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第百九十四話

 MGPに所属するリアン・フローレス。

 剣一本を背に吊った少年だが、エインズワース王国が魔法国家であることを考えると、それらを組み合わせて戦う魔法剣士ではないかと感じた。

 アースーが言うには、義務教育課程の中に魔法に関する授業が実技を含めて存在する。

 見たところ十五歳ほどなので、ある程度の魔法は習得しているはず。

 公安に所属するほどの実力者なら、魔法の技術だって相当ある。


 と、秀星は想定していた。

 剣を構えるリアンの前方の海が盛り上がる。

 出てきたのは……全長六十メートルほどのダイオウイカだ。

 通常の三倍はある。何か赤いのだが。

 赤いと三倍みたいな理論はどこかで聞いたことがあるような気がしたが、何かいけないものに触れてしまいそうな気がしたので頭の片隅に追いやることにした。


「さて、リアンは一体どう戦うんだか……」


 秀星の場合は一撃必殺である。

 だって焼けばいいのだから。

 神器は小細工をするとしてもかなりの性能があるが、火力一本で魔法をぶちかましてもいい。

 そのため、秀星が近くにいる限り、リアンに何かがあったとしても問題はないのだ。


 秀星の視線の先で、リアンが剣を抜き放つ。

 業物、と言うのが分かる。

 高難易度ダンジョンのボスモンスターのドロップだろう。

 エインズワース王国には鉱山はあるがダンジョンはないので、別の国に行って調達してきたようだ。


「……?」


 抜き放って、その後に何かをしたであろうことは秀星にもわかった。

 魔法でも、超能力でもない。

 これは、スキルだ。

 何か広範囲に影響を与えるスキルが使用されている。

 そして、それは今も続いている。


「感じたことのないものだな」


 そう言っているうちに、リアンはダイオウイカに向かっていく。

 六十メートルと言う巨体を誇るイカに対して、百六十センチもない少年が剣を持って向かっていくのは少しだけ不安があるが、秀星も、実力がないと思いながら任せたりはしない。

 リアンは近づいて……思いっきり剣を一閃。

 それだけで、ダイオウイカの足に激震が走る。


「……恐ろしいほど完成されたものだな」


 普通なら、戦いを始める前に自らに生まれるはずの癖や、生活していれば独自に作られてしまう体幹など、『剣の威力を最大限に引き出すのを妨げる原因』はいくらでもあるのだが、そう言ったものが一切ない。

