第百十七話
宗一郎と英里の二人を混ぜて六人で進むことにした秀星たちだが、別に一緒に何かをする意味はあまりなかったりする。
全員が一人でダンジョンに潜れる実力を持っているので、まとまって動く必要がないのだ。
しかも、神器を持つ秀星や宗一郎、大剣によって重量攻撃ができる来夏はほぼ一撃必殺である。
こうなると、集まってやる意味はほとんどない。
罠に関していっても、秀星はもともとわかるし、宗一郎とエイミーは感知型の魔装具を使いこなすし、来夏は『悪魔の瞳』で罠が見える。雫はカースド・アイテムに判別できるものがあり、英里もそういった部分を察知する魔法具をそもそも持っている。
一人で戦う場合は荷車を引っ張る必要はあるのだが、それを言っても、秀星は保存箱に入れておけばいいし、そもそもマシニクルのトリガーを引くだけなので引っ張りながらでも問題はないし、それは宗一郎もほぼ同じ、雫もカースド・アイテムで似たようなことが可能。そして残る女三人はもとからパワー系である。
考えれば考えるほど集まって戦う意味が失われていく。
そう言う感じなので、『もうこうなったらいろいろとしゃべりながら進もう』と言うことになった。
とはいえ、最初からそんな感じだったことも否定できないのだが。
「それにしても、会長ってなんか……らしくないっていうか、魔導甲冑を持っていたんだな」
「意外か?」
「だって普通に剣を使っていただろ?」
「別に使うまでもなかっただけだ。というより、出してなくてもある程度のアシストはあるからな」
甲冑型に限らず、自分が装着するタイプの神器と言うのは、それらを使いこなすための機能が鎧側についているのはもちろんだが、自分の体の中にもある程度アシストシステムが存在する。
鎧を出していないからといって、神器の恩恵がゼロになることはまずない。
「それにしても、そんなものを持っている奴が同じ学校にいたなんてな。全く気が付かなかった」
「会長はギャグパートのために生きていますからね」
「英里。ひょっとしなくても喧嘩売ってるのか?」
「私は勝てない喧嘩は売りませんよ」
「そうか」
「ちょっとからかうくらいです」
「棍棒で滅多打ちにしたり繋ぎ目をライターであぶるのは『ちょっとからかう』と言うレベルなのか?」
「会長が相手ならこれくらいは当然です」
「理不尽だろ」
「頑丈でしょ?」
「まあそうだけど」
そこは認めたらダメな領域だ。
というより、英里が極端に賢いわけではなく、逆に宗一郎が極端に馬鹿と言うわけでもない。
言ってしまえば、既に宗一郎はその弱点を英里に知られている。という感じだろう。
こうなるともう交渉もクソもないのである。
「それと、ここからは真面目な話だが、FTRの動きがある可能性が出てきた」
「へぇ……」
音沙汰なかったのに急に話題に出てきたな。
「少し、魔装具の流通がおかしい。魔石もそうだった」
「把握できるんだな。そのあたり」
「このダンジョンが魔石を大量に排出しているからな。そのあたりの流れもわかる」
「一体何をやろうとしているのかね……」
「詳しいことはまだわかっていないが、人体実験などをしていないのは事実だ」
「なんでそれがわかるんだ?」
「魔法社会における誘拐事件の件数が著しく減少している。まあ、秀星の影響だろうな」
「あー……人体実験をしていた犯罪組織、今ではもう壊滅してるもんね」
雫が頷く。
「ただ、気にかけておいて損はない。何をしでかすのかわからないのは事実だからな」
「覚えておくよ」
FTR。
次に一体何をしようとしているのかはわからないが、まだ、隠している切り札があるのだろう。
そしてそれはおそらく、俺達のように、神器使いである可能性は十分にある。
(まあでも、多分、俺が本気を出すほどじゃないだろうな)
秀星は、最終的にそう判断した。