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第十七話

「ここが本部だ」

「エントランス広すぎだろ……」


 大体トラックで二時間ほどすごして到着した。

 地下空間である故に、建物そのものを外見的に見ることはできない。

 なので、本部に来た。と言うシチュエーションでよく言われる『本部でかすぎ!』がここでは言われることはなく、秀星としても、これくらいのことしか言いようがないと言う感じである。

 チラッと見えた文字には『エントランス・フロア』と表示されていた。

 そこから考えると、この階が丸ごと出入り口ということになる可能性もある。


「どうやってここまで広げたんだ?」

「私も知らん」


 でしょうね。と秀星も思ったが、重機のパワーを付与魔法で底上げすることくらいは普通にしているだろうし、そんなものだろうと予測はしている。


「こっちだ」


 羽計が歩き始めるので秀星はついていくことにした。

 地下である故に発見はされにくいと考えているのだろうか。あまり入り組んでいる様子はない。

 重要なものを下に下に……といった感じでかなり深いところまで作っているが、基本的には機能性重視で、言ってしまえば『使いやすい』感じになっている。

 迎撃性がそこまでないとも言える。

 無論、エントランスフロアに近い階層は迎撃システムがあるものの、そこから下に行くにつれてガードが甘くなって行くような感じだ。

 エレベーターで地下三階まで移動する。


「……なんか、すごく見られてるな」


 職員が何人か通りかかったが、秀星をちらちらと見ている者がいる。

 中には話しかけようとしてきたものもいるが、羽計を見てやめたものが多い。

 真面目と言うか、融通が利かない人間だと知っているし、プラチナランクということもあって、話しかけるのをためらっているような感じか。

 下手に近づかせない雰囲気を持っている以上、護衛として適しているのか適していないのか。

 諜報という点においてはたいしたものではないかもしれないが、護衛と言う点においては優秀と言うことなのかもしれない。


「当然だ。評議会所属魔戦士は基本的にスカウトで集まるが、単純に魔力量が多いというだけで呼ばれたのはお前を含めて数件と言ったところだろう」


 要するに、魔力量と言うのは魔戦士の平均から見て、漠然と多いと判断できる人間は少ないのだ。

 風香も魔力量は多いそうだが、八代家と言うだけで呼ばれていなかったみたいだし、ここ最近は風香がメイガスラボのいいなりだったから、そんなまぎれもない爆弾を抱えるのは、組織としては嫌なものだろう。


「ここが計測室だ」


 羽計は『魔力計測室』と表示されている部屋のドアをためらうことなく開けて入っていく。

 慣れているというよりは躊躇が無いという感じだ。

 秀星を計測室に連れて来るまでが任務だったということもあるのだろうが、言われたことを言われた通りにすることに何の疑問も持たないのだ。

 あからさまに自分の信念に反するものでなければ、羽計は普通に行うだろう。

 指示を出す人間が羽計を使う場合、そういった部分が厳格なのか、それとも中途半端なのかをしっかり見極めることが必要だが、できているのかどうかが気になった。

 それはそれとして。


(計測室……だな。これは)


 中に入った秀星はそう思った。

 ここに来るまでノーガードだったので、秘密主義と言っても甘い部分があると思ったが、評議会としても、既に秀星が本部の場所を知っているとは思っていないだろうし、第一、彼らの設定としては、秀星は新米なのだ。多少は自由にさせておいても問題はないと思っているのだろう。

 それはそれとして、中には様々な機材があったが、メーターがついていたり、明らかに体の表面に当てそうなものが多かったりと、『体の中の何か』と測ることが分かるようなものばかりだった。

 大体学校の教室が二つ分くらいと言った程度の広さで、計測装置の計算部分というのだろうか。直径二メートルで長さ四メートルくらいの円柱からすごい量のコードが出ており、それが一つのジャケットにつながっている。


