第千四百三話
「はぁ、マジでぐっすり眠ることもできないなぁ……」
「ラターグでそのレベルか。まあ確かに、なんかとんでもないことになってるもんな」
ラターグとゼツヤはビルの屋上を使っている。
ラターグは寝具を持ち込み、ゼツヤは本を読んでいるという、本来なら緊張感の欠片もない状態のはずだが、秀星とレルクスの影響か、ラターグですら熟睡とはいかない様子である。
「レルクスがあの剣を引っ張り出すなんて……ていうか、やっぱりアレって神器だよな。ゼツヤってレルクスにもコアを売ったの?」
「というか、最近は弟子たちに店番を任せて売らせてるからなぁ……別にコアの値段は固定だし、そりゃレルクスだって買いに来るだろ」
「……貴重品だってのによくもまあそんな売り方をするもんだ。まあ、君のことだから、店舗のセキュリティはエグイだろうけど……」
まあ、たまに変な連中が来たりもする。
「転売とかすごいんじゃない? なんかド辺境に高額で売られてた記憶があるけど」
「何億年前だ? 最近はどこにでもいくらでも置いてるから、転売なんてやってもほぼ意味ねえぞ」
「ニ十桁年くらい前?」
「その頃、俺神になってねえぞ……」
あまりにも雑だが、昔のことなのは間違いない様子。
「……ん? 珍しいね」
誰かが屋上に上がってきた。
特に戦意は感じられない栞だ。
「アトム君とくっちゃべってると思ってたよ」
「もう済ませたわ」
「そっか」
「……ちょっと、二人に聞いておきたいことがあって」
「?」
なんだろうか。
「神になるとき、神じゃない生身の人間の体が構築されるのは知ってる?」
「ああ、あの感知しずらいやつか。僕の場合は今、幽月君のところにいる布明君として生きてるね。まあ、そっちは僕がほぼ同一の存在だと知らないけどさ」
「俺の方は、アトムのチームメンバーの竜一として生きてるな」
「それなんだけど、続きで、その体に、あなた達が戻れるのは知ってる?」
「もちろん。まあ、ほぼ別個体みたいな認識だからどうでもいいって感じだけどね。神々はみんなそうだと思うけど」
「……もしかして、未来では俺たち、そっちの体に戻ってるのか?」
「……」
なにかに気がついた様子のゼツヤ。
それに対して、栞は何も言わない。
というか、二人に背を向けた。
「知りたいことは分かった。あとは、私からは何も言わないでおくわ」
「……そっか。まあ、みんなここからはダラダラしてると思うし、君もそうでしょ。お疲れさん」
そういって、ラターグは寝た。
「俺からも何も言わないでおくよ。じゃあな」
「では、また」
栞は屋上から去っていった。
「……俺の息子が、椿のクラスメイトに……なんてことはあり得るのかねぇ」




