第百九十八話
リアンは秀星の後について魔獣島を探索していた。
彼にとっては、魔戦士としては久しぶりの共同作業だった。
スキル『メモリーバイト』を使う前までは、彼もパーティーの中に入って行動することはあった。
エインズワース王国にはダンジョンがないのだが、当然、ダンジョンがある国に行けば挑むことはできる。
それらの機会を利用して実践経験を積んで、それを活かして不自由なく過ごせていけたら、と言うのが彼の考えだった。
しかし、『メモリーバイト』を手に入れてからは状況が変わった。
一度使った瞬間、自分の体はいままでの経験を忘れ、そして倒したはずのモンスターはリアンが倒したとは認められなかった。
ならば、結果を示せばいいと考えるのは当然だった。
メモリーバイトは、自分に関係する他の記憶を奪い、糧にする。
反則級なことを一つ言うとすれば、相手が自分に対して何をしようとしているのかという思考をリアルタイムで奪う故に、敵の行動がわかるのだ。
必要な情報は体に染み込ませ、不要な情報はステータス上昇のためのエネルギーに変換する。
そうして、成果を上げることはできた。
リアルタイムで奪い続ける以上、リアンから敵に対する攻撃は、敵からすればすべて初見なのである。
生物というのは経験を積む存在だが、リアンに対してそういったことは通用しない。
当然、奇襲をかければ暗殺者だって捉えることは容易。
モンスターだってほとんど勝てるようになった。
それに加えて、逃げることももちろんできる。
リアルタイムで消えていく記憶。
言いかえるなら、一瞬でもリアンが視界から消えると、もうリアンのことを認識することはないのだ。
幻惑魔法を複数重ねればそれくらいはできる。
そうして成果を上げることはできた。
本当に結果だけでしか判断しない人間というのはいるもので、そういった人間にとっては有用な存在である。
ただし、結果があれば、それをどうやってやったのかが気になる人間は多数いる。
評論家。それも批評を専門とするような人間にとって、リアンというのはいじりがいがありすぎる。
どうして強いのかはリアンの自己申告でしかない。
そして、異世界ならステータスを確認する手段があり、スキルがわかる可能性もあるが、地球にそんな便利なものはない。
結果的に、リアンの評価は下がっていく一方だった。
しかし、記憶を奪うスキルがあれば、強奪無効や別枠で記憶といった手段があることも事実。
秀星は後者だろう。 前者も出来そうだが。
リアンの奪う力が強すぎるため、無効というのは難しい。
しかし、保存に特化した神器に勝てるほどのものではなかったようだ。
そうして、初めて『自分がやったことがそのまま認められる』という、誰もが味わっているであろう快感を思い出したリアンは、秀星と組みたいといった。
そうしてついていくことになった。
秀星はいろいろとなれているし、気をつけるべき部分がわかっている。
それでいて、一緒に戦えば、きっちり連携もとってくれる。
ソロでは味わえない感情がリアンに芽生え始める。
秀星は特別、大柄ということはない。
だが、憧れという感情に支配されたリアンにとっては、その背中は広く感じるのだった。