第百二十二話
襲撃部隊の基本装備は未来型魔装具である。
作戦のリーダーを務めるアイザックがそういった武装を使ってきたこともあり、本来であれば任務を遂行できるはずだ。
しかも、一人の抹殺のために連れてきた人数は三百人。
過剰すぎて、アイザックとしては手柄をどう分けるかどうかを考えていたレベルだ。
ただ、人が大量に動くということは、それだけ金がかかる。
作戦中の必要経費に加えて、その後の報酬のこともある。
それらをすべて含めて前払いにするのが普通だ。
近藤育美の部下に、ヴィズダム・プラントの使用権利を持っている者がいるので武装はばっちりだが、実のところ使用料金は高い。
それに見合ったものがすべて手に入った。
結果的に、近藤育美が用意して、そして使った金額は大きく、さらに言えば借金もしている。
はっきり言って失敗するとやばいことになるのだが……。
「ギヤアアアアアアア!た、助けてくれえええええええ!」
……早くも失敗しそうだった。
というか、秀星が学校にいないのでそもそも達成できるはずがない。
ヴィズダム・プラントにいる工作員が秀星を発見し、抹殺を完了させる。という作戦完了法もあるにはあるが……。
アルテマセンスにより感覚神経が常人をやめていて、エリクサーブラッドによって痛覚も存在せず傷も一瞬で治る上に毒も即座に解毒してしまう秀星に対して、奇襲をかまして倒せるだけの戦力を投入している可能性はゼロなので無謀だ。
「フフフ。君たちの目的はわからないけど、学校には一歩たりとも入れないよ!」
そういいながら短剣を二本ふるいながら高速移動して切りかかっていく雫。
超高速、とはいうが、本当にすごく速いので、狙って引き金を引くころにはすでに別の場所にいる。
銃というのは、敵の反応速度で動くことができるのであれば封殺できるのだ。
雫は頭が悪いが、カースド・アイテムを使いこなし、高速戦闘を可能にする。
一歩も入れない。ということも十分可能なのだ。
周りからすれば十分理不尽な話だが。
別の場所も似たようなものだ。
「皆、等しく私の剣の錆にしてやる。かかってこい」
バスタード・ソードを構えて突撃する羽計。
こちらは、魔法具によって自分の身体能力のポテンシャルを上げることで、自分が持つ技術力を最大限に活かす戦い方である。
伝統的な剣術というものもあるわけだが、羽計の実家である御剣家はそういった剣術を研究してきた名家であり、そういった部分をまず体に叩き込んで、それを強化するのだ。
さらに言えば、羽計は剣の精鋭の中で一番まじめな性格である。
いろいろと曲解することもあるが、正しいと思ったことは貫くタイプなので、変なところでつまみ食いをすることはない。
他のものを混ぜることなく、御剣家の剣術を使えるのだ。
……最近はいろいろと周辺がインフレしているような気がしなくもないが。
「旋風刃・滅軍嵐!」
刀を真横に一閃。
それだけで、嵐が巻き起こる。
……まあ、もっと理不尽なことをしているような奴が若干名いるので責めるのは酷というものだが、何かと容赦のない風香である。
八代家もまた御剣家と同じ名家の一つ。
刀に風を集めて、それを用いた遠距離攻撃や、自分の体にまとわせて近接戦闘力を高める。という方法である。
風の感じ方というのは人それぞれであり、こちらは御剣家の剣術と違って統一するということが困難である。
感じ方が違う二人の人間が、同じ手順で技を使っても異なるのだ。
ただ、多くのものが武器が魔装具であることに対して、風香が使う刀は、収納能力を一応備えているものの、純粋な刀としての形をもっとも有している。
家にある自分の刀に至っては、魔装具ですらない。
自らが感じとる風を正確に認識するため、魔法具による小細工をしないのだ。
風香は八代家の中でも才能があると称されるほどなので、一振りで嵐を起こすくらいならできるのだ。
「お、おい。どこにいるんギャアア!」
「……」
武器を持つ右肩を撃ち抜かれる男。
当然、その原因はエイミーだ。
今日は偶然スナイパーライフルしか持っていないので(秀星が聞けば『え、どういう意味?』と首をかしげるだろうが)、建物に隠れて襲撃者たちを狙っている。
どこから来るのかわからないというのは一番の恐怖である。
とはいえ、いろいろと奇襲が効かなかったり、隠れてもこちらを普通に見てくるような連中が剣の精鋭には多いのであまり説得力がない話ではあるが。
それはいいとして、エイミーが使っているのは、ヴィズダム・プラントで作った整備用具を使ったものだ。
それに加えて改良を重ねているので、当然、その性能はそんじょそこらの武器を上回る。
その有効射程は五キロメートルを超える。
何もない平原に立てば、地平線まで狙える射程だ。
弾速はマッハ3であり、反動はほぼないといっていい。
魔力的に解決している部分があるのだが、だからこその魔装具というものである。
……ちなみに、エイミーの性格なのか、今のように隠れて何かをするときはできる限り薄手になりたがる。
建物の陰から狙い撃っているエイミーだが、その恰好は胸元を開いたラバースーツのようなもので、いったいいつ着替えたのか気になるところである。
「よっこいしょ」
「ギイイヤアアアアアアアアアア!」
軽い声とともに振るわれる血の付いた棍棒……とアタッシュケース。
普段、英里が宗一郎をたたいている代表格だが、本来はこうして普通に武器として使っているようだ。
ちなみに、襲撃者たちが撃ってきた弾丸はすべてアタッシュケースで防御して、棍棒で殴り倒すというのが基本スタイルである。
普段は棍棒だけだ。
「ひ、ヒイイイイ!やめてくれええええ1」
当然怖い。
「安心してください。この棍棒には全長十メートルほどの大きさになるくらいの機能しかありませんよ」
なおさら怖い。
というか、全長十メートルの棍棒など、持ち上げるものでもなければたたくものでもない。
普段と変わらぬ様子で敵を撲殺する英里。
……宗一郎も頭のねじが外れているが、英里も最初から普通ではなかったようだ。
「……弱すぎたな」
宗一郎の周辺には屍が並んでいる……いや死んではいないが。
単純に、戦闘が五秒も持たなかったのだ。
宗一郎の神器。『戦術改変装甲ハザードプレート』
射程距離という点においてはマシニクルに及ばないが、その分、威力的に言えばマシニクルを超える性能を持っている場合が多い。
「……ん?こいつの顔はどこかで見たことがあるな」
顔面をぶん殴って一撃で終わらせた奴の一人を見る。
装甲の左腕についている液晶端末を操作して、魔法社会の警察組織のデータベースにアクセス。
「アイザックか……どこかで聞いたことがあるような……ないような……ないな」
対して興味もなさそうに襲撃者たちを拘束していく宗一郎。
「しかし……襲撃計画についてはいくつか諜報部隊から聞いたが、想定していた装備とは全く異なるな……別口か?」
宗一郎はつぶやいた。
秀星を狙っている組織は一つではない。
ほとんどは宗一郎が一人で処理しているが、それとは違ったものだった。
「……まあいい。何度来ても、叩き潰すだけだ」
宗一郎は空を見て、ほかの五人が何か失敗をしていないか見守っている秀星を見たあと、魔法社会のほうに存在する警察に報告するのだった。