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第百五十七話

 地下室と聞くと、コンクリートの床と壁、天井を思い浮かべる人も多いと思うが、継承戦で使われる『地下決戦場』はその限りではない。


 かなり大規模なシミュレーションを行う場として使うこともある施設であり、かなり頑丈で、気温の変更も可能な『空間』である。

 森、川といった基本地形から、火山、渓谷、海まで可能。

 村、町、都市まで設定可能であり、調整室で自由の設定を変更することができる。


 地下、とは言うものの、それは、地面の下にあるというだけのことで、1つの世界のようなものなのだ。

 初代国王が作ったとされているが、なんともまぁ……神器の匂いがプンプンする場所である。


 ★


「とまあそんな感じで、すごいところでやるんだけど、今回の設定は『草原』みたいだね」

「技術の無駄遣いだろ……」


 秀星は『王位継承戦運営委員会』から事前情報を聞いたらしいアースーから説明されたのだが、それもそれでどうなのかと言わせてもらいたい。


「あと、気温は四十度で湿度は八十パーセントみたいだね」

「王族をなんてところに放り込むんだよ!?」

「大丈夫だよ。念力をつかって分子運動を抑えて気温下げれるし」

「……ならいいんだが、どのみち、戦うとしたら地獄だな」


 設定では怪我をしないようにできているが、ダメージは計算し、数値化されている。

 一定以上のダメージを受けると転移魔法が発動して強制的に退出されるそうだ。自害者が続出すると思われる。

 ちなみに、継承戦のルールだが、相手の王族を退室させれば勝ちだそうだ。

 魔法使いであろうと剣士であろうと、戦闘時はそれなりの装備が必要だ。

 秀星はエリクサーブラッドがあるので気温には負けないが、今回、秀星は前線に立つものの一人である。

 他にも同じく肩を並べる人間がいるわけで、無視するのはだめだ。

 王位継承戦という大事な祭典では、王族としての力を見せなければならない。

 ていうか委員会の性格が悪すぎる。


「思ったんだが……敵だって魔法具を使って気温に対抗するんだよな」

「僕もそう思うよ」

「だったら、魔法を無効にすれば、三分くらいでダウンするんじゃないか?」

「継承戦としては見栄えが悪いから最終手段だよ」


 だろうな。

 とはいえ、そこまで過酷な環境でも戦えるとなれば、それはそれでいい宣伝にもなると思うが。

 気温四十度で湿度八十パーセントだぞ。戦国大名だって悲鳴を上げる。

 思えば、そういった歴史上の戦乱においても、気温や湿度は敵だったわけだ。

 あえてそういう場所に城を作れば……いや、敵も味方も共倒れになるだけか。


「氷属性魔法の弾幕パーティーになりそうだな」

「だろうねぇ……」


 秀星とアースーは戦況を予想していた。

 きっとひどいことになる。ということを。


 ★


 一方、ジークフリートだが。


「気温四十度に湿度八十パーセントだとおおおおおおお!ふざけんな!このクソ暑い格好だってのにまだ私に試練を与えようというのか!喧嘩売ってんのか委員会の糞老害共めええええええええ!」


 発狂していた。

 いや、まだ正気はあるが、本当に発狂するのも時間の問題である。


「まさか、ここまで過酷だとは……なかなか衝撃的……いえ、笑撃的ですね」

「そりゃお前は継承戦出ないもんな!クソッタレ!魔法でなんとか冷却するしかないな。開始早々で土系と水系魔法をブッパして敵全員ゆでだこにしてやる!」

「開始早々にはならないと思いますよ」

「なぜだ?」

「お亡くなりになったアーロン様から、継承戦が行われる際に最初に読んでほしいという直筆の文があります。放送で代弁者が読む予定ですね。これが三十分あります」

「あんのクソジジイいいいいいいいい!」


 人の邪魔をするというか、何でもやっていいと勘違いしているというか……。

 人の忠告も怨念も聞く必要がない。だってもうすでに死んでいるので聞けるはずもない。

 『死人に耳無し』とはよく言ったものである。

 目も口もないのは別にいいが、耳がないというのが一番都合が悪い。

 幽霊になってまだ地上にいるような馬鹿にとってはなおさらである。


「まさか……今回のこの継承戦の舞台設定も……」

「委員会からは何も言われませんが、こちらが反対意見を持っていることを判断したうえで聞くつもりがないという姿勢でした。先王からの頼みとなればこれを無下にはしないでしょう。アーロン様は人気がありましたから」

「ちくしょおおおおおおおお!」


 どこまでも人の邪魔をする父親、アーロン。


「なあ、冷蔵庫もって行っていいか?大型のやつ」

「反旗を翻されますよ」

「……」


 一瞬、反旗を翻されたほうがいっそマシなのではないかと思ったジークフリート。

 さすがに閉口した。


「ちくしょう……最後の最後にこんなことになるなら、早々にどこか辺境に引きこもればよかった……」

「後悔先に立たず。五十路前に気が付くことができてよかったではありませんか」

「すでに片足突っ込んでると思うがな……」


 あと、ジークフリートにはすごく気になることがあった。


「なあ、あの日本人。魔法を無効にできるんだよな」

「そうですね。超能力も同様です」

「……冷却魔法使っても解かれるよな」

「まあ、見栄えが悪くなるので最終手段になるとは思いますが、別に禁止されているわけではありませんね。確かに、エインズワース王国の社会を見ると致命的ではありますが、誰にでも使えるものではありません」


 技術である以上突破する手段はあるはずだが、その技術が一般化するまでは禁止される可能性はある。

 だが、その禁止というのも、まだ先になるだろう。


「終わりじゃん。魔法無効とか。この状況下でそれはダメだろ。ていうか委員会も何考えてんだ。普通に考えて死人が出るだろ」

「でませんよ。体調が悪くなりすぎると強制退室ですし、当日限りで、裏では知られた凄腕の回復魔法使いであるカズヤを呼びますからね」

「準備よすぎだろクソガアアアアアアアアアアアア!」


 アーロンは外見、性格、そしてその実力もあって、普段ガリガリのくせに顔が広い。

 有名でも無名でも、実力者を呼べるのだ。

 結局、ジークフリートには苦労する道しかない。


「わ、私はどうすればいいんだ」

「大丈夫ですよ。ジーク様」


 崩れ落ちるジークフリートに肩に、そっと手を置くマーカス。


「マーカス……」

「汗をかきまくっても絶対に落ちない特殊メイクができる人を呼んでおきますから」

「おまえって私の味方だよな!?」

「落ちないメイクをする人を呼ぶのですから味方に決まっているではありませんか」


 そう言って笑うマーカス。

 ジークフリートにとって、マーカスは優秀で親しい部下である。

 残念なのは、マーカスがアーロン寄りということだった。

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