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第百二十三話

 襲撃計画は完全に鎮圧された。

 ちなみに、六人だけで本当にどうにかできるのか。漏れていた襲撃者がいて、そいつが学校を襲ったのではないか。という疑問に関しては、見張っていたバカがいたので問題はない。

 防衛側の生徒たちは完全にノーダメージで、一人も殺すことなく全員が刑務所に連行された。英里がちょっとやばいものを振り回していたが、別に殺してはいません。

 襲撃者たちの装備はすべて没収され、アメリカで活動していたアイザックを捕えたことで宗一郎の株がちょっと上がっているらしい。


 で、当然のことだが。

 近藤育美はすっっっっごくやばいことになった。


「あ、ありえないわ。何かの間違いよ!アメリカで任務遂行率100%と言われていたアイザックを雇ったのよ!作戦が失敗するはずがないわ!」


 近藤育美がここまであわてているのは『作戦に失敗したから』ではない。

 上層部からも、作戦の失敗を責められることはなかった。

 作戦の失敗は、ではあるが。

 FTRの情報収集力は低くはなく、常に新しい技術と知識を集めるために走り回っている。

 秀星の抹殺の失敗というのは、近藤育美が言い出す前からわかっていたことだ。

 それと同時に、宗一郎の情報も集まっていたが、元評議会側に存在する資料において、マスターランクチームからスカウトがあり、それを拒否した記録が残っているので、強いことは分かっていた。

 さすがにアイザックを倒せるレベルだとは思っていなかったが、それでも可能性として低くはない。

 そもそも、秀星が出席していなかったという情報があったので、失敗は最初から確実だと思われていた。


「そうはいってもね。借金の返済はしないといけませんよ」


 近藤育美が座るデスクの前で、メガネをかけたスーツ姿の男がいた。

 金髪碧眼であり、どう見ても外国人だ。

 どれほどの悪人であっても、金を借りることはできる。

 相手を選ばなければ、という条件付きだが。

 この男は、ようするにそういう業界の役員である。


「あんたたちの金利が高いのは知ってるけど、二十日間しか借りてないのよ。百十五億っておかしいじゃない!」

「もともと三億円スタートで一日二割はないですか……それに、赤い文字でしっかりとそのあたりの注意事項を記載していますよ」


 カラス金。というものをご存じだろうか。

 簡単に言えば、一日で一割の利息がつく。

 ……のだが、今回はその上、一日で二割の利息である。

 それを複利で計算すると、借金が三億円というものであれば二十日間後にこの金額になるのだ。

 実際に三億という数字を電卓に入れて、『×1.2』を二十回やってみるとわかる。


「アンタ。FTRの役員である私を敵に回して、どうなるかわかっているんだろうね」


 鬼の形相になって凄む育美だが、その段階ではもうなくなったのだ。

 役員の男は溜息を吐く。


「この部屋に来る前、あなたの上司にこのことを報告したのですよ。そうしたら、あなたをFTRから追放するそうです。あ、こちらがその書類ですよ」


 役員の男が机に紙を置いた。

 まぎれもなく近藤育美の追放書類だった。

 上司のハンコはない。

 だが代わりに、会長のサイン、『頤綴(おとがいつづり)』と記載されている。


「に……偽物よ!」

「今からでも確認してもいいですがね」

「第一、FTRは魔法社会最大の組織よ。百十五億は確かに大金だけど、動かせないはずが……」


 動かせないわけではない。

 秀星たちが船でダンジョンがある場所に行って、そこで稼いだ金額は一週間で億クラスである。

 日本最大の魔法犯罪組織であるFTRであれば、確かに出せない金額ではない。


「動かせないわけではないでしょうね。確かに、FTRは巨大組織ですから」

「なら……」

「ですが、それだけでは済まないことになっているのですよ。あなたの失態が借金だけではないのでね」

「!」


 育美は表情を曇らせる。

 朝森秀星の抹殺により、復活を狙っていた巨大組織があまりにも多く、準備のための投資を行っていたところがたくさんある。

 無論、倒せるかどうかも分からないのに投資をはじめだした自業自得なのだが、中には、育美が自分から言って投資させたところもある。

 さらに、FTRの名前を使って宣伝していた部分も多い。

 そこまでいけば、前提として彼女の越権行為だ。


「それらの責任をどうとるのか、という話もあります。それから、私は『アノニマスキマイラ』の役員ですよ」

「え……ちょ、ちょっと待って!私が金を借りたのは別の組織よ!」


 FTRが日本の中でもトップクラスだといえば、アノニマスキマイラはアメリカのトップクラス。

 それぞれのトップの発言力や影響力に大きな差はない。

 さすがの育美も、そんな大手から金を借りることはない。


「確かに、闇金のなかでも弱小団体から借りていますね」

「そうよ!あんな弱小組織なら、いくらでも踏みつぶせるから……」

「その通りですね。ですから、その債権を我々が買いました」

「え?」

「知らないのですか?委任状さえあれば債権など動きますよ。魔法社会では簡単にね」

「でも、高額で……」

「あなたに無理に取り立てることなどできませんからね。三億円に少し色を付けるだけで購入できましたよ」


 そういって役員は微笑む。


「それで、百十五億という金額ですが、どうします?」

「そ……それは……」

「ちなみに、一日二割ですからね。何をどう少なく見積もっても、明日にはまた二十億以上増えていますよ」

「!!!」


 これが闇金の恐ろしさである。

 ここまでキチガイな数字でなくとも、やばい金額になるのは闇金ならどこでも同じだ。


「は、葉月よ、葉月がなんとかするわ」

「できるわけがないでしょう。いえ、言い換えましょう。本日をもって、あなたは私たちの所有物になります」

「そ、そんなこと認めないわ。第一、あの傭兵が失敗したのが悪いんじゃない!」

「それも悪いですが、それだけならここまであなたが責められることはありませんよ」

「でも、旦那だって百十五億なら払えるはずよ!」

「いえいえ。第一、近藤家は予算などそこまで与えられていません。家族総出の浪費癖もあり、ほとんど残っていませんよ。それに組織の金まで使っているじゃないですか」


 一番最初の魔竜の情報以外、大したものがなかった。

 日本最大といわれるFTRなので、生半可なものでは金を引き出すことすらできない。


「まあいいでしょう。本日をもって、近藤家は我々の所有物になります」


 役員がスマホを取り出して何度かタップする。

 すると、ドアから屈強な男が何人も入ってきた。


「ちょ、やめなさい!」

「近藤家の栄光は、祖父が生きていた時代まで、あなたはやりすぎました。せめて、百億くらい一日で稼げる人間になるべきでしたね」


 そういいながらも、この役員は、『朝森秀星なら可能かもしれませんね』と思っていたが。


 最後まで喚いていたが、スタンガンで気絶させられたことでおとなしくなった。


「はぁ……我々もFTRには弱みを握られていますからね。こっちも握っていますが、さすがにこんなチャチな話で手札を切ってくることはなさそうです。娘は性奴隷にするとして……あの両親は人体実験くらいですかね。使い道を考えなければならないこちらの身にもなってほしいですよ」


 役員も部屋を後にした。

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