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第十二話

 羽計は剣を構えなおすと、突撃する。

 すると、甲冑の前に魔力が集まり始める。


「――!」


 羽計は警戒しながらも足を止めない。

 集まった魔力がつららに変わってこちらに向かってくるが、顔を腕でガードして、後は『身体硬化』でやりすごした。

 若干制服が破れたが、その程度なら問題はないとばかりに止まる気配はない。

 羽計は切れ味補正と頑丈さ補正の付与魔法の出力をさらに上げる。

 剣の魔法陣で引きだせる全力だ。


「硬かろうと、別に構わない」


 真横に剣を振る。

 斬撃位置は、先ほどと同じ。


「同じ場所を斬れば、もっと先に刃が通る」


 有言実行と言うのだろうか。

 ジャストで全く同じ個所に斬撃が走り――


「なっ……」


 途中で止まった。

 何かにぶつかった感触がある。

 コアを何かで守っている。と言う位置だった。

 そして、この瞬間、羽計は失念していた。

 敵は魔導甲冑。

 言ってしまえば、人間と同じような思考回路ではないし、そんなものは必要ない。


「ごふっ!」


 鉄拳が腹にはいった。

 羽計の体が吹き飛んで、近くの建物に激突した。

 脆かったのだろうか。建物が崩れて羽計が見えなくなる。


「羽計さん!」


 心配になった風香だが、がれきを弾き飛ばしながら出てきた羽計を見て安堵したようだ。

 剣は羽計が殴り飛ばされた時に甲冑から抜けたので、握ったまま。

 どうしたものか。と言いたそうな目で甲冑を見ている。

 ヒョロ眼鏡は喜んでいた。


「フフフ、悔しいでしょうねぇ。普段使っている剣ならば斬ることができたかもしれないというのに、そんななまくらを与えられているのですから」

「楽しそうだな」


 腹をさすっていた羽計だが、すぐに両手で剣を構えなおす。


「ええ、もちろんです。それともうひとつ。この特注品ですが……」


 ヒョロ眼鏡が右手の指を鳴らすと、さらに魔力が収束しはじめる。

 それらは、四つの甲冑に変わった。

 それぞれが剣を構える。


「私には全部で五体与えられているのですよ」

「ほう……」

「っ――!」


 羽計は目を細めて、風香は苦虫を噛み潰したような表情になった。


「お前たち、行け!」


 ヒョロ眼鏡が命令すると、甲冑が動きだした。

 かなり動きは早い。

 羽計の斬撃一つで動かすことが出来たことも踏まえると、かなり軽量化されているのだ。


 最初に出した甲冑と、さらに二つの甲冑が羽計に向かい、残る二つが風香に向かっていく。


「ハッ!」


 斬撃を叩きこむ羽計。

 だが、魔法で即座に硬度を強化してきた。

 刃が通らない。


「付与魔法はお手のものか……」


 ただし、敏捷性と言う意味ではあまり高くはない。

 次々と斬りかかってくるが、対応は可能だ。


「その通り。その程度の剣では、兵士には及びません」


 向こうの攻撃力がそれなりに高い。

 機械である故に、決まった型で来るからだ。

 言ってしまえば、すごくシステマチックではあるが、『剣に重さが乗る』のである。


「これ以上の付与はできんな」


 羽計は頭を切り替える。

 自分一人では、甲冑五体を相手にしながら風香を守るのには限度がある。

 なら、することは決まりだ。

 ミニスカートのポケットに手を入れて、緊急用のボタンを押す。

 ただし、レベルが1から3まであるが、そのうちの1だ。

 武装がしっかりしていれば、こんな奴らは敵ではない。


 ただし、羽計はカルマギアスと言う組織を過小評価しない。


 今あるものでできないというのなら、どうにかすればいい。

 今あるものだけで何とかするというプライドは、羽計は持っていない。

 あくまでも、任務の遂行が第一である。

 そのためなら、様々なことを『曲解できる』というのも、羽計の強みと言えば強みである。


「……?」


 おかしい。

 ボタンを押したあと、返信がすぐに来るはずだ。

 その合図として、バイブ機能で震えるはずだ。

 レベル1なら一回。

 だが、震えない。

 毎朝故障していないか確認しているので、不具合はないはずだが……。


「フフフ、なかなか決断が早いですね。しかし残念。既に、電波を防ぐプロテクトをかけています。魔法陣にはいろいろと使い方があるのですよ」


 ヒョロ眼鏡が楽しそうに説明する。

 まだタネがあるからしゃべるのか、単に余裕だと思っているからしゃべるのか、どっちなのかいまいちよく分からない男だが、少々面倒だ。

 解決できない。と言うことに変わりはないからである。

 とはいえ、それは羽計だけの話だった。


旋風刃(せんぷうじん)螺旋開門(らせんかいもん)!」


 風香が刀を引き絞るように構えた。

 風と言う概念そのものが、刀身に集まる。

 それを一気に突くが、その時、手首を思いっきりねじった。

 風と言う概念そのものが集まっていることもそうだが、呪術を使ってその回転の倍率を上げているのだろう。すさまじい螺旋状の風が発生した。

 ただ、規模が大きいわりにそこまで殺傷能力はないようだ。

 殺すことを目的としたものではなく、『押しのける』ということに特化している。


 甲冑が全て離れて、風香がこちらに来る。


