第百二十七話
「……く……ずく……雫!起きろ」
「むにゃ?」
羽計の声が響いて、雫は目を覚ました。
そしてすぐに、体が思うように動かないことと認識する。
頑丈なつくりの手錠で後ろ手に拘束されている。
足首を縄で縛られており、まともに動くのは普通なら不可能だった。
「ああ。そっか。捕まっちゃったんだね」
「油断してしまいました」
エイミーが悔しそうにつぶやく。
油断だったのか、慢心だったのか、いずれにせよ、彼女たちがいい判断をした結果ではないことは確かである。
「今までは秀星君がいたから何とかなってたってことなのかな」
「考えるまでもなく相手を叩き潰せるからな。アイツは」
自虐的になる風香に対して、羽計はまだ危機感は薄いようだ。
「……はぁ、こんなふうに捕まるのは二回目だな」
羽計はそう言った。
三人の視線が集まる。
「え、前にも捕まったことがあるの?」
「まだ私と来夏と、アレシア、優奈と美咲の五人だった時の話だが、今回のように、下らんミスをして全員が捕まった。全員が縄で縛られて地下室に放り込まれた」
羽計は溜息を吐く。
「最初に目覚めた来夏が叫んで全員を起こしたんだ」
「なるほど」
「象を気絶させる麻酔銃を全身に浴びたのに何故か一番早く目覚めたのだがな……」
「……」
「あと、目を開けた瞬間、私は目を疑った」
「え、どういうこと?」
「こんな頑丈なつくりの手錠を用意できなかったのかどうかは知らないが、全員が縄で縛られて拘束された。ただ……」
「ただ?」
「来夏だけは運動会で使う綱引き用の縄だった」
三人は吹きだした。
「アレシアが力ずくで引きちぎればいいと言うことを来夏に言って、その手があったとばかりに全身に力を入れて引きちぎっていたぞ。あの時ほど来夏の体の構造に疑問を持ったことはない」
あの時の綱引き用の縄の断末魔を羽計は今も忘れない。
羽計の思い出話でしょうしょうドエライ空気になってきた。
「それでは、手錠も外せたので、出る準備をしましょう」
エイミーがこの空気の中で何事もなかったかのように手錠を外して、ついでに足の縄も解いていた。
三人の視線がエイミーに集まる。
簡単に言えば、『コイツも変わってるな』とでも言いたげな視線だった。
「エイミーちゃんもそういうタイプの人なんだね」
「え?……拘束されたままでも手錠のピッキングをするくらいは常識ですよね」
「日本にそんな常識はないよ」
「一体どういう世界を生きてきたんだお前は……」
魔法社会と言っても、表に見える部分と裏にしかない部分がある。
雫と風香はそのあたりを良く知っているのだが、羽計は認識としては薄い。
ここ最近は秀星が一人で直接出向いてボッコボコにしているので、なおさら関わりようがない。
エイミーが全員の拘束具を外した。
ちなみに足の縄に関しては普通に引きちぎっていた。
それを見て『そういやコイツはパワー系だったな』と思ったのは内緒である。
「さて、拘束具も外れたし、さっさとおさらばしますか」
こうして捕まった以上、もうこれ以上の成果を期待するのは不可能だ。
そもそも、予測不可能なほどフットワークが軽い秀星に対抗するためなのか、拠点をすぐに変更する犯罪組織が多くなった。
そのため、本当に重要な拠点でもない限り、捨てるのも早い。
「そう言えば、私たちの貞操が狙われることはなかったな」
「多分、秀星君を恐れたんじゃないかな。ほら、フィクションだとさ、こういった時にそう言ったことをしたりすると、あとで制裁が待っていたりするでしょ?」
「ああ。まあ、そうだな」
「で、そうなると本当の意味でこの組織がつぶれちゃうからね。捕まった後でも、私たちは秀星君の存在に助けられているってことだよ」
雫はこのあたりの理解力はある。
サブカルの制覇率が高いとも言えるが。
「で、エイミーちゃん。この檻、壊せる?」
「そうですね……」
エイミーは檻に手をかける。
そして数秒後、首を横に振った。
「これは無理そうです」
「それでは助けを呼べないぞ」
「でも、秀星君なら見つけてくれそうな気がするけどね」
「それを待つしかないね。だからこそ」
雫の瞳がギラン!と光る。
三人はビクッとした。
「私は三人を辱め放題なんだYO!」
そう言いながら両手をワキワキさせて三人に近づく雫。
身構える三人だが……。
「無意味!」
瞬間移動を思わせる速度で風香の背後に回りこみ……。
「いやっ、あんっ、そこはだめ……」
胸を揉みしだき始めた。
「ムフフフフ。若い子の胸は大きくて弾力があっていいねぇ」
どうでもいいがこの四人の中でバストサイズが一番大きいのは雫である。
雫>羽計>風香>>エイミー
と言った感じである。
なれた手付きで揉みまくった後、今度は羽計に目を向けた。
ぶるっと震える羽計。
そして、その震えた瞬間を見逃さず、背後に回りこんでもんだ。
「ひゃんっ!や、やめろ!あっ……」
「おお、風香ちゃんよりも弾力があるね。風香ちゃんの柔らかい胸とくらべるとこっちも揉みごたえがあっていいよ~」
「ひ、人の胸を揉み比べるな!あん……」
蹂躙される羽計だが、テクニックの上では雫に対してはいかなる抵抗も通用しないのだ。
雫の座右の銘『女をイかせるのは胸だけで十分!』である。
そして顔を真っ赤にして倒れた羽計を尻目に、今度はエイミーを見る。
「あ……あの……私はそこまで大きくないので」
「問答無用!」
「いやああああ!」
こうして、エイミーも餌食になるのだった。
秀星も来ない。アレシアもいない。
最高の環境なのだ。
あとでいかなる制裁が待っていようと関係ない。
まあいい変えるなら……。
据え膳食わぬは変態の恥である。