第百六十一話
「アースーが王になったのはいいが……優秀な人間がまた流れ込んできたな。一体どうなってんだ?これ」
秀星は官僚たちのデータを見て呟く。
今秀星がデータを見ている時、戴冠式が行われていて、アースーは王冠と王錫。そしてマントが先代から引き継がれるそうだ。
流石王政。そういった『国王が持つべきもの』も多数揃えている。
……発注品でメイド宛てに輸血パックが多かったのだが、一体何が起こるのだろうか。
「いろいろな意味で『掃除』が終わったというか……さて、どうするかな」
裏に金を使っていたであろうエインズワース王国魔法派閥政務員たちだが、別にそれが悪だと言っている訳ではない。
そもそも、この国は魔石鉱山の運用に寄って国政が成り立っている。
しかし、エインズワース王国民は、その鉱山には潜らず、外国から入って来た労働者たちに任せて、その利益で運営している。
エインズワース王国は『資源国』だ。
一応、若者たちに勤労意欲が無い訳では無いが、外国から様々な人間が入ってきて施設を作っていくので、はっきり言って追い付いていない。
そういう状況化では、とりあえず持っている資金力でどうにかつなげるしかない。
「……とりあえず、限度を超えた不正をしていた官僚は追いだしたわけだが……金の切れ目が縁の切れ目っていうからなあ……これからは辛いことになりそうだぞ」
とはいえ、そこまで危険視しているわけではない。
問題は、アーロンが言っていたことだ。
「大変な事になるのはこれから……俺を相手にそれを言うのか」
他の人間に言う事と、秀星に言うのではまるでレベルが異なる。
もちろん、アーロンが生きているうちに秀星は会った事が無いし、そもそも、アーロン本人も神器持ちだった事を考えると、それはそれなりに面倒なことなのかもしれない。
神器というのはどれもこれも凄まじい性能だが、効果範囲や影響範囲も様々だ。
アーロンは頭脳に関する神器を持っていたようだが、制限されていた上で力を使っている。
「……敵が面白いものを持っている可能性が高いってことか……セフィア」
「はい」
「FTRが持っている神器の総数ってどれくらいだ?」
「上限は二十五。下限は十八。といったところでしょうか」
「思ったより少ないな。幹部クラスだけが持ってるってことか」
「それもそうですが、神器使いを部下としている者もいます」
「神器使いを……部下?」
首を傾げる秀星だが、別に珍しいわけではない。
そもそも、剣の精鋭の中で見れば秀星は来夏の部下である。
部下というものが『命令される立場の人間』であるという視点ならなおさら。
純粋な戦闘力、生産力が集まるとしても、それを統括できる人間が必要である。
それに、命令がなければ動けない人はいる。
「だが、自主的に下っているのとはちょっと違うような……」
次の瞬間、秀星はある可能性に気がついた。
「……セフィア」
「今、秀星様が考えたとおりだと私も考えています」
確認を取ろうと思ったら、言う前に即答してきた。
ため息を吐く秀星。
「アーロン……めんどくさいものを押し付けてきたな」
良いタイミングで居なくなったものだ。
崩御ということでこの国に来た秀星だが、アーロンは自分の命を使って、どこまでのことを考えたのだろうか。
わからないが、今回の敵はすごく面倒なことになりそうである。
「まあでも、俺よりも格上が来るってことはないか。油断しない程度で十分だろ」
「……それもそうですね」
油断しない程度。という言葉に凄まじく矛盾を感じるセフィアだが、これ以上はヤブヘビである。噛み付いてきても引きちぎれるが、わざわざその選択をする意味はない。
とはいえ、秀星の瞳の奥。
その色が少し変わったのを見て、セフィアは結局、いつもどおりにすることを決めた。