第百四十話
「さて、具体的な状況を再度説明しようか」
頭に3連タンコブを作ったアースーが椅子に座ってSDカードを取り出した。
テーブルに置かれていたタブレットのトップページに映すと、解説し始める。
「さて、それでは……」
「なあ、写真がお前を盗撮したものなんだが」
「え!?」
アースーがタブレットを確認。
そこには、シャワー中のアースーのあられもない姿が。
「ひぎゃああああああ!誰だこんないたずらをしたのは!」
慣れた手つきでボタンを押して自分の盗撮写真を見せてきたときはさすがの秀星も正気を疑ったが、普通にいたずらだったようだ。
どうやらこのアースーという少年は、慣れたことや普段から自動的になっていることは、最初にスイッチを押した後に確認しない性格のようだ。
あわててタブレットをひったくって操作し始めているアースー。
王子としての威厳は最初からないのに、このままだとマイナスに直面しそうだ。
取り戻すには長い時間がかかりそうである。
「ふう、このページだね」
アースーが再びタブレットを見せてきた。
確かに、この国の権力事情が記載されているページだった。
「まず、魔法派閥と超能力派閥に分かれている。これは聞いたね」
「ああ」
「現在、魔法派閥には不正が多くなっているんだ」
「でも証拠はないんだな」
「……なんでわかったの?」
「あったら普通に出してるだろ。台頭する。なんて言ってるんだから、自分が信頼できる官僚を抱えているだろうし、証拠を握っていたとしても、牽制に使える程度で大した影響力を持っていないっていうのが現状だろうな」
アースーが苦い顔をした。
「その通りなんだよね。実際、あまりいい証拠は握ってないんだ。ただ、浅い証拠でも、『大義名分』の材料に使えるのが貴族社会だからね」
「……」
「話の続きだけど、この二つの派閥には重要な違いがある」
「重要な違い?」
「そう。超能力派閥の目的は、結果的に、僕が次期国王になること。魔法派閥は、お兄ちゃんが次期国王になること。そこが最終的な部分ではあるけど、一番権力や発言力、影響力を握っている人がそれと同じではないんだ」
「……なるほど」
要するに、超能力派閥では第二王子であるアースーがトップに立っているが、兄を次期国王としたい魔法派閥は、第一王子に権限を与えていないのだ。
「宰相が裏から手綱を握るような感じになっているわけだな」
「お父様がいなくなってしまった今、スピード勝負になっている。あと一押しがほしいんだけど、世間的には超能力を持った者が台頭すると困る人たちもいるからね」
「だろうな」
そもそも、超能力は無意識領域の話が深くかかわってくる。
魔法も解明されているわけではないが、超能力よりも技術化されている。
その典型例が魔法具だ。
現状、超能力を補助・再現するものは出てきていない。
そのため、超能力というのは一部の者たちだけが恩恵を受け、魔法というのは大衆というイメージがある。
魔法に深くかかわってきた国なら、そう思っても当然だ。
「魔法と超能力の差か……」
「秀星はどう思う?」
「いや、どっちにしても大した差はないぞ」
魔力を材料にする。
それだけで、無力なのだ。
とある技術を知っているか否か、ある意味で存在意義にも発展する話なのでここでは言わないが。
「大した差はないか……それが、実力的に誤差ということなのか、それともどちらも無意味といいたいのか知りたいところではあるけど、ま、そんなわけだよ。王位継承戦にうまく話を持っていくことが大事なんだ。それも早めにね」
アースーが言いたいことはなんとなくわかった秀星。
とはいえ、方法がいくらでもあるのは事実だ。
「ま、早いところ吹っかけるのがいいか」
「おにいちゃんはバカなんだけど、その周りには悪知恵が働く人間が多いんだ。なかなか乗ってくれないんだよね」
こちらの力を恐れている雰囲気はない。
要するに、向こうも何かの準備中なのだ。
「特効薬もあるわけだが……もうすこし調べてからでもいいだろうな。というか、もう十八時だぞ」
「というか時差ボケとか大丈夫?」
「その程度は問題ない」
思い出したように心配してきたアースーに即答する。
さすがに、時差ボケ程度ではどうにもならない。
というか、普通に転移しまくるのだ。時差とか今更である。