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第百二十五話

 警察組織というものが存在するが、その正式名称は『イリーガル・オブザーバー』である。

 評議会の地位が落ちたことで仕事が増えた組織だ。

 正直なところ、組織の人数ではとても対応できないので、外部に依頼するときがある。

 とらえたものを突き出す場所があるだけで、依頼書が張られているような施設はない。

 当然だが、張られていたら誰かに見られるからだ。


 ……秀星は異世界で冒険者ギルドに入ったときに盗賊の討伐クエストが張られているのを見て、なぜこんな目立つところに貼っているのに、盗賊に対して奇襲が成功するのだろうかと疑問に思っているのだが、それはここでは関係のない話である。


 雫、風香、羽計、エイミーの四人は、イリーガル・オブザーバーが作っている掲示板を確認していた。

 これらの依頼は、だれがいつ受けたのかが他人にはわからなくなっている。

 それらを把握できるのは、運営しているイリーガル・オブザーバーの事務局だけだ。


「あ。このクエスト。結構よさそうじゃない?」


 雫が一つのクエストを見る。

 かなり大手の犯罪組織だ。

 名前は『バック・マーチャンツ』

 殺人はしていないが、その代わり、かなり多くの商店から盗みを繰り返している。

 魔装具もそうだが、様々なモンスターからのドロップ品も被害にあっており、被害総額は相当なものだった。


「ふむ、アジトの場所はわかっているようだな」

「失敗して、奴隷として売りさばいているって情報もあるよ」

「ただ、本当に失敗件数が多いですね。何かあるのでしょうか」


 羽計、風香、エイミーの三人も確認する。

 被害額はすごいが、その代わりに報酬もいい。

 三百人以上の襲撃者を先日とらえたばかりだが、それと比較してもいいものだった。


「明日が土曜日だし、行ってみようよ」

「そうだな。裏の商人を名乗っているようだが、やっていることは盗みと違法商売だ」

「九重市の新ダンジョンも被害にあっているみたいだよ。お父さんが言ってた」

「なおさらですね。明日に準備をしていってみましょう」


 四人とも賛成。


「ところで、秀星君はどうする?」


 雫が聞いた。

 戦闘力においても、ほかに必要な様々な知識においても自分たちを大きく上回る秀星。

 連れて行けば、依頼をほぼ確実に達成できるだろう。

 それに普段暇そうだ。おそらく誘えばうなずいてくれる。


 だが、雫の問いに対して、三人の意見は違った。


「いや、誘わなくとも問題はないだろう。それに、この前も、秀星はいなかったが問題はなかったからな」

「そうだね。私たちだけでも大手の犯罪組織を倒せるんだってことを証明しないと」

「守ってくれますし、頼りにもなりますが、ずっとそうするのは甘えです」


 そういいかえされる雫だが、彼女もうなずいた。

 要するに、本気で秀星を誘おうとしたわけではなく、単なる確認である。


 自分たちには実力も、優秀な装備も、やる気もある。

 だから、大丈夫だ。

 この時の四人の考えは、そんなものである。


 ★


「秀星様。どうするのですか?」


 秀星はセフィアから聞かれた。

 いつも通り、リビングでだらだらとセフィアが作った茶菓子を食べている。


「……何が?」

「あの四人が『バック・マーチャンツ』のアジトに襲撃する。という話です」

「別に俺はどうもしないよ。それに、こういうのは言っただけだとわからんからな」

「実体験ですからね」

「うるさいな」


 確かにこういうのは実体験なのだ。

 一番最初に手に入れた神器がセフィアだった。ということもあるだろう。

 確かに、神器を持つというだけで、莫大な魔力を保有することは可能だ。

 ただし、秀星本人は『アイテムマスター』であり、アイテムの使用制限はないがそれだけのはなしで、剣術も魔法の技術もなかった。

 神器ダンジョンというのは『テストで百点を取るような感じ』のダンジョンであり、別に答案用紙があるわけではないが、戦闘能力における実力が必ずしも必要というわけではない。

 そのため、戦闘能力の低い秀星でも、セフィアが保管されていたダンジョンを攻略することはできた。


 ただし、この『究極メイド』の力というものを、秀星は本当に自分の実力だと勘違いしたのだ。

 命令に背くことはないのでそう考えてしまうのも当然なのかもしれない。

 それに、あの時の秀星は思春期であった。

 外見的な好みがドストライクのセフィアを手に入れたことで舞い上がったのである。

 ついでに言うと秀星は童貞ではありません。


「どうなるのかは俺にもわからんが……まあ、ぶっちゃけ一度死ぬくらいまでなら問題ないのも事実だからな……」


 死後何週間もたっているならともかく、数日程度なら、秀星からすれば単なる状態異常にすぎないのである。

 命は軽い。


「では、何かが起こってからそれに対応するということですか?」

「セフィアも、実力だけならあの四人だけで十分だってことはわかってるだろ」

「もちろんです」


 こればかりは、襲撃経験がものをいうのだ。

 秀星が普段やっているようなことは参考にならないが。


「さて、どこまでやれるのか見ることにするか」


 秀星は結局、そう結論付けた。

 挽回できる後悔というのは、若いうちにいくつかしておくべきである。

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