第百二十一話
学校の中で一番高い場所と言うのは基本的に屋上である。
学校の校舎以上に高い場所が校舎の屋上以外の学校があるのかどうかはさておき、そこに六人が集まっていた。
「……三百人以上はいるね」
気配を感じとる力と言うのは、この中では最も勘がいい雫だが、神器の力がある程度表に出ている宗一郎はその比ではない。
雫のチャットで即座に返信したのは宗一郎だが、これにはそういう理由もある。
「こちらから見える範囲で言えば、大したものではないな」
「向こうの武装はそれなりに整っているように見えるが……」
神器を装着して完全武装の宗一郎に対して、バスタードソードを手にいぶかし気な目線を集団に向ける羽計。
羽計に未来型魔装具の知識はほぼない。
エイミーが使っている魔装具が、普通に流通しているものと比べて強いということは分かるのだが、それだけであり、どこがどう違うのかを説明しろと言われてもできないだろう。
「あの手の魔装具は、使いこなすための訓練期間がそれなりに必要です」
「まあ、使いこなすために訓練を十分にするのは当然だけどね!」
エイミーがスナイパーライフルのスコープを覗きながらつぶやくと、雫はそれに合わせて自分の意見を言った。
雫の言う通り、いくら武装が強く、他のものと比べて革新的であったとしても、本人の能力がそれにおいつくものでなければ何もできないこととほぼ同じだ。
装備だけはいいのに動きは素人。と言う状況になる。
とはいえ、中には自分より弱いものしか狙っていないのに威張り散らす者もいる。
自分より弱いものしか狙わないのはいいとしても、それで自分が強くなった気になるのは致命的である。
武装を何度も使って、それを理解して、必要なものを新たにそろえる。
彼らに取って、今回相手する『朝森秀星』という魔戦士は、暫定であっても『日本最強』なのだから。
……今更と言えば今更なことなのでそのあたりはいいとしても、エイミーは立ったまま、すごく重そうなスナイパーライフルをしっかりと構えてきょろきょろと見ている。
武装を確認しているのか、それを扱う本人を見ているのか。
いずれにせよ、ここまで重そうなものを持っているのに普段通りにしているのはいろいろと筋力量がおかしい。
「なんといいますか、すごく重そうなライフルを持って、あたりを見回すような人がいるとは思っていなかったですね」
そしてそれに突っ込むのは同じくパワー系の英里である。
普段から重そう、かつ凶悪なものを振り回して会長をぶん殴る英里でも、エイミーの細腕の腕力には引いてしまうようだ。
とはいえ、制裁を受けまくっている宗一郎からすれば、英里も十分にパワー系なので白けた目を向けるしかない。
「さて、そろそろこちらから襲撃をかけるとしよう」
バイザーを下ろしながら宗一郎は呟いた。
「だが、どうする?それなりに広範囲に人を分けているようだ。こちらも分けていくか?」
「その方がいいと私も思うよ!」
羽計の提案に雫が賛同。
とはいえ、それが一番いいのは分かっていることだ。
最も、負ける心配など全くしていないので当然といえば当然である。
「あまり目立たないように戦おうとは思ってたけど……阻害結界の準備をしてくるべきだったなぁ……」
認識阻害の結界。
至るところにあるが、携帯版を作っておくことは技術的に可能でもみなしていなかった。
と言うより、必要がないと思っていたのだ。
それをしなくとも、既に十分な量のものがそろっている。
学校全体に影響させる素材結界を作ることも可能なので、ばれないことを前提にするのなら校庭で暴れた方がいいのだが、あえてそれをしないのは、校舎と言う絶好の的を用意したくないということである。
「こちらから襲撃をかけて、敵部隊を殲滅する。これに異論はないな」
宗一郎の最終確認に全員が頷いた。
メンバーは宗一郎、英里、風香、羽計、雫、エイミー。
……人格的に不安なものが若干名混じっているのではないかと、宗一郎は自分のことを棚に上げて思ったのだが、あえて口には出さない。
「時間制限は?」
「別に設けなくとも構わない。ただまあ、人数を考えると、こちらは一人で五十人を倒すのがノルマ。と言うだけの話だ」
分かりやすい基準だ。
さらに言えば、作戦を立てる時間も必要もないので、それで十分。
「なら、行こうか」
宗一郎たちは、襲撃部隊を殲滅するために襲撃を仕掛けるため走った。
……どちらの方が性質が悪いか。それは一目瞭然である。




