第百七十七話
「押し合いへし合い。とは良くいたもんだな。ちょっとすごいことになってきてるぞ」
サーフ型の水着姿でポツンと見渡す秀星。
そこでは、上半身をスポーツブラ型、下半身をハーフパンツ型にしてどちらも白で決めたアースーが海ではしゃいでいる。
泳いだり、砂で城を作ったり、サーフィンをしたりとなんだかノリノリである。
その結果、この国の国民性故に多くの者が身に付けた性癖が爆発。
警察組織すらアースーを見て鼻血を出すといういろいろと間違えたような気がしなくもない状況だが、それが近くでアースーを見たいと国民が押し寄せている。
だが、迷惑をかけてはいけないと一応思っているのか、ある程度のラインに差し掛かるとそこから誰も入ってこない。
とはいえ、押しあっているのだからある程度は越えたりしているのだが、それでも戻ろうとしているものが多くいた。
「国王のパーソナルスペースを把握しているということなのか?まあ、別にそれはいいと思うが……ギリギリを攻めすぎと思うが……」
海で遊んでいるアースーを見ようとして、海岸が人であふれかえっている。
中には鼻血を出している者もいるので、それを考えるとなんだか悲惨な状況だ。
「ん?どうしたの秀星。泳がないの?」
「俺は単にだらだらしたいだけだからな」
というか……視線がすごいのだ。
「ていうか、アースーは気にならないのか?」
「秀星は知らない見たいだけど、僕がお忍びでいろいろと町で物色している時もこんな感じだからね?」
「アースーって隠れてコソコソするの苦手なんだな」
「それを言われるとつらい……」
参ったとばかりにあたまをかくアースー。
とはいえ、まったりしたいからと言ってこのままだらだらし続けるのも変な話だ。
「ま、俺もちょっと泳ぐとするかね……」
「サーフ型って肌に密着しないから泳ぎにくいんじゃないの?」
「対して差はないな」
秀星をはじめとした神器持ちというのは、細かいところで科学に正面から喧嘩を売るのだ。
その程度は誤差である。
まだ神器持ちとしてのキャリアが短いアースーは分かっていないようだが。
「というわけで」
秀星は立ち上がって海に向かって走り、そのままジャンプで飛び込んだ。
そのまま猛スピードで泳ぎ続ける。
ちなみに、準備運動すらしていない秀星だが(アースーは普通の体操と、それに加えて何故かラジオ体操をやっていた)、何の問題もない。今のままでもマッハ10くらいで泳げる。
当然、そこまでやらかすつもりはない。今の主役はアースーだ。
ひとまずその辺を一周泳いで、そのまま帰って来る。
「……秀星って海水で目を開けても大丈夫なの?」
「忘れてた」
エリクサーブラッドの影響はこのような場所でも出る。
しっかりとゴーグルを付けていたアースーとは違い、そんなものは着けずに泳いでいた。
「ていうか、髪もなんか普通な感じに……全くダメージになってないね」
「だな」
それもエリクサーブラッドである。
ケアいらずで肌はいつでもスベスベで髪はいつもサラサラなのだ。
垢はさすがにでるのだが、それらを自分で解決してしまう物質を自動で分泌するので風呂に入る必要すらない。とは言え、セフィアが作った入浴剤はいいものなので入るのだが。
「なんていうか、細かいところで意味不明なところが見えるよね。秀星って」
うんうんと頷くアースー。
「まあ、別に否定しないさ」
というかできないし。
「そう言えば、そろそろ剣の精鋭の人達が来る頃かな?」
「俺言ってなかったよな」
「短剣二刀使いの人がかわいいもの好きって聞いてる」
雫のことだな。
「言ってて悲しくならないか?」
「分かってるなら言わないでよ」
遠い目をするアースー。
さーて、どんな格好をして出て来るのやら……。