 何年も何年も録画してチェックして、そうしてたどり着けるものだろう。

 それほどのものだ。

 ダイオウイカは驚いた表情で、距離をとった。

 とはいえ、全長六十メートルクラスの化け物である。

 少し動くだけでかなりの移動距離だ。


「すごい移動距離だな……ん?」


 秀星は足の一本を見て首をかしげた。


「あれ、あの傷ってどうやってついたんだ?」


 そして、秀星はそうつぶやいた。


「ボートに比較的近い場所にあるけど一体いつついたんだろ……まあいいか。相手が手負いならそれはそれで問題ないし」


 秀星は本心からそうつぶやいていた。


「それにしてもアイツ。魔法を使うにしても付与術くらいしかないような……ダイオウイカを相手に持久戦で挑むつもりか?」


 そうこういっているうちに少年は斬撃を叩きこむ。

 ボートを休憩地点にして、基本は海の上を走りながらダイオウイカに向かっていく。

 心なしか、だんだんと動きがよくなっている気がする。

 相手の行動を先読みできるようになっている。とも取れる動きだ。


「決定打がないような……それにしても、戦う前からあいつ、結構傷がついてるんだな。ここに来る前に誰かとドンパチやってたのかね?足に傷が多いみたいだし」


 空中で待機している秀星からは、全体のようすが見える。

 生きていれば発生するであろう擦り傷に関しては置いておくとしても、足にダメージがある。


「まあいいか」


 どうでもいいものをどうでもいいと思うまでの速度が異常に速いのは秀星の特徴の一つである。


「お、決めにかかったな」


 少年は跳躍すると、剣を光らせる。

 そして、光の刃を生み出すように、斬撃範囲を拡張させた。

 そうして生み出され、振り下ろされた剣は、ダイオウイカを一刀両断する。

 さすがに、一刀両断されても生きていけるほどしぶとくはない。

 海に沈んでいくダイオウイカを見て、少年はボートに乗り直していた。


「しっかし、すごい少年だな……ん?」


 秀星は、自分の中にある待機状態の神器の一つが何かを訴えているのを感じた。

 左手に出現させたのは、『オールハンターの保存箱』


「ん?新しい保存完了アイコンが出てるな。何かいれたっけ?」


 秀星は保存箱の蓋を開けて、それを確認する。

 そして、愕然とすると同時に納得した。


「あ、あー。なるほどね。リアン。かなり切ないものを持ってるんだな」


 秀星は飛行魔法を使って、リアンが乗るボートに降り立った。


「ようリアン。すさまじい戦闘だったな。勝手においていくなんて悲しいことするなよ」

「!?」


 今まで、進行方向にしか顔を向けなかったリアンが、始めてこちらを向いた。

 その顔は驚愕に染まっている。


「ど……どうして……」

「さあ、どうしてだと思う?」


 秀星はある程度察したうえで、その言葉を選んだ。

 リアンは溜息を吐いた後、呟く。


「……ここまで規格外だとは思ってなかった」

「まあそうでないと、名実ともに日本最強じゃないからな。とは言え、一瞬わからなかったんだけどな」

「いずれにしても、その段階になってから元に戻った人は初めて見た。デイビットさんでも、かなり離れたところにいないとだめなのに」

「そうか」


 秀星はボートにどっかりと座った。

 そして、確認するように、ただ確信を持って言う。


「まあ、大体察したし、深くは追及しない。ただ、お前みたいなのがいるとなると、MGPの評価も変える必要があるかもな」

「それは助かる。いざという時に、共闘出来るのはいいことだから」

「共闘って言葉、使ったの初めてじゃないか?」

「……そうだね」


 もう、リアンはこちらを見ようとはしない。


「それにしても、それほどの力がありながら、公安に入るとはな。ぶっちゃけ、国を出て戦ってもやっていけるだろ」

「自分で決めても、他人が決めても、結果的にあまり意味はないから……」

「まあ、リアンの場合はそうなるか」

「……秀星さん」

「なんだ?」

「僕は、今こうしてMGPとして戦っていることに不満はないです。けど……これでいいのでしょうか」

「不満ならそれでいいじゃないか。なんてことを聞きたいわけじゃないよな」

「そうですね」

「そうか……」


 何を言ったものかと思った時、秀星はとある言葉を思いだす。


「リアンの現状を考えれば、厳密には、デイビットに個人的に雇われているだけで、書類上は所属してい無いんだろ?」

「そうですけど」

「なら、デイビットに何か目標があって、リアンがそれを応援したいって思うのなら、それでいいじゃないか?」


 ★


 自分の夢をつくりなさい。さもなければ他の人間に雇われて、彼らの夢をつくるはめになる。――ファラ・グレイ。


 ★


「デイビットの夢、それに価値があると思ってるのならそれでいいだろ。愛想が尽きたらそこから考えなおせばいい」

「……強いですね」

「そう思うか?」

「はい。あの、秀星さんは、どうして剣の精鋭に所属しているんですか?どんな組織にだって入れる実力を持ってるのに、なんで、あのチームがいいのかなって」


 その質問を聞いて、秀星は微笑む。


「お互いに実力はある方だし、気が合うからだろうな」

「でも、それなら、秀星さんがリーダーになるっていう意見もあると思いますけど」

「……実はな。いろんなメンバーが剣の精鋭に出入りしてる。既に、一度入って、抜けたやつだっているんだ。中には、来夏よりもカリスマがあるやつもいたらしい」

「そんな中でリーダーをしているなんて……劣等感とか、そう言うものを感じない人なんですかね?」

「そこまで鈍感じゃないだろ。まあ、俺が新しいリーダーになろうとも、チームを抜けようとも思わない理由はそこじゃない」


 来夏と話したことがある。

 秀星は、その中の一つを思いだした。


「来夏は何か計画を立てる時、周りの意見を聞かずに、自分が一番前に立ってできることばかりやろうとするんだ」

「そこまで聞くとまともじゃないですね」

「だろ?でも、責任だけは絶対に手放さないんだ。そして、何かやる時は、大体全員を巻き込むんだよ」

「疲れる上司ですね」

「ああ。だから一度話したことがある。なんでそんな前に出て、全員を巻き込んでシェイクしたがるのかって」

「なんていわれたんですか?」

「今でも忘れないよ。『そりゃどんなときでも『ついて来い』って言える奴が一番かっこいいからだ』だとさ。どうせこっちがやけくそになってついていくしかないっていうのは一目見りゃ分かるんだ。一度でも納得しちまった俺達の方が負けだろ」

「……めちゃくちゃですね」

「その通りだ。でもな。だからこそついていきたいって思うんだ……旦那は不憫だけどな」

「……」


 笑いをこらえるように震えるリアン。


「ま、そんなところだ。デイビットをどう思ってるのか。それだけだろ。その上でついていきたいって言うのならそれは本物だ」

「……そうですね。ちょっと、考えてみます」


 ボートは進む。

 ただ、二人は言わない。

 何とも言えない、前哨戦の後のような感覚。

 それが、体の中を走り続けることを。

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