第百二十六話
「ここがバック・マーチャンツのアジトか……」
剣の精鋭の制服を身に包んだ四人は、山の中に存在するバック・マーチャンツのアジトに来ていた。
装備を見れば、沖野宮高校にFTRが襲撃してきたときに捕獲した時のものと、エイミー以外は大した差はない。
雫は短剣二本。羽計はバスタードソード。風香は刀。
なぜ学校にスナイパーライフルを持ってきていたのか不明なエイミーは、いろいろなところに魔装具を取り付けたもので、機動力重視で安定したものだった。
「クエストページでは、リーダーの捕獲か抹殺だね」
「とらわれている者たちの解放もそうだな」
「違法商品の数も多いです。それらの対応もしないといけません」
自分たちがするべき最終的な目標を確認。
「アジトの中の地図は手に入れられなかったけど、たぶん奥のほうにいるから大丈夫だね」
「ああ。早く救出するぞ」
「小細工はいらないね!」
「メンテナンスも十分にしてきました。いつでもいけます」
準備は万端。
……と本人たちは思っているが、情報収集が甘すぎるだろう。と秀星なら言っているかもしれない。
ただし、時間は真夜中を選んだ。
そのあたりの時間は四人だけで話し合っても選べるようである。
秀星の場合、二手先三手先だとか考えずに一手先で叩き潰せばいいのでそのあたりの印象が薄いのだが、彼女たちは一応、常套手段を理解していた。
「よし、突撃!」
雫の号令で、余人が出入り口を粉砕した。
そのまま突撃する。
とてもじゃないが、とらわれている者がいて人質にされる可能性がある場所での作戦とは思えない。
しかし、人質というのは対象を盾にすることができて初めて成立するものだ。
この四人が相手だと、そもそも人質を取る人間の反応速度が追い付かないので、目の前で行われても対応できる。
「下に降りる階段がある。先頭になるとしたらここからだよ!」
先頭に立つ雫が叫んだ。
三人ともうなずいた。
階段を下りて、さらに続く廊下を走っていく。
角を曲がると、銃を構えた戦闘員が三人ほどたっていた。
「ハッ!」
一瞬で速度を上げると、三人の武器を短剣で破壊。
即座に足を振り上げて蹴り飛ばした。
戦闘員は、ミニスカで足を振り上げる雫の下着をどうにかしてみようとして……残念、スパッツであった。
「無念……」
そういって、戦闘員は気絶した。
まあ、アウトローな男たちなのだ。大体そういう価値観である。
「むう……このままだと私たちの出番がなさそうだね……」
風香は少し苦い顔になった。
別に、役割がないからといって悲観する必要はない。
単純なことで、相手が弱かっただけなのだから。
「……むっ!」
エイミーが引き金を引いて、壁の一部を狙った。
壁が崩れると、そこには罠の機関銃が存在した。
「うわっ。あんなものがあったんだ」
「アジトを作る段階で、様々なところに罠を作る設計だった可能性があります」
「主要な扉の周辺は気を付けたほうがいいな」
「人の気配はわかるけど、こういった罠は勘だからね……」
少し面倒な作りになっているようだ。
扉を破壊して、奥に進む。
T字路に差し掛かった。
「どっちに行く?」
「あまりわからないと思うが……」
「それなら右からだね」
「来夏さんが便利だと言っていましたからね」
まだ『悪魔の瞳』を持っていなかった時の来夏の話だが、よく使っていたそうだ。
ただ、ダンジョンなどに入って途中で使い始めると迷う時があるし、進んでいる最中にダンジョンの構造が変わると当然迷うので、迷わないためには、歩いて確認するのではなく、自分たちの場所を外から見るようなスキルがあるのが理想的である。
来夏の場合は自分から全体を見るようにしているが、そのポテンシャルを考えると外から見ているのとあまり変わらない。
「あ、扉だ」
何かの倉庫なのだろうか。扉がある。
「フンッ!」
羽計がバスタード・ソードを一閃。
扉が真っ二つになる。
「相変わらずすご……って、なにこれ」
瓶のようなものが大量にあって、薬品が満載している。
そういったものを貯蔵している場所だった。
「これはいったい……」
「匂いからすると、たぶん麻薬だと思う」
エイミーのつぶやきに答えたのは風香だ。
「麻薬だと?このすべてがそうなのか?」
「大量にありますよ。総額でいうと億クラスの金額になります」
