第百五十話
「うぅ……グスン」
目の前で少女が座りこんで泣いている。
金髪を肩のあたりで切りそろえた童顔の美少女である。
王族らしい服装だが、王宮内なので派手さは抑えめだ。
そんな少女だが、左手でお尻をさすっている。
「アレシアって容赦のない性格だったんだな」
「身内には特にそうなんだよねぇ……」
秀星の隣でアースーがしみじみと呟くが、秀星から見てもアースーは自業自得なので弁解の余地はない。
少女が立ち上がった。
「お姉様のお尻ペンペン……すごくいたいですね」
「見るだけでよくわかったよ」
アリアナ・エインズワース。
アースーとアレシアの妹で、超能力派閥の子である。
かなり大人びた雰囲気のあるアレシアとは違ってまだまだ子供っぽいが、十四歳らしい。
というか、確かに痛いだとか言っているし、ちょっと泣きながらお尻をさすっていたのだが、若干頬が赤かった。
ちょっとアレな子なのかもしれない。
「まあでも、いろいろと反則だよな。射程がないって……ていうか、『念力』とかもそうだが、超能力って有効範囲がすごく広かったりする場合が多いんだが、あれってどういうことなんだろうな」
「無意識領域を使っているからね。その比率が高いし、まあ、そうなるものなんじゃないの?」
アースーもなぜ超能力がそういう方向性で進化していったのかはわからない。
とはいえ、そう言うものだと思うしかないだろう。
どうせ超能力と言う考え方が世に出てき始めた歴史なんて興味ないし。
「お姉様のあれは反則ですよ。どこに逃げてもお尻を叩かれるんですから、ちょっとアレな扉を開いてしまいそうです」
そうなったら少なくとも嫁には行けないな。
「射程と言う概念がなくなる。というけど、それだけで十分強力だからね。まあ、僕も似たようなことはできるんだけど」
「そうなのか?」
「お兄様の超能力は『念力』です」
「……『念力』じゃないのか?」
「違いますね。『念力』です。お父様と同じものですね」
父親……要するに死んだ国王と同じと言うことだ。
なるほど、第一王子が、自分が王位を継げなくなるかもと慌てているのも道理である。
「どんなものなんだ?」
「簡単に言えば念力の拡張版かな。念じただけで物を動かすのが『念力』だけど、僕の場合は、念じただけで様々なことが出来る」
「……」
秀星が感じたのは、その汎用性に対する感想ではない。
その能力を持ちながら、演算能力を向上させる神器を持っている。ということだ。
超能力も魔法も、一番重要なのは脳だ。
確かに剣を振る場合であっても、自分の身体能力を正確に数値化したうえで何をするのかと判断するのだが、超能力や魔法と言う分野になって来るとその理不尽さは爆発的に上がる。
「アレシアと似たようなこともできるって訳か」
「できないわけじゃないけど……主観が違うね」
それは秀星もわかっている。
広義の上では魔法も超能力も同じものなので、オールマジック・タブレットで再現できるのだが、やってみるとこれは変わるのだ。
アースーの場合、『手を伸ばして届かせようとする』
アレシアの場合、『最初から届くと思っている』
こんな違いがある。
「で、アリアナの超能力は?」
「予知能力です!」
ぐっと拳を握るアリアナ。
秀星は何も言えなくなった。
機能してるの?それ。