第百八十五話
「……ドラゴンが出現している?」
魔石鉱山から採掘される魔石で国を運営するエインズワース王国だが、次点で大事なものがあるとすればそれは『海路』である。
人の手で採掘しているが、魔法に寄って強化された採掘機材は圧倒的な馬力を持っている。
魔石を砕かない程度であれば思いっきりやるのだ。
爆弾を使わない程度に何でもやっていると思ってもらって構わない。
そのため、本当に大量に出て来る。
それを定期的に輸出するため、船を使っている。
運ぶためには海路が確保されていないと、必要なものが手に入らないのだ。食料自給率は約七割である。日本よりは上だが完全ではない。
海路上にモンスターが出現すれば、船が使えない。
陸上で貨物列車を走らせるのは少量だけだが同時並列で行われている。
少量の理由だが、陸上だと狙われるし、もし事故が起きた場合、表社会には秘匿されている魔法の存在が明るみになる可能性もあるので、その後の対応がすごく面倒だからだ。
船が襲われた場合、最悪、海の藻屑になるが秘密は保たれる。
貿易を失敗させる意味はないので、海路上に出現するモンスターと言うのは間引きされる。
それでも完全と言うわけではなく、こうしてモンスターが出て来ることはざらにあるのだ。
とはいえ、貿易と言うのは国同士のやり取り。
魔石を大量に放出し、価格の安定に一役買っているエインズワース王国がかかわる貿易がストップすると、それだけで魔石の価格が上昇する。
早急に対応する必要がある。
「警備隊だけでは太刀打ちできないレベル?……わかった。すぐに対応するよ」
アースーはスマホを置いた。
一瞬考えるが、海路の重要性は自国も他国も理解している。
警備隊には優秀な指揮官と魔戦士がいる。
魔法使い、超能力者ともに多く、船の上でも遠距離火力による戦闘が可能だ。
それでも対応できないとなれば、出せるメンバーは限られている。
「警備隊じゃ無理……か。秀星に任せよう」
せっかくいるのだ。それにどうせ暇だろう。
コールは一回でつながった。
「秀星。海路にドラゴンが出てきたんだ。貿易に支障が出るから倒してほしい」
『……アースーでもどうにかすることくらいできるだろ』
「まあ、そう言われるとそうなんだけど……」
そんじょそこらのモンスターであれば、確かにアースーでも勝てるだろう。
ただ、アースーは超能力がかなりすごいのだが、モンスターとの戦闘経験が魔戦士の中では少ない。
他国がモンスターを倒すことで魔石を得ているのに対して、エインズワース王国では鉱山から魔石を採掘しているので、モンスターと戦うときのセオリーが不足している。
もちろん力技で言っても勝てる相手がほとんどだ。
もとから超能力に関して才能があり、それを神器でブーストしているのだから当然である。
ただ……今回は違うのだ。
「胸騒ぎがする。ちょっとだけね」
『まあ、この流れだからな』
アースーが言っているのは『変化を見つけてほしい』ということだ。
経験が不足するアースーは、モンスターと戦っている時に感じる『普通』の感覚がつかみきれていない。
だが、秀星なら、もしかしたらあるかもしれない『異変』を感じとることができるかもしれない。
アースーはそれを期待しているのだ。
『分かった。まあ、このまま飛行魔法でまっすぐ向かうよ。どうせ船があっても変わらんしな』
「すさまじいねぇ」
『しっかり連絡しとけよ。特殊部隊に狙撃されたらかなわん』
「わかってるわかってる。それじゃあ、よろしく頼むよ」
通話終了。
「……最終兵器は、神器持ちよりもモンスターなのかな?」
神器により、演算能力が向上しているアースー。
考えた結果、そんなことを呟いたのだった。
もっとも、それが真実だったとして、その根本的な解決が可能なのは自分ではないと思っているのも事実だが。