第百六十八話
「アレシアに何かあったのかな」
「まあ、ちょっといろいろと分かってなかったみたいだから助言しただけだ。俺なりの言い分だけどな」
秀星とアースーは、また新しく襲撃してくるものがいたので、それを対処するために動いていた。
とはいえ、秀星とアースー。そして『警報の神器』を持っているミラベルを除いても、戦闘が他の神器を持っている者が実はいる。
そのため、本来なら秀星たちが出向く必要はないのだが、書類整理と謁見で時間を使いまくっているアースーが『イヤッホオオオオオオオオオウなことがやりたい!』と意味不明なことを言いだしたので、その人には王宮内での護衛だとかいろいろやってもらうことにして、秀星たちがこうして襲撃者たちのアジトに大暴れしに行っているというわけだ。どっちが悪者なのかわからない。
「常に考え続けているような子だからね」
「それでいて理性も強いし、来夏のそばにいるくらいがちょうどいいのかもしれないな」
「来夏さんはいろいろと視えてるけど基本が単純だからね。それでいて諸星家の人間だし……と言うかなんであんな感じに育ったのかな。僕、そのあたりだけが信じられないんだけど」
「俺もわからん」
ゴリラの生態など秀星は興味ない。
「まあ、アレシアに関してはいいかな。あと何回か失敗すればなんとかなるでしょ」
「そうだな」
秀星は反対しない。
失敗しても学ばない人間はいる。
だが、アレシアはそうではないだろう。妹の方は知らないが。
「僕が気になっているのは、神器のレプリカだよ」
「それか」
あの男が持ち出していたステッキ。
神器のレプリカであり、こちらの神器の効果を一時的に無力化してきた。
「秀星が対応したところでは『無力化』だったみたいだけど、こっちでは純粋に魔法関係だったよ」
「大使館に何を持ち出してるんだよ……」
大暴れする気満々じゃないか。
「ぶっちゃけ凄い物だったけど、さすがレプリカというか、普通に倒せた」
「だろうな」
性能差というか……本物であれば秀星もある程度気にしていただろうが、そういうものではなかった。
「まあ、性能に差があることに関してはいいんだよ。どうせ倒せるんだし」
「そうだな」
秀星は本物の神器を十個持っているし、アースーの場合は持っている神器ともとから持っている超能力の相性が良すぎる。
ミラベルの警報の神器があるので、危険になったときはわかるだろう。
本当の意味で『警報』の性能に特化している神器は、他の追随を許さないのだ。
こればかりは、秀星もアースーも超えられない。
「神器のレプリカって、ぶっちゃけ作れるの?」
「ん?回収したんじゃないのか?」
「回収はしたよ。で、実際に解体したけど、わからなかったんだよね」
アースーはお手上げとばかりに手を振った。
「俺も実際に使っているところをみたが、なんとなくわかった」
「さすが秀星。で、どんな感じなの?」
「米粒以下の欠片のようなものがあって、それをつかって、普通の魔道具を神器クラスまで引き上げているんだ」
「……?」
流石にこれだけではわからない。
「魔法や超能力、スキルや付与術。いろいろあるが、それらはすべて使っているものが同じだ。だが、神器だけは使っているものが異なる」
「へぇ……それを埋め込んでおくことで、神器クラスまで引き上げているわけか」
「そうだ。そして、神器はすべてその特殊な素材でできている」
「え、その素材でできてるの?」
「ああ。だから、圧倒的な差があるのは必然だ。アースーだって、対応したときは全く本気じゃなかっただろ?」
「そうだけど……ん?思ったんだけど、そこまでわかっているのなら、秀星も神器のレプリカを作れるんじゃないの?」
アースーが聞いてくる。
「……作れるか作れないかで言えば、できないわけじゃない」
「そりゃすごい。でも、秀星は作ろうって言わなかったよね。それはどうして?」
「コストが高すぎる。別に、人の命が必要なわけじゃない。だが、コストが高すぎるんだ」
「へぇ……要するに、それだけ、今回の敵はやばいってことなのかな?」
「そうとも言う」
秀星はそれ以上は何も言わなかった。
アースーは、秀星が浮かべている呆れの表情を見て、追求するのはやめておくことにした。