第百四十二話
「秀星。一体何を読んでるの?」
「この国で使ってる魔法科目の教科書のデータをインストールして読んでる」
リビングがいつの間にか作戦会議室のようになっているが、気にしないことにした三人。
椅子に座ってタブレットを見ている秀星の後ろから、アースーがひょこっと顔を出す。
「ていうか、なんで全部日本語なんだ?」
「今はもう潰れちゃった日本の評議会と深いつながりがあったからだよ」
「それだけ?」
「それだけ。ちなみに、この教科書はみんなが使っているものだよ」
「じゃあ、英語と日本語の両方を話せるのか」
「そうだね。僕は秀星が日本人だから、そこを考慮して日本語で喋っているだけだよ」
秀星は、フィクションで登場人物が外国に行ったときに、なんで円滑なコミュニケーションがとれるのか疑問だった。
日本人の外国語習得率はすごく低い。
偶然日本語が喋れる人間が集まっていたと考えてもいいのだが、明らかに日本が序列的に一位じゃないのに、重要な会議が日本語で進行するのは無理があると思ったものだ。
「じゃあ、例えば、俺がこの国の何処かの会議に出席するとしたら、日本語で会議が進行するのか?」
「英語で罵倒してくる可能性もあるけどね」
「……ちなみに、アースーって何カ国語喋れるんだ?」
「先進国なら大体いけるよ。まあでも、英語って便利だね」
そりゃそうだろうな。
「で、教科書を読んでみてどう思った?」
「わかっているようなわかっていないような……そんな感じだな。近い表現をするなら『図鑑』だろ」
「実はね……僕もそう思うんだ」
思ってんのかよ。
「関わることができる人間が多いほど、技術っていうのは進化が早い。日本でいうと……戦後の携帯電話は重さ三キロの『搭載型』だけど、今は三十分の一くらいになってるでしょ?」
「そうだな」
「でも、魔法社会っていうのは、技術を秘匿する人間が多かったり、関わる人間の絶対数が少ないから、才能があるものが集まるにしても限度がある。確認作業だけですごく時間を使うのはよくあることなんだ」
秀星も言いたいことはわかった。
「まあ、魔法以上に超能力はわかってないけどね」
「どっちにしてもそんな大したものじゃないんだけどな……」
魔法が魔法である限り、超能力が超能力である限り、秀星には通用しない。
それは、目の前にいる第二王子も同じだろう。
「まあ、別に嘘は書いてないからいいんじゃないか?俺達みたいに神器を持っているならともかく、それ以外のやつならレベル的に問題ないだろ。そもそも、国を魔法社会としようとした理由は、そういうものじゃないだろうしな」
「それもそうだね!」
アースーは、今までで一番いい笑顔だった。
とても可愛らしいが、秀星はすこし、踏み込みすぎたかと判断した。




