第百七十九話
腹にどんなものを抱えているのかどうかはともかく、美しい少女たちが水着姿ではしゃいでいるというのはいいことだ。
秀星はそんなものは愚か、異世界で酒池肉林を見てきているのでそう言ったものの株が下がっているのでそこまで何も思っていない。
というより、ビーチバレーだというのに『ズドオオオオオオン!』と言う音を立てて砂浜に激突するボールの対応に忙しかった。というのが本音である。
ゴリラのような筋力でありながら、しなやかさがある来夏。
なぜビーチボールが破れないのか非常に疑問なのだが、こうして試合ができているのだから仕方がない。
そのビーチボールを何とか撃ちあげながら、雫が撃ち返しやすいようにしている。
途中、アースーがサンオイルを塗ってと言ってきたので、秀星はなんの感情もなく淡々とやった。
逆にアースーの方が恥ずかしがっていたようだが、まあそこはご愛嬌である。
雫も塗ってほしいとか言って勝手にうつ伏せになっていたので、サンオイルを風船の中に大量にいれて、背中の上で針をぶっ刺して破裂させておいた。
なお、海岸にはアースーを見ようとギャラリーがすごい数いるのだが、剣の精鋭メンバーもアースーも恥ずかしがっている様子はない。
いや、優奈は若干恥ずかしがっているようだが。
思春期だからね。
「そうだ。誰が速く泳げるか競争しよう!」
雫がそう言うので、みんなが頷くが、どう考えても一位と二位をかっさらっていきそうな秀星と来夏は留守と言うわけで、ほかのメンバーが一気に並んで、スタートした。
雫、羽計、風香、千春がトップ4を奪い合って、次点がエイミー、優奈、アースー、アレシアだ。
ちなみに美咲は『ギブアップです』といって途中で帰って来た。
まあ、もとから期待していなかったし賭け事をしていたわけではないので問題はない。
「みんな早いな」
「だな」
来夏の呟きに秀星は頷いた。
「で、秀星、だれが一番になると思う?」
「ん?『一位不在』に一票」
「お、奇遇だな。オレもそれにしようと思ってたところなんだぜ」
「?」
ギブアップしてとなりに並ぶ美咲は首をかしげているが、そんなことは気にしない。
ゴール地点までもう少し、と言ったところで、水面が揺れ始めた。
「!?」
美咲が驚いた。
そして……。
「タコオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
タコが水を跳ね上げながら浮上してきた。
何か妙な音を聞きとった雫達だが、タコを見て『!?』となった。当たり前である。
「タコってあんな鳴き声だったかな」
「いや、タコの鳴き声ってオレ知らねえけど」
そりゃそうだ。と頷く秀星。
タコは視界に入る美しい少女たち(一人男)をみて鼻の下を伸ばした。
泳いでいるのは八人。自分の触手は八本。
タコの目がキランと光る。
「タコオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
思いっきり触手を伸ばすタコ。
おそらくとらえて辱めようという魂胆だろう。
「おりゃ!」
雫が右ストレートを触手に叩きこみ、水面だというのにとんでもない威力が発生しているかのような音が鳴った。
他も似たようなものである。
「お約束にはならねえもんだな」
「だな」
「……」
美咲も絶句している。
まあ……世の中と言うのはそんなものである。まる。