第十九話
総合評価 20000突破!
ありがとうございます!
……一時間遅れて申し訳ない。
計測結果によって発生する本部への影響は大きいものだった。
本部にある計測器を用いて、『生成量が多すぎて測定不能』と判断されたのは前例がない。
ただし、一部のもの達からは『作れる量と持っている量は別』という意見が多かった。
実際問題、機械で測れる生成量が多いのに、持っている魔力が少ないということが多いのは事実。
だが、本部に残っているうちに行うことが出来た千人を超える研究員が相手でも、全く問題はなかった。
結果、相当の魔力を秀星は保有していると判断されたのは数値的にもそうだが、多少流れる噂でも事実となった。
こうなると、凍結されるかもしれないと判断されていた利権が復活する。
だが、秀星は一人しかいないし、機材を用いて魔力を他者に供給するのも、実は即座にできるわけではない。
即座にできるわけではない以上、秀星は常にいた方がいい。
常にいた方がいいが、では、何処に?
といった感じで、『秀星を使いまわす順番』が、実際のところ重要になる。
「すっごく面倒なことになったな……」
「秀星様がいることで、彼らには『余裕』が生まれるのです。余裕があるということは、今まで出来なかった『無茶』が可能になり、さらに、余裕があるうちにしかできないことも多くありますから、結果的に競争が発生するのです」
あちこち振り回されて精神的に倒れそうになった秀星。
家に帰って来ると同時にリビングにぶっ倒れていた。
セフィアが晩御飯のカツ丼を出してくる。
「今のところは暫定で順番が決まってるけど、これからは秒単位になるんじゃないのか?」
「考えられますね」
「ぶっちゃけ面倒」
「では、どうしますか?」
秀星はカツ丼を口の中にかきこんで、ゴクンとのみこむと、こう言った。
「セフィア。魔力の保存媒体の設計図を匿名で渡しておけ」
「媒体における魔力の保存量はどうしますか?」
「五種類に分けようか。携帯できるものを三段階と、据え置き型を二つくらいがちょうどいいかな?理解する必要はなく、単純に作ればいいという感じでよろしく」
「畏まりました。それでは、九重市支部とも、本部ともつながりが深くない支部にリークしておきます」
「任せる」
秀星はそう言うとぐったりした。
必要機材を揃えて、今度は貯蔵媒体に発生する利権だとかいろいろ考える必要があるだろうから、実際に出回るまで時間がかかりそうだ。
とはいえ、時間に解決させるしかないのも事実。
こればかりは、組織に所属することを決めた自分が悪い。
「我慢するべきなのは認めるし、予測していたが、面倒なことになったな」
「当然だと思います」
秀星は溜息を吐いた。
★
結局のところ、秀星に時間が出来たのは一週間後だった。
本部だけでなく、相当な数の保存媒体が九重市支部に設置されている。
定期的に、九重市支部に顔を出して、保存媒体に魔力を蓄えておけば、後は本部の人間が運搬する。ということになったのである。
据え置き型の中でも大型のものが独自にできて、それらがついている専用トラックが作られるほどのものだった。
そもそも九重市に支部があったというのが初耳だったのだが、とりあえず『時間が出来た』と言うことが重要だ。
「やっと時間が出来たな。秀星」
「もう本当に疲れた。機材をとりつけたまま本部内の施設を回りまくってたんだぞ。精神的にキツイのなんのって……」
「だが、これでチームに入隊することができるようになったな」
現在、評議会本部にいる秀星。
地下深くに設けられた大量の貯蔵媒体に保存する義務が発生していて、それをしないと自由に行動できなくなっている。
どれほど魔力に困っていたのかが分かるというものだ。
来夏がからからと笑って、秀星は嘆いて、羽計が頷く。
「勧誘の話と言うのは案外広まるものでな。私の耳にも届いたが、凄いとかそういうレベルではなかったぞ」
「実際、研究員だけじゃなくて、戦闘系のところからの勧誘も多かったみたいだな」
魔力量が極端に多い人間がどこに入るのか、と言うのはかなり重要だ。
なお、戦闘系のチームからの勧誘もあった理由だが、保存媒体が出回るようになったことで、ある程度問題が解決したが、それでも、いつでも膨大な魔力を持つものがいるというのは、ある種の余裕が出て来るので重要なことらしい。
保存した魔力を自分の体に入れることもできるので、媒体さえ手に入ればそこからは魔力を体内に取り込むこともできるのだが、それでも欲張るものは多いのだ。
「まあいいじゃねえか。人気があるのはいいことだぜ」
「明らかに生体パーツ扱いだったけどな……」
「だが、それでもこのチームを選んだのだろう?秀星」
今まで二人称が貴様とかお前だったのに、名前呼びに変わっている羽計だが、最初にこの本部に来たあたりからこの変化があった。
チームメイトだけは基本名前呼びと決めているようだ。
要するに、羽計の中では、秀星はれっきとした仲間と言うことである。
うれしいやら、分かったものがあって複雑やら、いろいろ思うことはあるが、良い変化ではあるだろう。
「ま、所属するチームに関しては、基本的には本人が決めることになってる。ここが崩れると、周りからの非難が凄いからな」
「とはいえ、名家や貴族と言った連中も秀星を求めているだろうが、普段から自分が言っていることを無視するわけにもいかないから、結局どこも手を出すことはできないということになったからな」
「……今その話をするってことは、御剣家でもそういう話があったってことか」
「そうだ」
羽計の実家である御剣家も、魔法社会では名家だ。