「よく集めたね。風香ちゃん現物知ってたんだ」
「私にもいろいろありましたからね……まあそれはそれとして、貨幣の信用が薄い小国や途上国と大きな商売をする場合、貨幣よりも麻薬のほうが価値が安定していることが多いみたいです。そのために、裏の金として集めているところもあるみたいですよ」
「麻薬のほうが安定してるって……」
まあ、それも世の中の現状の一つである。
「先に進むぞ」
羽計がそういって、部屋を出た。
確かに、これ以上この部屋にいても仕方がない。
雫たちも後を追った。
そして……。
進んでいる雫たちだが、少し、不穏なものを感じていた。
罠の対応回数が多くなっているが、人の数が少ないのだ。
たまにとらわれている人たちを発見できたので、今はまだ出すには危険すぎるということで、拘束具だけ破壊して先に進んでいる。
それはいいのだが、人がいない。
「いったいどうなっているんだろう」
「わからん。単純に人が少ない時間帯だったのか、どこかに隠れているのか……」
「私たちだけだと全部は回りきれないし、発見できない場所があるのはわかるけど……」
「ただ、警報すらなっていないというのが妙ですね」
警報が鳴っていないとつぶやくエイミーだが、警報が鳴っているという情報をわざわざ襲撃者に明かすアジトというものは少ない。
バック・マーチャンツでは、全員が携帯端末を所持している。
すでに、全員がこのことを知っているのだ。
この程度なら、別に技術の進化がどうのというレベルではなく、単純に危機管理能力の範疇である。
「また扉が見えた」
それと同時にドアを破壊して、そのまま奥に行く。
そこには……。
広い空間で待ち構えていた、戦車があった。
主砲に加えて、ライフルや機関銃も多数搭載されており、そのすべてが魔装具である。
おそらく、魔力保存媒体もかなりのものだろう。
そして大きい。
普通の戦車の三倍近くあるといっていいサイズだ。
「うげっ!」
雫は苦い顔をした。
次の瞬間、機関銃が起動した。
「おりゃあああああ!」
短剣を高速でふりまくって、自らに影響する弾丸をすべてたたききる雫。
十分化け物だが、まあ、もっと理不尽なことをする化け物がゴロゴロと居るので別に珍しいことではない。
「な、こんなものを用意していたのか……」
羽計は弾丸に巻き込まれないように迂回しながら戦車に近づく。
風香は風をまといながら、羽計とは反対側から攻めていく。
エイミーは装備を変更。
機動力重視だったが、威力と防御力を上げた装備に変えた。
「む……それ!」
雫は機関銃になれるためにとどまっていたが、慣れてきたので切りながら走り出す。
……もはや人間ではない。
「シッ!」
短剣に魔力を流し込むと、紫色に光った。
それで機関銃を切り刻むと、そのまま動かなくなる。
魔力の流れを乱すものだ。
こういったものの場合、弾丸の強化と機関銃本体の強化が同時に魔力で行われている。
その魔力を乱すと……。
簡単に言えば、暴発するのだ。
次々と機関銃を破壊する雫。
それによって、ほかの三人も参加できるようになってきた。
「よし、これで……終わり!」
旋風刃でコアをたたききった風香。
確かに、戦車との戦いはこれで終わりだ。
「ふう……痛っ!」
風香が足元を見ると、地面から生えた銃口が足を貫いていた。
「風香ちゃん!……うわっ」
雫もぎりぎりでよけた。
「弾丸は銃一つにつき一発か……フンッ!」
自分のところに来た弾丸を両断する羽計。
「それっ!」
ミサイルで次々と銃を破壊するエイミー。
「すぐにこの部屋から出るぞ。風香。動けるか」
「うん。風を使ってもう治したよ」
そういう風香の足にはけがはなかった。
そうと決まれば、ということで全員が動き出す。
戦車が置いていた部屋から出た。
「ふう……え?」
その通路は、霧で満ちていた。
それと同時に、雫は急激な眠気を感じる。
「す、睡眠ガス」
「ま、まずい。このままだと」
すると、通路の壁からまた何かが出てきた。
筒のようなもの。
言い換えれば吹き矢のような形をしている。
そんなものが大量に出てきた。
「やばい」
次の瞬間、四人は大量の麻酔針に貫かれる。
秀星のように、日ごろから状態異常耐性があるわけではない四人に、耐えきれるものではなかった。