「羽計さん。大丈夫?さっき思いっきり殴られてたけど」


 風香は羽計の腹を見ている。


「問題はない。鍛えているからな」

「それで解決できるレベルだったのかな……」


 できるレベルだ。バキバキだからな。


「ところで、その剣術、奴らを倒しきることはできるのか?」

「無理」


 風香は即答する。


「コアを守っている素材が頑丈すぎる。それに、自動修復能力もあるみたい」


 羽計が見ると、確かに、徐々に直ってきている。


「だが、どこからか供給しなければそんなものは維持できないだろうな。それをどうにかしない限り無理か」


 人とほぼ同じように動き、頑丈で、しかも自動修復能力付き。

 センサーの役目をする魔法がかなり並列して行われているはずだ。

 おそらく、それを普通のAIよりも計算速度が早い『魔導人工知能』などを使って制御しているのだろう。

 だが、それらを運用するためには膨大な魔力が必要になる上に、思った以上のものにならないのだ。


 ぶっちゃけ燃費がすごく悪い。


「それで、どうする?」

「探るしかないと思う。『視た』感じ、あの人は魔力が多くない。右手で指を鳴らしている時、ポケットに入れた左手で魔力がかなり動いてた」


 初心者レベルの視線誘導(ミスディレクション)である。

 戦闘中はあまりわからないものだ。


「多分、何かの魔道具を使って、外部から供給しているんだと思う」

「外部から供給……そんな技術があるのか?」

「できないわけじゃないと思う。認識能力がかなり必要になると思うけど……」


 いずれにせよ、その認識能力を使って、魔力を供給しているということである。


「あと、あの人から出ている線みたいなものが甲冑につながっているんだけど、あと五本くらい確認できる」

「倒してもあと五回は新しいのが出てくる。ただ、まだ出してこないということは、魔力量的に見て、同時駆動は五体まで、ということか」


 通常の運用、と言うものを前提とすればの話だが。


「フフフ、なかなか頭がいいですね。ですが、わかったところで、兵士を倒せるわけではありませんよ」


 甲冑が再度集まった。

 そして、胸にあったパーツが開いた。

 そこにあったのは、銃口。


「「まずっ……」」

「やれっ!」


 銃口から一斉に弾が発射される。

 だが……。


 小さな黒い鳥――フォルム的にカラスではない――が急に現れて、弾丸を全て食い攫っていった。


「「「!?」」」


 三人とも、どこから来たのかわからない援軍に驚く。


「八代風香。あれはなんだ?」

「……私も知らない。羽計さんじゃないの?」

「私も知らん」


 黒い鳥は弾をペッと吐きだすと、甲冑を見た。


「私たちのことを守ってくれてるのかな」

「それはそうだろう。でなければ、弾丸を食い攫うはずがない」


 一体誰だ?こんなものをよこしたのは。

 そんな思考が三人の頭をよぎる。

 その時、黒い鳥が急にピクッと震えた。

 まるで、どこかから命令を受け取ったかのように。

 黒い鳥は翼を広げて飛び上がると……一瞬で見えなくなった。


「な……」


 そして次の瞬間、甲冑すべてのコアを貫いていた。

 コアを失った甲冑は、糸が切れた人形のように倒れた。

 ヒョロ眼鏡は驚く。


「バカな……」


 視線誘導をする余裕すらない。

 即座に左手の魔道具を起動して、新しい甲冑を呼び出す。

 新しく甲冑が構築され……そして、剣を構える頃にはすべてコアを貫いていた。

 いや、一つは残している。

 コアの部分だけをくりぬいた。と言うべきだろう。


「こ、こんなことが……」


 ヒョロ眼鏡は一目散に逃げだした。

 だが、黒い鳥はそれすら許さない。


 黒い魔法陣が出現したと思ったら、黒い手錠二つと多数の棒が出現する。

 即座に手錠がヒョロ眼鏡の両手、両足を捕らえて、多数の棒が合わさって檻になった。

 一瞬で、ヒョロ眼鏡は拘束されてしまった。


「クソッ!こんなはずでは、一体どうなっている!」


 手錠の拘束から抜けようとするとするヒョロ眼鏡だが、全く切れる様子がない。

 風香と羽計は黒い鳥を見る。

 黒い鳥は、黒い鍵を三つ出すと、どこかに飛び立って行った。


「……これって」

「檻と、二つの手錠の鍵だろうな」


 わめいているヒョロ眼鏡の身柄は好きにしろ。ということだろう。


 ただ、誰がどういう目的でやったのか。それがさっぱりわからない。

 とはいえ、既に通信が可能になっていた。

 本部に連絡して、ヒョロ眼鏡の身柄は預かってもらうことにして、二人は八代家の実家に戻って行った。


 黒い鳥について話し合ってみたが、お互いに最終的には、分からない。という思考で止まってしまった。

 仕方がないといえば仕方がない。

 ただ、圧倒的過ぎて不気味であった。というのは、二人の共通認識だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] イェーイ、ホーホー
[良い点] プラチナランクが苦戦した相手に圧勝 てことは護衛として派遣した黒い鳥の時点で既に、 戦闘力はマスターランクかな うん。完全に無双系小説だ
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