第百六十五話
「アースーもアレシアも政務で忙しいから暇になったな……」
「こういうとき、こういう立場の人間は良いですね!いろいろすることはありますが、自由な時間が多いですよ!」
そもそも、戦闘員として呼ばれた秀星。
当然、継承戦が終わればお役御免なのだが、秀星としてはまだ危惧していることが多いので帰るわけにはいかない。
それに、政務においてすることがない秀星だが、何もできないわけではなく、空いた時間でいろいろと手伝いをしていた。
もともと身長がそこそこあって、ルックスもスタイルも悪くないので、別に追い出されるわけではない。
飢えているのである。
ぽそっと『なにか悪いことしてくれないかなぁ。めちゃくちゃにしたい』といっているやつもいたし、秀星が攻めでアースーが受けの薄い本を描いているメイドがいたので、目の前で破り捨ててやったが、絵は超絶的に上手かった。さすが王宮にいるメイド。いろいろなことができるらしい。自重しろ。人のこと言えないけど。
いろいろな意味で終わっているような気がものすごくするのだが、国民性なので諦めるしかないだろう。
神器を十個持っているので、倫理観を除外すれば何でもできるのだが、さすがにこんな状況で負けたような体験をするのは嫌である。
「そういえば、アリアナって予知能力があるんだよな」
「そうですね」
「どの程度わかるんだ?」
「目に見える範囲で一分後くらいまでです」
「……」
「あのときペイント弾を外したのは、秀星さんの行動が予知範囲に入らなかったからですね」
「……なるほど」
ようするに、格上には通じないということだ。
秀星はすべてがわかっている存在に会ったことがあるが、そいつほどの理不尽さが皆無だったので、どうせそんなところだろうと思っていたが、本当にそうだったとは。
「というより、本当に意表をついたはずなんですよね。あの時、なんでわかったんですか?」
「なんとなくだな」
「それもそれでかなり理不尽ですね」
そもそも、アルテマセンスを持つ秀星は第六感と反射神経がある。
それでいて腕の速度も異常なので、別に目の前で撃たれても問題ないのだ。
撃たれたとしてもエリクサーブラッドの影響で痛覚が遮断されている。
……危険とは縁の遠い男である。
「というより、秀星さん。メイドさんたちにお菓子をつくっているみたいですけど、料理とかできるんですね」
「あんなの化学だ」
「そう言っている人って大体黒焦げにして食材が無駄になるんですけどね」
「アリアナは?」
「第一じゃない王女なんて嫁ぐのも仕事みたいなものですからね。料理くらいはできますよ」
「へぇ」
「でも洗濯機は毎回壊れるんですよね」
「どんな使い方をしているんだ?」
まあ、少なくとも一分以上経過してから壊れるわけか。いずれにせよ性質が悪い。
と、秀星が考えたときだった。
ドアが勢いよく開いて、一人の少年が入ってきた。
年は十五歳ほどで、金髪碧眼。
顔立ちも整っている。
ちょっとぽっちゃりしているが。
「お前が朝森秀星だな」
「ああ。そうだな」
「良い気になるなよ!」
そういうと、少年は部屋を出ていった。
……。
「誰だ今の」
「シュラウドお兄様です。魔法派閥の人ですよ」
「年齢的に第三王子か?」
「はい」
「で、今のは何だったんだ?」
「……さぁ」
アリアナも首を傾げる。
なにか企んでいることはわかった。
だがそれだけである。
「……一応、アースーとアレシアに報告しておくか」
「そうですね」
そう言わざるをえない奴だった。
ただ、どこかどうつながっているのかがわからない。
下手すると……別々の組織のテロがかぶるからな。
異世界でもそんなことがあった。
あのときほど空気が壊れたことはない。