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第百五十四話

 とにかく、官僚と言うものがそろっていないと話にならない。

 有事の際、政治家ではなく官僚が動くものだからだ。

 王に権利があるエインズワース王国だが、それでも政治家だっていろいろ言える。

 国民に権利がないと国政など無理である。

 王も平民も等しく、一人では何もできないのだから。

 ごく少数の異常者はその限りではないが、国を統治するとなれば人材と言うのは重要である。


「……そういえば、この国の法律ってどんな感じだったかな」


 秀星はリビングでそんなことを呟いた。

 隣ではアースーがノートパソコンを信じられない速度でタイピングしている。

 あと、ブルーライトカットの眼鏡をかけているのだが、水色のふちが似合っている。

 ていうか、見に来たメイドが鼻血吹いてた。この国、たぶん終わってる。


「まあいろいろあるけど、そのあたりの調節は僕のほうでやっておくよ」


 そのタイピング速度を緩めずにこちらに返答してくるアースー。


「ならいいが……特に、魔法関係の犯罪者の対応のほうだ」


 タイピングが止まった。

 そして、メガネをはずして、すごく渋いものを食べたような顔で言った。


「……魔法関係の犯罪者の対応?」

「ああ。だって、通常の法律が適応できないだろ」


 そもそも、日本だって銃刀法がある。

 そんな状態では、魔戦士たちが活動できない。

 そのため、魔法社会に生きる者たち専門の法律が存在するのだ。

 それぞれの警察の支部の中でも上位に位置する立場の人間には、それらを把握している人間がいるので、魔戦士であることを示せば、少なくとも傷害事件を起こしていなければ簡単に釈放される。


「日本でどうだったのか知らないけど……この国ではこの国でまた違うんだ」

「そうだろうと思っているから聞いているんだ」


 すごく話したくなさそうだ。

 この国の闇なのだろうか。


「……見せておかなければならないかもしれないし、試しに行ってみる?」

「そんな簡単に行けるのか?」

「僕は王子だし、次期国王クラスの人間が君をこの国に呼んだことになってるから、少なくとも魔法社会においては国賓だよ。君」

「……」


 だからと言って刑務所を見学できるというのはどういうことなのだろうか。


「さて、行こうか」


 アースーはUSBを引っこ抜いてポケットに突っ込んだ。

 ……どんなところなのだろう。本当に。


 ★


 尋問室や刑務をする場所として、当然刑務所が存在するわけだ。

 王宮からは離れたところにある。

 試しに行ってみると、あまり大きくなかった。


「……思ったより小さいんだな」

「治安いいからね」

「俺最近、狙われまくってたけど」

「悪い意味で君が特例なだけだよ」


 違いない。

 受付のお姉さんに話して、二人でそのエリアに行くことになった。

 エレベーターで地下十階に行くとき、アースーが話してくる。


「尋問室はあるけど、意識がもうろうとする薬と自白剤を組み合わせてしゃべらせるから、そこまで時間はかからないんだ。で、問題なのは刑務なんだけど、性別で異なるんだよ」

「性別で?」

「魔法社会っていうけど、男も女も強いことに変わりはないから、あまり差はないかな。魔石鉱山のもっと奥のほうで重労働させてるよ」

「男が?」

「いや、女のほう」

「……?」


 女も強いから鉱山に放り込む。というのは少し倫理的にいろいろありそうだが、それで何とかやっていたというのであれば秀星が突っ込むところではない。


「じゃあ、男は何を……」


 その時、エレベーターが到着した。

 アースーが先頭に立って廊下を歩く。

 かなり広い部屋が多数用意されているようで、廊下が長い割にドアの数が少ない。

 ちなみに全部引き戸だ。


「男はね……まあ、なんていうんだろう。よく言えば社会貢献だよ」

「悪く言えば?」

「いけにえみたいなものかな」

「……」


 アースーの言い分に表情が苦いものになる秀星。


 そこまで考えた時だった。

 急に、一つのドアが勢いよく開いた。


「うああああああああ!!助けてくれえええええええ!!」


 恐ろしくやばい状況に直面しているかのような表情の男が飛び出してきた。

 上半身しか見えていないが、その上半身は裸である。

 そして、顔はエネルギー不足のようにガリガリだった。


「うおっ!」


 だが、急に足を引っ張られたかのように上半身を床に強打する。

 そして、ズルズルと部屋の中に引きずられていった。


「や、やめろ!俺が悪かった!もう悪いことはしないから許してくれええええ!!」


 男の懇願はむなしく、体がすべて部屋の中に引きずられると、ドアが閉められた。

 男の断末魔が聞こえなくなり、そして、ガチャっという音が聞こえてきた。


「……」

「……なんだ。今の」

「社会貢献だよ」

「いや、あの……」

「社会貢献だよ」

「……」

「社会貢献……なんだよ」


 アースーは遠い目をしていった。


「……要するに、興奮剤が投与されたオオカミの群れの中に、生肉を放り込むってことだな?」

「簡単に言えばそんな感じだよ。ていうか、あの部屋の中にいる女の人、全員媚薬飲んでるんだよ」

「悪いことはできないな」

「だね。僕はこれを知ってから悪いことはできなくなった」


 なるほど、苦い顔をするのもわかる。


「見る?部屋の中」

「いや、遠慮しとく。帰ろうか」


 秀星は現実逃避した。いろいろな意味で。


「秀星、今、何を考えてる?」

「……自分が持ってる常識を日本においてくれば良かったって思ってる」


 ちょっと……これはやばすぎる。

 国民性とか、そういうレベルではない。

 ただし、秀星が何かをしたからと言っておさまるものではないことも確かなのであった。

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