「……何あれ」

「見ての通り、計測機材だ。ただ、まだ体内にある魔力を測ることはできないから、厳密には魔力の『生成量』を測る機械だ」

「え、生成された魔力がどうなるのかは分からないのか?」

「そこから先のことは私にもわからん」


 とはいえ、秀星もある程度察した。

 それと同時に、若干溜息を吐きたくなった。

 評議会と言う組織は、とある重要なことを知らない。と秀星は思ってしまったからである。

 その情報を説明することもできないわけではないし、証明もいたって簡単なものではあるが、まあ、別に言うつもりはない。

 このタイミングにおいては重要ではない。


「お、君が朝森秀星君だね」


 円柱の後ろからでてきてこちらに歩いてきたのは、白衣姿で短い黒髪と青い瞳を持つ少女。

 おそらく、年は秀星たちと変わらない。

 身長は羽計より少し低いくらいか。

 顔立ちはきれいなのだが……ただ、胸が……絶壁なのだ。まるでないのだ。逆に珍しいといえるレベルで、本当にないのだ。

 秀星は現代ファンタジーに出て来る白衣の女性の胸が巨乳であるという印象があったのだが、そんなことはなかった。いや、それを言うと失礼だけど。


「今失礼なことを考えなかった?」

「……それは経験則なのか?それとも勘なのか?」

「どっちだと思う?」

「どちらでもあると思う。で、俺の魔力の計測をするのがあんたってことか?」

「そうだよ」


 その『そうだよ』は、後者にかけられているものなのだろうか、それとも、両方にかけられているのだろうか。

 秀星にはわからなかったが、これ以上踏み込むといろいろと面倒なことになりそうだったので黙っておくことにした。

 羽計が補足してくる。


「彼女は御堂千春(みどうちはる)。この施設での様々なプロジェクトに参加する研究者だ」

「優秀だということだけは分かった」


 何をしているのかが全く分からないので、その程度の認識で十分だろう。

 ろくでもないことをしているのか、それともまじめにやっているのか、それらの部分はまだ分からないが。


「で、すごくコードがつながっているジャケットがあるけど……」

「あれを使って図るんだよ。と言うわけで、上半身脱いでね」

「あ。やっぱり?」


 と言いつつも、秀星は羽計の方を見る。

 羽計は鼻をフンっと鳴らすと、説明してくれた。


「別に脱ぐ必要はないぞ」

「だと思ったよ」

「えー……羽計ちゃんは脱いでくれたのに……」

「その話はするな」


 言葉にすると『ゴゴゴゴゴ……』という、まるで火山が噴火する前のような音が聞こえてきそうな空気になってきたので、秀星はスルーした。

 ジャージの上を脱いでシャツ一枚になった後、秀星はジャケットをとる。


(うわっ。重っ)


 コードがびっしりついているからだろうか。かなり重い。

 秀星は無理矢理に着た。


「結構重いはずなんだけど、よく着れるわね」

「これでも鍛えてるんで」

「ふーん。まあ、測るだけなら一応すぐにできるから、パパッとやっちゃいましょうか」


 千春は円柱にあるタッチパネルと操作する。

 すると、ジャケットのコードがチカチカ点滅し始める。


「よし、終わったわ」

「早いな……」

「魔力が生成される場所は共通だから、測るだけなら簡単……え?測定不能?」


 その言葉を聞いて、羽計も驚いたようだ。


「もう一回!……測定不能だわ。どうなってるのこれ。魔戦士の平均と比べて二十倍以上の生成量を持つ八代風香でも測定可能だったし、まだ余裕があったのに……」

「……」


 秀星としては、ある意味で当然だと思っている。

 秀星が持っている神器は全て、魔力を大量に使う。

 それこそ、常時発動であっても膨大な魔力が必要になるのだ。

 『アイテムマスター』であり、使用制限がない秀星であっても、本来なら神器を使うことはできない。

 だからこそ、神器には全て、共通して備わっている能力がある。

 それは『魔力効率の上昇』だ。

 ぶっちゃけていうと、体内における魔力と言うものが、神器一つを持っているだけでも十倍になる。

 そして、それらの倍率は特定の条件下で全て重複する。

 アイテムマスターゆえに才能的に見て最弱である秀星も、十の十乗をかけたものになる。

 十の十乗。数字にすると百億。

おかしいだろう。

秀星も初めて知ったときは愕然としたものだ。


 さらに言えば、アルテマセンスによってさらに効率がアップするので、これ以上に多くなる。

 魔力を感じとることが出来る風香が評価に困るのも無理はない。

 あれから調べたが、風香が計測したのはあくまでも漏れ出ていたものだけであり、全体ではないはず。

 ただ、全体ではないという前提だとしても、明らかに多すぎるのだ。


「……こんなに魔力を作れる人がいるなんて……これはすごいことよ。今現在、魔力が足りなくて止まってるプロジェクトを全て同時に進めることだって可能だわ」


 興奮したような表情でそう言う千春。

 その時、羽計がぽつりと言った。


「これからは貴様を護衛することになるかもしれんな……いや、重要性が高すぎて、私たちの手には負えない可能性もあるが」


 羽計は溜息を吐いてそう言った。

 考えてみればいたって普通のことだが、どこの時代であっても、『燃料』というものはバカにはできないのだ。

 たとえ技術がそろっていようと、それを行うための燃料がなければ何も進まない。

 千春の言い分を考えれば、『現在止まっているプロジェクトがある』ということになるが、それはそういう理由だ。

 計測や実験を『繰り返す』だけのものを捻出できないのが現状。

 だが、秀星の魔力量なら、それらを可能にしてしまう。ということだ。


 プラチナランクとして活動している羽計も、そういった部分のもどかしさというものは十分理解している。

 先ほど言った魔力量の話だが、これらは敵側も同じだからだ。

 それを考えるならば、秀星が敵の手に渡ってしまうと、デメリットの試算だとかそういう段階の話ではなくなるのだ。

 敵の止まっているプロジェクトを進めるのは、それだけ、自由にさせることになる。

 状況がヤバくなるのはもちろん。本格的に面白くない。

 となれば、秀星が弱いと判断している者達は、派閥に取りこみ、その上で利用しようとするだろう。

 ただ、その護衛というものだが、羽計だけでどうにかできるというのならそれはそれで十分だが、そういうものではない。


「これはすごいことになりそうね。乱立してる派閥のトップ連中の仲が悪いから、本格的に取り合いになるかもしれないわよ」

「器ちいせぇ……」


 秀星はげんなりするのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そろそろリヴァイアサンの背に乗ってることに気づかせてあげるヨロシ
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