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第百七十五話

「……影響力抜群だな」


 秀星は夕刊をみてげんなりしていた。

 見出しにはでかでかと『水着販売コーナーで触って選んでいるアースー』が紙面を飾っている。


「……国王っていうけど、王族って言うより身近なアイドルみたいな感じだな」


 紙面にはどんな様子だったのか、そう言う感じでものすごく遠慮のないことがかかれている。

 確かに、どこからどう見ても女の子にしか見えないアースーがどうなるのか気になるかどうかと言われると別に気にならないのだが、男の娘が好きなエインズワース王国民からすれば何かあるのだろう。

 まあもとより、エリクサーブラッドに寄って下手なお誘いは通用しないのだが、それは今は置いておくとして。


「お兄様……」


 隣の席でアレシアがげんなりしている。

 その手には秀星が持っているものと同じ夕刊があった。


「どうしてこう……自重できないのでしょうか」

「父親のDNAだろ」

「……否定できませんね」


 できないんだ。


「そういえば、海って言うと……アーロンはどうだったんだ?」

「お父様は海は苦手でしたね」

「え、そうなの?」


 海でもブイブイ言わせていたような雰囲気があったのだが。


「ホオジロザメに襲われてトラウマになっていたみたいです」

「勝てるだろ」

「それはそうですが……空気を自分の周りに集めてかなり深いところまで潜っていたみたいで、急に目の前に現れてものすごく怖かったみたいですね」

「……なるほど」


 勝てるかどうかと言うより、それは心臓の問題である。


「そこからは、一度も海には入っていないそうです」

「悪ノリしかしないアーロンの弱点が海とは……」


 誰しも苦手なものがある。ということなのだろう。

 それが意外なものであるかどうかはともかく。


「なので、メイドたちはわざとお父様を海に行かせようとしていましたね」

「威厳のない王とか恰好の餌だったろうな……」


 その時のメイドの表情が目に浮かぶようだ。


「なんていうか……こんなことで夕刊が見開き五ページぶち抜きでアースーのこと書いてるから不思議に思ったが……そういう事情もあったんだな」

「エインズワース王国は、昔から賢い人が王でしたし、官僚団も優秀ですから、多少不正をする人がいても回るもので……そうなると、『別に国王いなくても政治なんて問題ないんじゃね?』と言う人達も一定数いるのです。そしてそれが真実なのです」

「……ここ数週間忙殺されてたけどな」

「変わり目ですからね」


 とはいえ、全てが間違っているわけではなさそうである。

 変わるということを分割すれば、それは終わりと始まりである。

 大きな変化があったとしても、それは当然なのだ。


「まあ何を言おうと……国王の水着姿が見たいと言うその欲望だけで国中が騒いでいるって聞くと、なんだか民意が知れるな」

「そこは突っ込まないでください。私も日本に行って、なんでこうなったのかと考え始めたばかりなので……」


 ロクなことにならないだろうな。というのが心境である。


「あ、電話」


 着信音が鳴った。

 見ると、『アホ』と表示されている。


「アースー。どうした?」

『今水着選んでるんだけど、スポーツブラみたいな奴とスクール水着のどっちがいいかな』


 秀星は通話を終了させた。

 またかかってきた。

 秀星はアーアーとマイクテストして、電話に出る。


「おかけになった電話番号は、現在使用されておりません」

『声真似上手すぎでしょ!ていうか、いきなり切るなんてひどいじゃないか!』

「うるさい。何で俺がお前の水着を選ばなきゃならん。寝言は寝て言え」

『えー……』

「なんなら、アンケートでもとったらどうだ?」

『フッフッフ。甘いね秀星。もしアンケートなんて取り始めたら、そのまま試着会になって逃げられなくなるに決まってるじゃないか!』

「断言するな」

『ねえ、本当に真面目に答えてほしいんだ。店員さんがTバックもってジリジリと近づいてきているんだよ』


 すくなくとも男に穿かせるものじゃない……。


「もうスポーツブラの方でいいんじゃないか?」

『わかった。あ、お姉さん。こっちで会計ね。舌打ちしないでよ!』


 何がどうなっているのかすごく分かりやすい状況だ。


『ふう、なんとかなった。ところで、秀星は何を買うの?』

「ラッシュガード」

『男だろうが!もうちょっと肌見せろYO!』

「自分が安全圏に入ったからってノリノリだなお前……」


 まあ、昔からこう言う奴なのだろう。


「ま、好きに買うだけだ。じゃあな」


 通話終了。

 そしてアレシアを見る。


「お前の兄、どうにかならんのか」

「諦めましょう」


 優雅に紅茶を飲み始めるアレシア。

 ……どうやら、本当に諦めるつもりのようだ。

 秀星は再び新聞を読み始めた。

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