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第百四十七話

 幽霊をはじめとした『霊的存在』が存在するのかどうか。

 いろいろと議論はあるのだが、秀星から言えば、それはそういうものではない。

 霊的存在が絡む魔法技術。

 それらは、『あるかどうか』と言うことではなく、『あると仮定して再現する』というものだ。


 科学的に解決できないことをやってのけるのが魔法だが、科学にもまだ進化の余白が残っているように、魔法にも余白はある。

 そして、あまりにも高く行きすぎたものは、そういった『霊的存在』の領域を自分のものにできるのだ。


 秀星にとって、死と言う概念がただの状態異常に過ぎず、二日や三日程度なら死んでも何のデメリットもなく蘇生できる。

 これは、秀星に取って、『肉体と魂は別々に存在し、死と言うのは、生命活動を行う限度を超えた肉体の過剰損傷にすぎない』と仮定しており、肉体を完全にもとに戻して、魂を戻せば生き返るという考えを『再現している』からだ。

 二日や三日という時間的制約がなぜ存在するのかについてはまた別の考えが必要だが、ここではそれには触れないことにしよう。


 ただ、一つだけ。

 秀星に取って、幽霊と魂は別ものである。


「わざわざ顔を見せに来たのか?」

『ハッハッハ!君が僕を見れるだなんて知らなかったんだよ?想定外に決まってるじゃん』


 アースーの父親、『アーロン・エインズワース』は笑った。

 アルテマセンスに寄って、五感情報の補正と拡張が発生している秀星。

 幽霊だってみられるのだ。

 だが、それを周りの人間が知っているのは普通ならあり得ないものだ。

 確かに、と秀星は頷く。


「だが、視えるかもしれないと仮定していたことは確かだろ」

『そうだね。君はいろいろと規格外だから、顔を見せればわかるかな~って思ったのは確かだよ。でもすごいね。息子のアースーだって僕のことがみえないのに』

「そりゃ簡単に見えるもんじゃないからな」


 霊能力者といっても練度は様々。

 そういった者が専門の修行を積まないと、しっかりとは見えないものだ。


「それにしても、わざわざ王位をアースーに譲るつもりがあるのなら、もうちょっとわかりやすい状況にしてくれても罰は当たらなかったと思うんだがな……」

『おや、そこまで気が付くのかい?』

「俺が『継承神器』を知らないとでも?」


 俺のその言葉に、アーロンの頬がピクリと動いた。

 幽霊なので人間のころの反射神経や生理現象などないはずだが、それほどのことだと思っておこう。


『想定外だね。まさかそこまで知っていたとは……』

「神器使いは何人かあってるし、俺自身がそうだからな。それで判断させてもらうが、神器使いにしては悩みすぎだ。神器が本人にあっていないということもあるんだろ」


 普段ならあり得ないものだ。

 神器と言うのは、先天性の使用条件が存在する。

 そのため、本人の性格にあっていないということがあり得ないのだ。

 秀星も神器を十個持っているにしては極端に優柔不断だったりすることもあるが、これは、秀星には条件が関係なく、仮にどれかの神器に『即断即決』を先天性として求める神器があったとしても関係ないからである。


『継承神器についてしっているとはね……』


 アーロンは訝しげな目で秀星を見る。

 継承神器。

 所有する神器を、使用制限を指定したうえで誰かに与えるものだ。

 与えた後で取り返すことはできない。

 なんだかんだ言って反則級のものだが、神器使いの中でも知っているものがいるかどうかは別ものと言える概念だ。


「おそらく、頭脳に関係する神器だな。それが、使用制限がある状態で与えられている。違うか?」

『その通りだよ。僕が持っていたのは『ハイエスト・ブレイン』という神器でね。圧倒的なほどの演算能力を行使する神器だ』

「……遠まわしな言い方だな。要するに、難しいことを考える時にショートカット出来るってことだろ」

『まあ、そう聞くと安いものに聞こえなくもないけど、そう言うものだよ』


 アーロンは苦笑する。


「いろいろと制限を与えたのもそうだが、与えたのも最近……というより、自分が死んだらアースーに継承されるようにしていたんだろ。別に与える相手に制限とかないし」

『そうだね。あらかじめ何も言ってなかったけど、与える神器が『ハイエスト・ブレイン』だったから、アースーはそれを理解した。まあでも……思った通りには行ってないかな。もともと良い子だったけど、いまいち抜けているところがあるっていうか……』

「人間なんて大体そんなもんだ。無理しているのは一目瞭然だからな」

『だから……君には、アースーを支えてほしいんだ。こんな父性の欠片も感じられない僕に加えて、兄まであれだしね……背負えるものは背負って、責任は手放さない。そんな子に育っちゃったから……』


 躾がいいのも考え物。ということだろう。


「神器に制限かけすぎだろ」

『そうだねぇ。下手にやりすぎちゃったかな。あんな子が僕から生まれてくるなんてねぇ』

「見た目はほとんど変わらんぞ。あんた享年六十六だよな」

『すごいだろ。十六歳の息子と見た目が変わらないんだからね。ずっとピチピチなんだ。この国は男の娘補正とでもいうのか、男の娘に生まれた場合は成長が止まる反面、肌年齢が経過しないんだよ』

「……」


 秀星としてはそれもそれでホルモンバランスが心配と言うか、一体どういう遺伝子をしているのか気になるのだが、これ以上は藪蛇だろう。


『ま、そんなことはいいさ。アースーは良い子で、優秀で、手のかからない子だって皆言っていたけど、逆に誰かを心配させることもあるから』

「だからアレシアがあんな悪魔みたいに育つんだろ」

『違いないね……』


 少し遠い目になるアーロン。

 何か嫌なことを思いだしたのだろうか。


『アレシア……あの子、日本で元気にしていたかい?』

「それはもうヤバいくらいにな」

『それはよかった。来夏にもあったことはあるけど、あれもあれですごいね。親って感じがする』

「娘が生まれているぞ。来夏の血をしっかり引いているが」

『それは旦那さんはご愁傷さまとしか言えないね』


 同感である。

 というか、みんなそう思っている。


『アレシアが外国に行こうって思うのは分かるんだよね。この国の男って、結構弱いんだよこれが……』

「日本で言う草食系男子の……進化なのか退化なのかわからんが、そんな感じだよな。街を見て回った時に何となくそう思った」

『強い男が少ないんだよね。だから、来夏みたいな人についていこうとするのもわかるんだ』

「来夏は女だぞ」

『似たようなもんでしょ』


 少し秀星はデジャヴったが、あえて放置した。


『とにかく、アースーは任せたよ。当別扱いしろって言いたいわけじゃないけど、支えてやってくれ』

「まあそれくらいならわかった。で、アンタはこれからどうするんだ?」

『女湯に行くんだよ』

「除霊してやろうか?」

『あっはっは!さらば!』


 アーロンは全速力で逃げていった。


「……騒がしい父親を持ったんだな。アースー……」


 溜息を吐いたあと、秀星は歩き始めた。

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