第百三十八話
リビングの一つについた。
アレシアとしてもいろいろやりたいことがあるのではないか、と秀星は思ったが、それらは一応後にするとして、今は状況の確認が優先、とのことである。
「さて、この部屋に来てタブレットで確認して、分かったこともいろいろあります。そこからも整理していきましょうか」
どうやら、特定の部屋でなければ入ることができないデータがあったようで、アレシアはそれを確認。
飛行機の中の時点では確定させるわけにはいかなかったようで、やっと詳しいことを話すようだ。
「……思ったんだが、アレシアは超能力者なんだよな」
「そうですね」
「どんなものなんだ?」
「そうですね。超能力、と言われると少々予想と違うものになるかもしれませんが……」
アレシアは腕を振って、横に向かって拳を突き出した。
すると、その延長線上にあるソファの上のクッションがボスッとヘコんだ。
「……飛ばせるのか?」
「飛ばせるというより、射程距離という概念がなくなったので届いた。といったものですね」
「じゃあ、アレシアには実際にクッションを殴った感触があるわけか」
「そういうことです」
レイピアで突けば、その射程がなくなり届くようになる。
「なるほどな」
「私からすれば、離れたところを殴った感触があるのに、位置情報的に考えて不快感がないというのが妙なのですが……腕が伸びているという感触でもなさそうですし……」
ミラベルから見るとそのような感じらしい。
だが、そこまで不都合なものではない。
「魔法と違って、超能力っていうのは脳内においては無意識領域の話だからな。意識せずとも馴染むように出来ているんだ。最初は困惑するかもしれないが、実は自分の超能力で感じる不快感っていうのは、使い続ければなくなるのが早いんだよ」
「初めて聞いた」
「知ったところでどうするという話でもあるからいいんじゃないか?」
さて、それはいいとして。
「アレシアの超能力が、射程という概念をなくすものだということはわかった」
「話を続けましょうか。私達の目的は、腐敗している魔法派閥の撤廃、そして超能力派閥の台頭です」
「腐敗ってどんな感じ?」
「不正と公序良俗無視ですね」
「……」
「ちなみに、公序良俗無視というのは、女性が男性をつれさって無理やり性行することです」
「飢えてるなぁ……」
秀星はそれ以上言えなかった。
「まあ、このあたりはエインズワース王国らしいもので、言い換えるなら国民性なので大目に見れます」
嫌な国民性である。
「不正っていうのは?」
「魔法派閥は大きくなりすぎて、監視・管理能力不足から様々なことがあります」
「大きくなりすぎた組織にはよくあることか」
「抱えていける量は決まっていますからね。ようするにそういうことです」
「……その、不正はまあ駄目だってわかるんだが、公序良俗無視なのはこっちも同じなのでは?」
「当たり前です」
「当たり前なのか!?」
秀星ビックリ。
「そもそもの話ですが……」
アレシアは先程のペイント弾を取り出した。
「このペイント弾には大量の媚薬が入っていますよ」
「嘘だろ!?」
「おそらくこのペイント弾を作ったのはお兄様ですね」
「ロクなのがいねえな!?」
「ちなみにライフルはお父様が使っていた特注品です」
「……」
王族のほうが性に対して自重が少ない。
どうなるかはわからない。
だが、前途多難だと秀星は確信した。