第百八十話
タコは結局、八人を相手にすることはできなかった。
そもそもアースーを相手にしている時点でいろいろ無理があるのだが、それでも、全体的に強いというのが現状だ。
千春とエイミーは何か装備していないと戦えない印象があったが、もともとエイミーはパワーキャラであり、千春は魔力を固形化させて短剣を作ることが出来る。
カースド・アイテムによって膂力が上がっている雫、無手でも相手を制圧できる技術を持つ羽計。風を集めて武器にできる風香、そもそも普段から徒手空拳で戦う優奈、射程と言う概念のないアレシアなど、水着でもあまり関係はなかった。
そのため、結局のところ何のために来たのかわからない感じになってしまった。
水着の女の子たちとタコが遭遇するとなればあんなことやこんなことになるというのがお約束なのかもしれないが、ちょっとタコが弱すぎてそんな話にはとてもならなかった。
とはいえ、全員に怪我がないという意味では悪い話ではない。
しっかりと倒しました。
それはそれとして……。
「なんで俺タコ焼き作ってんだろ」
秀星は霞むような速度で腕を動かしながらタコ焼きを五百個くらい同時に作っていた。
四十個作れるでかいやつを十二個並べて、二十個作れるやつをポツンと置いてタコ焼きを作りまくっている。
ちなみに販売をやっているのは女子と女子に見える奴である。
そのためゴリラである来夏は材料の買いだし、アースーも着物(一応男用)を着て販売している。
「まあいいじゃない。ていうか秀星君すごいね」
「できると思って頼んだわけじゃなかったのか?」
一応、この倍の量になっても秀星は大丈夫だ。
しかし、そこまでする理由はなかったし、そもそも販売員が少ないのでこの程度で十分なのである。
ちなみに秀星はパックに入れて包装までやっているのだ。
それでもまだ余裕があるのも周りからすればどうかと思う。
はっきり言って両手が意味の分からない速さで動いているので曲芸みたいな感じだ。
たこ焼きを買うのではなく、秀星のそんな様子を見に来ている人も多い。
得に何もわかっていない子供たちが目をキラキラさせてこちらを見ている。
「ていうか、材料の減り具合がすごく速いんだが」
「来夏に任せていますから大丈夫でしょう。目は良いので売っているところがどこなのかは見渡すだけでわかりますし」
五つのセットが入った袋を両手に一つずつ持って出ていくついでにアレシアがそう言った。
まあ、秀星もわかってはいるのだが。
「おーい。買ってきたぞー」
荷車を両肩に担いで戻ってきた来夏。
「……引っ張らないのか?」
「めんどかった」
少し会話がかみ合っていない気がする秀星。
とはいえ、追及は止めて置くことにした。
「それにしても、すげえ速さだな」
「まあな。しかも何か慣れてきたし、何か普通にできるようになった」
キャベツを一瞬で微塵切りにして、その他材料を放り込んで具にして、それをタコ焼き器で丸くしていく。
ちなみに、ソースにも色々種類がある。
注文通りにするのだ。
「それにしても、そんなにうまいのか?」
少なくとも、レシピはセフィア任せなのでマズいことはない。
さらに言えば、倒したタコはうまい分類なのだ。
後、王族二人が何故か販売員をしているということで、上手いかどうかはともかく、客は多いのだ。
「ま、客が多いっていうのは事実だ」
「曲芸しながら普通に会話できるって……変態だな」
「荷車を担いで来る女に言われたくないけどな……」
少し、げんなりする秀星だった。
夏祭りの夜は長い。