とはいえ、羽計の戦闘方法から判断すると、そこまで気にしてはいないようだ。
羽計本人も悪い話をされた雰囲気はないので、そこから察するに、彼の父親あたりが、剣術ではなく本格的な魔法至上主義の名家のことを楽しそうに語っていたということだろう。
どこであっても、名家ともなれば、家同士で犬猿の仲と言うものはあるのだ。
「さて、秀星、早速だが、オレたちの任務に参加する気はねえか?」
書類上では、既に秀星は『剣の精鋭』に所属している。
一週間あったので、その間に登録しておいたのだ。
どうせほとぼりが冷めたら勧誘合戦になるので、早いところ決めておいた方がいいという判断もあった。
そういうわけで、秀星は『剣の精鋭』の新米であり、『ブロンズランク』である。
だが、任務と言うのは融通が利かなければ思ったように進まないもので、リーダーの采配に任されることも多い。
結果的に、ブロンズランクである秀星も、プラチナランクチームである『剣の精鋭』の任務に参加できる。
流石の秀星も、『融通が利かないと何もできないからと言ってそれは無茶なのでは?』と思った。
現在、秀星の存在と言うのはかなり大きいものになっている。
評議会としては、とりあえず本部にいてほしいというのが現状だろう。
様々な利権を獲得しようとする周辺組織も、一部は秀星にパイプを作ろうと頑張っていたし、実際、大量の魔力と言うものがあるだけで解決する案件が多すぎたのだ。
危険地帯に放り込むことのデメリットはかなり大きい。
無論、よほどのことが無い限り、秀星は捕まることはないと考えているが、万が一が起きた時は来夏の責任問題になるのだが……。
「俺はいいけど、大丈夫なのか?」
「秀星、来夏の本当の目的は、秀星を連れていくことのメリット、そして、秀星が重要であることを踏まえたうえで、任務中に使用できる魔装具のランクを常に最高にしたい。というところにある」
「……ズルいなぁ」
風香の護衛の時、羽計は本来の装備ではなく、その結果特注の魔導兵に勝つことができなかった。
いくらか差はあるだろうが、来夏にも同じことが言える。
その魔装具のランクを最高にすることの建前として、任務中の秀星の護衛も兼ねるということで任務に連れていくのだ。
「それに……秀星も自分の身は自分で護れるだろう」
空き時間で手合わせはすでに済ませている。
秀星も本気は出していないが、既にゴールドランクに飛び級出来るレベルくらいは見せておいた。
優奈がゴールドランクだったので、それに合わせたものを見せたというのが正しい。
いずれにせよ、羽計が秀星を評価するだけの材料はそろっているということになる。
「……ということは、これから行く任務は討伐系じゃないのか?」
「討伐系だが、言ってしまえば間引きのようなものだ。モンスターのみで生態系が構築されているエリアに行って、そこにいるモンスターを指定された数だけ倒す。というものだ」
ならば、その生態系を構築しているモンスターを全て倒してはいけないのか?ということになるのだが、もちろんダメである。
単純に強いモンスター……特に、既存の動物に対して天敵となりえる個体が出てきた場合は倒す必要があるのだが、生態系を構築しているとなれば、倒しきることなどほぼ不可能である。
秀星が持つ戦闘系の神器をどれか一つでもフル活用すれば可能と言えば可能だが、秀星は、自分が強者であることが露見するのはいいが、『神器使い』という評価が出るのは避けておきたいのだ。いろいろな意味で。
モンスターの研究も長年行われているので、その繁殖力と強さ、生活習慣はある程度分かっている。
「間引きだと制限がかかるのか?」
「プラチナランクチームだからって聞いたぜ」
「そうだな。無駄な被害を避けるためと聞いている」
「……そういうレベルなのか?」
「そういうレベルだ。一応、予定外のモンスターが出現することはあるが、さほど変わらないレベルだろうがな」
果たして申請が通るのか?と秀星は思ったが……。
「秀星、世の中にはこんな便利な言葉があるんだぜ。『万が一』って言葉がな」
「……黒いねぇ」
人間と言うのは不思議なものだ。
確率が高くとも問題にしないときもあれば、確率が低くと、何かすさまじい問題のように扱う時もある。
そのほとんどは『大人の事情』であり、指示する人間が判断する際の考え方だが、使い方によっては子供だって使える。
うまいこと『大人の事情』に食い込ませることで、それらを納得させるのだ。
「他のチームならうまくいかないこともあるんだろうけどな」
「ああ。だが、私たちは少数精鋭だ。一人一人の実力が高いことは書類における数値データでも、実際の功績でも証明している。本気の武装であるならば、秀星が攫われることもない」
少数精鋭と言うのは、『量』ではなく『質』を求めた末に生まれる概念だ。
最小限の人数で最大の戦果を得る。ただし、替えが利かない。というのが実態だろう。
『剣の精鋭』は、そうした最小限のコストで最大の戦果、というものを多く勝ちとってきたのだ。
結果的に、説得力がすごいのである。
「わかった。そういうことなら、俺も任務に参加するよ」
「それでいい。クックック。これであの大剣が使えるぜ!」
来夏は『イヤッホオオオオオオオウ!』とでも言いだしそうなテンションで電話し始める。
今現在ここにいない優奈、アレシア、美咲に連絡しているのだ。
子供の浅知恵に等しい理論も、功績と説得力で周りの意見を封殺する。
なんともまあ……来夏らしい力技と言えるだろう。
(ま、いいか)
かなり楽観視している秀星であった。