第千四百一話
お互いに動かない。
『全知の剣アカシックレコード』を構えた秀星。
『全能剣ゴッド・ノウズ』を構えたレルクス。
いや、構えているというよりは……秀星はゆったりした様子で剣を下げているし、レルクスに至っては剣先を地面に埋めて立てているくらいなので、ここに誰かがいれば『なんか話している』程度にしか感じないだろう。
だが、実際はそんなことはない。
というより……お互いにもう、ほとんどわかっている。
「秀星、わかっているかな?」
「ああ、この戦いの勝敗は、一刀で決まる。そんなところだろ」
「……厳密には、僕と君の格付けは一刀で終わる。と言ったところだ」
言い直したレルクスだが、『秀星VSレルクス』と言う戦いの構造が、一刀にかかっているということは間違いないようだ。
「そして、現時点で、君が不利ということも分かっているだろう」
「もちろんだ。身体能力……というか、『肉体を使ってできること』に関しては、出来ることの質はほぼ同格だが、『情報』と言う部分に関して、俺はこの剣の力で一々アクセスする必要があるが、レルクスは情報そのものだ。どうしてもその差が出るんだよなぁ」
先ほどから、秀星の剣がチカチカ点滅……ではなく、その『チカチカ』があまりにも連続しすぎていてずっと光っている。
秀星自身が述べた『アクセス』を行っているようだ。
秀星は神ではない……というより、最強の安定物質である『神力』で体が構成されているわけではない。
そのため、膨大な情報そのものを頭に『同化』させることは不可能だ。
だからこそ、『全知の剣』という名を冠する剣を握っていても、『全知神レルクス』相手には情報力で負けてしまう。
「そして僕が今、君に攻撃していないのは、君自身が、その剣を握った瞬間に『防御』に関する情報のアクセスを優先したからだ。君は神力で構成されているわけではないが、神力で作られた神器を使っていて、『最強の安定物質』であるそれは、守りに特化すれば攻撃よりも性能が高くなる」
要するに、その『防御情報』によって、秀星はすでに、『ガチガチ』に固められた状態だ。
元々『真理』に近くなるための研究を進めて、生身の人間でありながら神祖すら凌駕する秀星が、完璧な情報にアクセスできる剣を握っているとなれば……。
いや、そもそも『真理』と呼ぶものが、『過去から未来まで通ずる大原則』であるとするならば……。
その『真理』を研究して体現し、強化し続けてきた秀星は、『この先の全て』を知っているレルクスと比べたとしても、『ほぼ質は変わらない』のだ。
秀星も、そして全能剣を握るレルクスも、『次元に存在するもの』として『上限』に達している。
だからこそ、『大原則』である『真理』に近い秀星は、『全能剣を握るレルクスの攻撃を防げる』のだ。
そんな状態になっている秀星に向かって攻撃するなど、全く意味がない。
「……だが、君のその剣の力には時間制限がある。その制限時間内に、どこまで多くの情報にアクセスできるのか。そこが問題だ」
セフィラ……おそらく『生命の樹』をモチーフとする何らかの手段を軸として、秀星は十個の神器を束ねた。
しかし、その合成手段は、ゼツヤが関与している様子はない。言い換えれば、神器ではない。
だからこそ、本来の神器の想定を超えた使い方を、『アイテムマスター』としての力を行使することでギリギリ行使しているが、それにも限界がある。
その時間内にアクセスできなければ、合成は解除。
全能剣を握るレルクスに斬られて、『格付け』は終わりだ。
「僕は、君が『攻撃』を選択して生まれる『隙』を突くことでのみ、君に攻撃を通すことができる。時間制限ギリギリまで考えると良い。最後の最後。『奥義』の衝突で、格付けは終わりだ」
地面に剣を突き刺したレルクスは、そういって目を閉じた。




