第千四百六話
イベントは終了し、参加者が全員、地球上に戻る。
ただ、今回のイベントが開かれることそのものは、うっすらと『一部の情報通』は知っているといった程度だ。
彼らは観戦する手段を持っておらず、当然、その結果を知りたがるのは当然のことだろう。
……ただ、その手の情報通がどのように参加者に接触しても、最終局面のことに関しては語ろうとしなかった。
椿以外の全員は、ただただ撥ねられただけ。
椿本人は覚えていない。
それが最終局面の様子の認識における全てであり、それ以上のことはない。
……で、ここで参加者が何を思ったのかと言うと、『発作椿に関する扱い』に関することだ。
今までにも発作はあったが、その時はいつも近くにいる外見のレベルが高い女性に抱き着いて唸りまくっているというものだった。
……それにしたって意味不明なものではあるが、今回に関してはどうやっても説明がつかない。
ギャグ補正が関わるのは確定。ただし、高志や来夏のような確信犯とは真逆の要素。
本人にはその時に何をやっていたのかに関する記憶はなく、普段の発作は抱き着く際もそこまで強烈な膂力を発揮することはない。
例外中の例外。しかし、インパクト抜群の現象の扱いは、とても困った。
結論として、椿以外の参加者の心の中に隠すことにした。
どうせ、椿は『あんまり記憶がないんですよね!』などと朗らかに言うだろう。
それだけで、『発作で何らかの現象があった』ということくらいは推察するはずだ。
椿が優勝し、優勝賞品を持っていることは事実であり、これは誰にも覆せない。
参加者の面子を見れば、優勝と発作を繋げる者はいるだろう。
そうして、真実に少しずつ近づいていくかもしれないが……まあ、カミングアウトはそのあたりでやれば十分。
椿はどうなろうと受け入れられるだろうから、土台さえ持つことができれば、それでいいということにすればいい。
きっと……難しい結果にはならない。
もう一つ変わらないことがあるとすれば。
沙耶や栞を見つつ、諸星家と頤家はどうにかしろと思うことは多かったが、朝森家も人のことを言えないということだろうか。
★
平穏だ。
地上に住む人間たち、天界に住む神々、そして神祖すらを交えた戦いは、エネルギーを枯渇させるには十分だ。
もちろん、アトムのようなガチで忙しいやつもいるし、魔戦士として魔石を確保する必要がある者も多いが、基本的に『無難』と言った様子で月日は流れる。
……そして、そんな雰囲気を、最も感覚として理解しているのは、秀星だろう。
朝森家として継承されたアイテムマスターではなく、彼本来のスキル、『バタフライ・アイズ』
歴史を変える蝶を担う者が分かる。というものだが、言い換えれば、『影響力』のようなものが見えるのだ。
鏡を見るたび、自分自身からその『影響力』が薄れているような、そんな感覚になっている。
それに反比例するかのように、椿は『砂の旅団』と言うアイテムを手に入れてから、その影響力が増していくような気がする。
……いや、『気がする』ではない。実際に強くなっている。
しかし、彼女の周りにいる人間のほとんどが、椿に会いたいとは思っても、『巻き込みたい』とは思っていない以上、椿はただ朗らかに笑うだけだ。
ただ、まぁ……色々疲れた秀星たちにとっては、その程度で十分だ。
そしてその結果が平穏だというのならば、誰だって反対しない。
だから、椿に何となく会いたくなったら、朝森家に訪れて、ちょっと椿を撫でていけばいい。
いつまでも、ダラダラと、大した未来など見えていないが、人間などそんなものだ。
激動も、感動もない。
ただ、悲哀も絶望もない。
その程度でいいし、それが彼ららしい。
時間を無駄にしているが……いずれ、時は来る。
――そして、三月。
次回、本編最終回




