第百二十八話
ほとぼりが冷めたところに秀星が助けに入って、それによって四人を救出したわけだが、秀星としては、その際に四人からの話を聞いて、『戦車』と言う単語が頭に残っていた。
戦車型の魔装具と言っても、元々の戦車を魔法具を使って改造するか、それとも最初から魔法具を組み込みまくって魔装具化するかの二種類である。
とはいえ、それらはキャンピングカーでも変わらないわけだが、秀星としては気になる部分がもうひとつあった。
それは、その戦車が一つだけだったのか、それとも複数あったのか。
一つだけしか用意できなかったというのであれば、最終的にはそれを破壊すればいいわけだが、複数あるとなった場合、それらを安定して供給できるだけの技術力、もしくは財力があるといえる。
技術力があるというのなら、その設計資料を奪えばいいのだが、財力だった場合、どこかの組織がその戦車を開発するに十分なものを揃えているということだ。
小難しいことを言わずにどういうことなのかと簡単に説明すると、『余計に気にしなければならないことが増えた』ということになる。
秀星は確かに戦車であってもワンパンである。
だが、全員が全員そう言うわけではない。当たり前だ。人間がそこまでのものを持っていたら兵器なんて要らない。
ただ、あの戦車が剣の精鋭に通用しなかった。と言う情報が出回ることになるので、それは悪いことではない。というのは今は良しとする。
ただ、今回襲撃したのはバック・マーチャンツ。
裏の商人たちと言うのであれば、持っているのは財力だ。
製造元を調べる必要があるだろう。
……セフィアに一声かければ済む話ではあるが。
★
「それにしても、まさか来て早々に檻を叩き壊すなんて、秀星君は常識が通用しない人だね」
「隠しカメラがあることに気が付いていながらあんなことをしていたお前が言うのか?お互いのセリフだろ」
秀星は雫とショッピングモールに来ていた。
得に大したようがあるわけではない。
偶然割引券があったのでそれを消費しに来ただけである。
「そう言えば、秀星君って何か好きなものってある?」
「……特にないな。みんなが好きなものは大体好きだが、特別何かを食べるということはないぞ」
「なるほど……」
雫は何かを秀星に作って食べさせようとしていたのだろうか。
だとすれば秀星はそれを断固拒否するだろう。
喜んで毒を食べる偏食家はいないのだ。
もちろん、エリクサーブラッドがあるので毒であっても全く通用しないが、そう言う問題ではない。
秀星の場合、視覚情報が拡張されているので、幽霊だとかそう言ったものも見えるのだが、何かこう……おどろおどろしいというか、何かすごくヤバいものが溢れているというか宿っているというか、そんなものが雫の料理からは視えるのだ。
一体何をどうすればそんなことになるのかさっぱりわからないが、作成風景を見てもそこまで悪いというわけではない。
はたから見てみてもたいしたことはないのに、なぜあそこまで怨念にあふれた味になるのか……。
カースド・アイテムを使っている弊害なのか……いまだに不思議である。
「あ、エイミーちゃんだ」
ショッピングモールなのでゲーセンエリアがある。
そこに、エイミーはいた。
「……」
「……」
ファイティングスティックを握りしめ、八つくらいあるボタンを叩きまくっていた。
一昔前のアーケードゲームのようなものだ。いまだにおいているとは思っていなかったが、店長の趣味で、こういうレトロゲームは一定の需要があるのでおいているらしい。
エイミーの前にある画面では戦車が動いており、次々と敵戦車や敵戦闘機が撃墜されていた。
「よし、この店でも最大スコアですね」
信念の貫き方に難がある道場破りのようなことを言っているエイミー。
次にエイミーは太鼓を叩いていた。
最大レベルでもフルコンボだったが。
「よし……あ、秀星さんと雫さん」
エイミーが見ている秀星と雫に気が付いた。
雫を見て少し苦い表情になっているが、それを責めるというのは酷であろう。
「エイミーってこういうゲームをするんだな」
「そうですね。結構好きですよ」
((それは少し見れば分かる))
レベルが高いというより、すごく真剣だった。
「秀星さんもやってみますか?」
というわけなので……。
「む、なかなか……え?……うそ、ならこうすれば、ん?……あっ!……」
アルテマセンスを持つ秀星は、たとえアーケードゲームであっても初見で強いのである。
「つ……強いですね。秀星さん」
「まあ、これくらいはな」
「ですが、音ゲーでは負けませんよ」
これに関してはなかなか決着が付かなかった。
お互いに、ゲームが要求する技術レベルを超えているからである。
「……む、むぅ。なら目隠しで……」
……目隠しした瞬間、エイミーはミスをした。
秀星はフルコンボ。
「……秀星君。もうそのあたりで止めておこうよ。お金はたくさんあるから別にいくらでもやっていいけど、ちょっとヤバいことになるかもしれないよ」
「ああ。そうだな。人も集まってきてる見たいだし、帰るとしよう」
意気消沈しているエイミーを引っ張って、秀星は店を後にした。