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第百九十一話

 MGPにおいて、唯一人事権を持つ男。

 それが、公安特務課長、デイビッド・ディアス。

 まだ二十台半ばであり、政府組織に所属する課長クラスの人間としては珍しい。

 当然エインズワース王国出身だが、金髪碧眼の美丈夫である。

 他のものとは一線を画す実力を持ち、これまで、国を守ってきた精鋭たちを束ねる男。


 少し調べただけでもそのような情報がつらつらと出て来る(もちろん特務課の情報なので言うほど簡単な情報秘匿度ではなかったが)この男だが、秀星としてはそこまですさまじい何かは感じられなかった。

 本人がなぜか自信に満ち溢れている表情なので、何かしら手段を隠し持っていることは察しているが、それが何なのかはわからない。

 ただ、神器持ちであるミラベルよりも立場が上のようだが、だからといって神器を持っているようには見えない。

 第一、神器はどれもこれも魔力を増やしまくるので、隠すのがうまいやつでもよく観察すると分かるのだ。

 秀星のような肉体の操作に影響する神器であれば確かに隠しやすくはなるが、この男はそう言ったものは感じない。


 近くの喫茶店で話すことになったが、あまりの話に洒落かと思ってしまった。


「ふむ、別に洒落ではないよ?むしろ、なぜそう思ったのかを教えてもらいたい」

「いや、なんか、俺がこの国のために戦っているから大きな権限を与えてやろう。見たいな空気で接してるからさ。本当に人事権を持つほどの観察眼があるのかと思っただけだ」

「む?現状、君はこの国に対して、ほぼ無償で戦っているようなものだろう。確かに王宮のゲストルームで過ごしているが、今起こっている数々の事件の報酬とはもらっていないように思えるのだがね」


 確かに、事件が発生し、それをアースーが感知した場合は秀星がよく動いているが、そのたびに何かをアースーからもらうことはない。

 と言うかそもそもキリがないとも言えるが。


「一応君もわかっていると思うが、アースー陛下のそばで戦うとしても、まだ政治的に絶対的に強いというわけではない。さらに言えば、確かに一国の王に認められているといえばその通りだが、それ以上の力や権限など、いくらでも存在する」

「オブラートに包まずに言うなら、アースーがいてもあまり役に立たないってことか?」

「もとより、エインズワース王国では数多くのマニュアルが存在し、それらが更新されている。賢い王であることは確かにそうだが、それだけではこの国では王とはいえ軽視されるのだ。だからこそ、人気取りのためにあんな茶番をするわけだからね」


 人気取りでの茶番と言うと、海や祭りではしゃいでいた時のことだろうか。


「ふーん……で、一応聞くが、MGPに俺が入るとして、何のメリットがある」

「当然、公安と言う組織の一員になるわけだ。この国への入国手続きは大幅にカットされるだろう。さらに言えば、私の権限で数多くのサービスを与えることもできる」

「……公安の一人ね。まあ所属するとなれば、大体は何かあっても駆けつけることになるわな」

「他の事情よりも、確かに優先することになるだろうね」

「……俺、『剣の精鋭』に所属しているんだが?」

「何を言っている。君がこの国に来て一か月以上経過しているが、何か大きな問題があったという話はなかっただろう。君は確かにあのチームにメリットをもたらすが、それだけなのだ。今更君が抜けたところで、剣の精鋭がつぶれることなどない」


 秀星もそれは正しいと思っている。

 ただ、人には行動の前提と言うものがあるのだ。


「……そもそもさ。なんで俺、この国に来ていると思う?」

「む?それは、この国でいろいろなことが起こっているからだろう」


 その言い分では、エインズワース王国という国を前々から気にかけているという意味になる。

 当然だが、そんなことはない。


「違う。俺がそもそもこの国に来ることになったのは、アレシアからこの国に一緒に来てほしいっていわれたからだ。原因は崩御だっていわれたからな。そりゃチームメイトの故郷でそんな大変なことになっていると言われたら、俺だってその話に乗るさ。別に、エインズワース王国やアースーに対して特別な興味があるわけじゃない」


 剣の精鋭など抜ければいいとこの男は言うが、そもそも、その縁が無ければ秀星はこの国に来ていない。

 言い方は悪いが、縁もゆかりもないヨーロッパの小国で王様が天寿を全うしたとしても、普通なら興味は一日持たない。

 それが偶然アレシアの親族で、そして、彼女の故郷で何かが起こるかもしれないから、秀星はこの国に来たのだ。

 アレシアが自分で最初は頑張るといって、本当にどうしようもなくなった時に秀星を呼ぶといったならば、そもそも秀星はこの国に滞在することはなかっただろう。

 アースー個人にしても、確かに神器持ちではあるし強者とも言えるが、言いかえればそれだけである。

 とはいえ……流石の秀星も、死んだ王がめっちゃ元気な幽霊になっているとは想定外だったが。


「もうちょっと考えるべきだ。優秀な人間を抱えたいと思うのは別に分からなくもない。だが、今のままでは興味すら持たれないぞ?話は終わりだ」


 喫茶店で飲んだ分の金をおいて、秀星は喫茶店を後にした。

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