魔力生成量があると、ばれる恐れがあります』

『秀星  :手遅れの可能性がある』

『セフィア:秀星様がそういった時はいつもすでに手遅れなのですが……』

『秀星  :悪いか?』

『セフィア:はい』


(だよな。俺もそう思う)


 セフィアの即答……とうより『速信』だが、それに対して内心頷いた秀星。


『秀星  :どうすればいいと思う?』

『セフィア:魔力の生成量と言うのはあくまでも才能のようなもので、経験ではありません。下手に隠す必要はないでしょう。ただ、実力を隠したい場合は初心者を装ってください』

『秀星  :そうか、ていうかタイピング早すぎない?』

『セフィア:メイドですから』

『秀星  :……さいですか』


 あまり解決できていない気がするが、面倒な部分は棚上げできるのだ。これ以上に良いことはない。


(とりあえず、何も知らないやつを装うことにしよう)


 異世界ではあまり貴族とか相手にしていない。悪徳貴族に関しては説得の余地なしでちょっと肉体言語(おはなし)すればよかったのだ。


「隠して生きるのは無理か……面倒だよなぁ。こういうのって」


 ★


 一時間目が終わった時だった。

 八代風香がこちらに歩いて来る。

 かわいいが……異世界で濃密な時間を過ごしていると思ってしまう。

 こいつ子供だと。


「ねえ、朝森君、ちょっといいかな?」

「八代さん。どうかしたのか?」


 秀星は緊張することはない。

 エリクサーブラッドによって、状態異常にならないのだから。

 緊張すら発生しないとか人間じゃないだろ。と秀星は思わなくもない。

 セフィアに言ったところ『神器を十個持っている人間が今更何を言っているのですか?』と言われた。

 そこまでいうことはないだろうに。と思ったのは記憶に新しい。


「放課後、時間があったら中庭に来て欲しいんだけど、いいかな?」

「ああ、今日は暇だからいいぞ」

「ありがとう。放課後に待ってるから」


 そう言い残して、風香は自分の席へと戻っていった。

 女子はわいわい騒ぎだして、男子は秀星を睨む。


(別に勉強だろうとスポーツだろうと喧嘩だろうと正面から勝てるのだが、下手にやってもなぁ)


 秀星はチラッと窓の外を見る。

 哀れみの視線を秀星に向けるセフィアの姿があった。


(そんな目をするな)

(いえ、ここでどんな顔をしても結果は変わらないと思いまして)

(ならそこにいなきゃいいじゃん)

(ちょっと見ておきたかったので)

(性格悪いなこのメイド)

(なおかつ高性能です)

(余計にタチが悪いわ!)


 付き合いが長いうえに、向こうは秀星のことをよく知っているので、視線だけで会話できる。

 だが、一々高度な読みあいをする必要があるので、アルテマセンスを持つ秀星としても面倒に感じる時があるのだ。


(で、なんでわざわざ窓に? チャットでよくないか?)

(いえ、ここはこうするべきだと思いました)

(なぜ?)

(秘密です)


 セフィアは時々よく分からないことをするときがある。

 ……まあ、そこは一々追及しても仕方がないので放っておくしかないのだが。


(放課後かぁ……全力で逃げたい)

(どんまいです)


 ★


 そして放課後。

 秀星は中庭でベンチで座って本を読んでいた。

 いや、読んでいるフリをしていた。


(……最初は何度も……本当に何度も読んでいたんだけどね。途中からそれも飽きたんだよ。うん)


 結果的に、もう読んでいるフリしかできなくなったわけだ。

 スマホゲームは町づくりをはじめとしたシミュレーションゲームしかいれてないから放っておいても多少問題ない。

 それに、スマホをいじっていると何をしているかよくわからない。スリープモードにできるけどなんか手を出しにくいのだ。特にアクションゲームやっててすごい勢いで手が動いている時に話しかけられるか? というのが秀星の考えなのだ。


「朝森君」


 中庭に風香が来た。

 聴覚は強化されているからぶっちゃけ足音もしっかり聞こえていたのだが。


「ごめんね。こんなところに呼びだして」

「いや、問題はない」


 用事がなかったのは事実だ。あったとしても変更可能なものしかなかっただろう。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど……朝森君って、幽霊とか見えることある?」


 魔力的なところではなく霊的な部分から来たのだろう。と秀星は納得する。


「いや、さっぱり」


 その上で、あえてとぼける秀星。

 とはいっても、実際には普通に見える。

 五感情報が補正されるだけでなく、拡張されているのだ。

 幽霊が見えるだけじゃなくて声だって聞ける。

 ぶっちゃけ、異世界で戦っていた時、この霊感がなくて、一方的に殴られていた時があるのだ。

 その時はわずかに感じ取れる殺気を拾ってなんとか逃げたが、あの時はヤバかったと秀星は記憶している。


「そっか……あ、ごめんね。私の勘違いだったみたいで」

「いや、いいけど」


 内心の方は――


(むしろ万歳! これで無関係でいられる!)


 ――であった。

 別に親衛隊(ファンクラブ)が総出でかかってこようと一網打尽にできるが、秀星としては面倒だ。

 何か事情を抱えているのならかかわってもいいと秀星は考えるが、そう言うわけでないのならかかわりたくはないのだ。


「あと、クラスの皆を勘違いさせちゃったみたいでごめんね。私から言っておくから」

「次から気を付けろよ。八代さんは可愛いからな」

「そ……そんな、私がかわいいなんて……」

「勘違いされるだけならまだしも、この状況で何もないってなったら襲われる可能性もあるからな」

「あ……アハハ……そ、そうかもね」


 何か歯切れが悪くなったような雰囲気になる風香。

 当然といえば当然であるが。


「それじゃあまた明日」


 そう言うと同時に帰って行った。

 秀星しかいなかった中庭に、セフィアが来た。


「お、セフィア。どうかしたのか?」

「……秀星様。女性を相手にする際の経験値が足りませんね」

「そうか? セフィアとはよく話してるけど」

「そういう経験ではありませんよ……」


 セフィアは溜息を吐いた。

 そして、その意味を秀星は理解できなかった。

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― 新着の感想 ―
アイテムの所為とはいえ、達観してる主人公は見ていて安心するわ 他作品によくいる美人見たら一々ドギマギして湯気出てる朱色になった主人公って小物感がすげぇのよ
[一言] 大きさに得に制限はないので、 →大きさは特に制限は無いので、
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