第百九十五話
「セフィア。リアンについてどう思う?」
「なかなかむなしい世界で生きている。と私は思います」
「だよな。俺も似たような感じだ」
セフィアが作ったお菓子を食べながら話している秀星。
「魔法でも超能力でもない。となればスキルだな」
「はい。その能力は『メモリーバイト』とでもいうものでしょう」
「ああ。周辺にいるやつの自分に対する記憶を食べて、それを糧にする。おそらく、単純にステータスも上がるだろうし、何か使えそうな情報が有れば、それを使うこともできる。そんな能力だろう」
秀星がリアンの戦闘を見て、何年も確認作業を繰り返してきたように感じたのもそれが原因。
相手の観察力が高ければ高いほど、自分にどんな隙があるのか、どんな無駄があるのかを考えるものだ。
そして、その『自分に対して考察している記憶』を食べて糧にすることで、自分の素気がだんだんとなくなる。
「実際に受けてみた感覚としては、リアルタイムで食べ続けているって感じか。リアンを直接見ている間は脳が勝手に補完してなんとか納得しようとするが、おそらく、現場に駆け付ける前からあのスキルを使って、現場を去った後にスキルを解いたとしたら、成長力、戦闘力は高くなるが……」
「その代わり、自らを覚えることが出来る相手がいなくなる。普通なら、他人のためにその力を使うことはほとんどないでしょうね」
人間と言うには少なからず承認欲求があるものだ。
高評価は要らないという人はいるだろうが、よほど自分に自信がないと低評価を気にしない人はいないだろう。
「よほどデイビットってやつに何かがあるだろうか。まあ、あの若さであのポジションだからな」
任命権はさすがに国王にあるだろう。
そして、当然その時期はアーロンが国王だった。
若いうちから国王としてやっていたアーロンが認めるほどの人材であることは間違いない。
かなり焼きが回っているようだが。
「ただ……あんな大きさのダイオウイカなんて、普段はどこに生息してるんだろうな」
「魔獣島の一つですね。かなり距離がありますが、海域を移動する程度の労力で辿りつける場所にあります」
「……魔法社会が表に出て来るのが時間の問題のように思わなくもないが、それって、その魔獣島で何かがあったってことにならないか?」
「丁度、公安でもそのような案が出ています」
「忍び込んだの?」
「もともと、全ての人間に対して十人規模で監視できるほど私の数は多いので」
「そういやそうだったな」
「最近、四十桁くらいになりました」
「そんなに増やして一体何を見ているんだ……」
たまにセフィアのことが分からなくなる秀星。
今更である。
「話を戻すか。そのうち、間引きのための部隊が用意されるってことか?あれほどのモンスターが追われるって、相当だぞ」
「私もそう推測します。その部隊には、秀星様も呼ばれるでしょう」
「まあ、それくらいなら乗っかるさ」
問題なのは、最近は国内でいろいろと問題が発生しているということだ。
当然、それだけ人数に限りがある。
というより、秀星一人でやっていいと言うのならそれが一番話が早いのだが、アースーもまだ秀星のことを測りきれていないだろうから、そうならなかったとしても仕方がない。
「しかし、魔獣島か……ダンジョンに行ったことはあるし、一般人の生息圏内の近くにあるモンスターが出るエリアを探索したことはあるけど、魔獣島に行ったことはなかったな」
「面倒だったからだと私は思いますが」
「まあそうなんだけどな。ただ、まだ問題はあるんだよな。この国の最近の襲撃で大きなものはほとんど俺が解決してるから、アースーが王になってから就任した現場の人間の練度が若干不安だ」
「逆に言えば、秀星様がいないうちに、ある程度まとまった戦力で襲撃してくる可能性がある。ということですね」
「まあ、本当に何かが起こりそうだったら、どうにかできそうな奴に頼むだけか」
限度を超えない限り問題がないのは、どんなときでも、誰でも関係なく当然のことだ。
人は難易度が限度を超えた時しか苦しいことにはならない。
とはいえ、その限度を超えた先というのはあまりにも可能性がありすぎて対応するのがしんどいのだ。
しかし、秀星も友人がいないわけではない。
ほとんど頭がおかしいやつばかりだが、それは秀星も同じだ。
「さて、俺にとって都合の良い方向に進むことを祈るとしますかね……」
隣でセフィアが溜息を吐いているのを感じながらも、秀星はそうつぶやいた。