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第百十六話

「なんか、キャンピングカーを作るって魔法社会のメーカーに頼んだら、ヴィズダム・プラントの所長が格安で作ってくれるって話だったぜ」

「……」


 秀星もそれはそれなりにダンジョンに潜る。

 セフィアに任せておけばいつの間にか世界の三割くらいの資産を所有していることは珍しくないので、金稼ぎというわけではないが、暇つぶしで潜ることはあるのだ。

 といってもすべてのモンスターが一撃必殺なので深い階層にならないとそもそも勝負にならない。

 ただ勝負にならないとかそういうことを言ってしまうと、ダンジョンに出現するモンスターも、魔石という名の心臓を持っているので、本気で威嚇するだけでショック死させることも不可能ではないのだが……おいておこう。


 ただし、同じダンジョンに潜ろうと思えば、同じ目的の知り合いに時折会うものだ。

 来夏と雫、エイミーがかぶったので、四人で潜ることに。


「へぇ、剣の精鋭に売り込みでもしているのかな?」

「いや、なんかいろいろビビッてた」

「ブフッ!」


 雫が確認して来夏が答えると、その返答にエイミーが吹き出した。

 誰にビビッているのかはいまさら言うまでもない。


「どうしたんだ?エイミー」

「いえ、特に何もないですよ」


 なお、『悪魔の瞳(ラプラス・アイズ)』を持つ来夏を相手に『何もない』というのは通用しないのだが、追求するかどうかは来夏の自由。

 エイミーが秀星のほうをちらちら見ており、その視線を来夏が見逃すことはないので、『ああ、秀星がなんかやったんだな』と思うだけである。


「まあでも、安く作ってもらえるなら悪いことはないね!」

「キャンピングカーってそれなりに高いからな。というより、魔法具を多くしたから余計に出費が多いんだよな」

「でも、まだお金はたくさんあるんでしょ?」

「まだたくさんあるな。湯水のように使っても問題ないぜ」


 そういってサムズアップする来夏。

 ちなみに、本当に湯水のように使うとアレシアがキレます。


「ただ、なんか信用を取り戻そうと焦っている奴と精神のブレ方が似てたぞ。秀星、いったい何をやったんだ?」

「ん?……ああ、井の中の蛙っていう言葉を教えてやっただけだ」


 その説明に三人は察した。

 それと同時に、源一がそれはそれなりにやばいものを所有していたことを悟った。


「まあ、信用を取り戻すっていうのは無理だろうな」

「取り戻していくものだからね」


 うなずく雫。

 信用というのは、失うとなれば一瞬である。

 何かしら原因があるわけだが、それについて謝ったとしても、その場における事案が解決するだけであって、信用を取り戻せたとはとても言えない。

 普段から頭を下げない人間はそのあたりがよくわかっていないのだが、源一が神器を手に入れたタイミングはそれはそれなりに昔だと秀星は推測している。

 豪華客船『アメイジング・リアリゼーション』を作ったのはあの工場という話だったが、メンテナンスはしっかりしているが年季の入った船だったし、船が与えられた弟が持っている信用度から察するに、数年では済まされないだろう。

 あんな兄を持って苦労している可能性はあるが、彼は『剣の精鋭』+『獣王の洞穴』+『ドリーミィ・フロント』が合わさった『悪乗り同盟』が船に乗っていてもなんとかするような男だ。そうとうな苦労人である。だからと言って秀星も抑えるつもりはないが。


 まず謝って、その場における事案を解決する。

 そのあとは、地道に積み上げるしかないのだ。

 状況が悪いのは、秀星がそのあたりを正確に認識していることに対して、源一がそうでもないということだが。


「まあ、何があったのかしらんが、ほどほどにな」

「「「それを来夏がいうのか……」」」


 喫茶店で初対面の男性にプロポーズするような女に言われたくない。


「……ん?なんだあれ」


 来夏が振り向いた先にいるのは、群青色の魔道甲冑を全身に装着した人だった。

 体格的には男である。

 モンスターを簡単にレーザーブレードで一刀両断していた。

 こちらに視線に気が付いたのか、振り向いて確認してくる。

 バイザーのスイッチを押すと、上がった。


「……なんで会長がこんなところに」


 生徒会長の宗一郎だった。


「私がダンジョンに潜って稼いでいて何か疑問でもあるのか?」

「いや……そういわれるとないな」


 それもそうだ。

 生徒会長とはいえ、時間ができることはもちろんある。

 宗一郎だって、常に学校のことだけ考えて生きているわけではない。


「あ、会長、そっちは終わりましたか?」


 奥から英里の声が聞こえてくる。

 こちらはいつも通り沖野宮高校の制服だった。

 相変わらず、血が付いた棍棒が武器のようだが。


「あら?来ていたんですね」


 英里がこちらに気が付いたようだ。

 秀星が知る限り、二人が会うのはイリーガル・ドラゴンとの合同訓練の時以来である。


「おう、まあ、このダンジョンにはよく潜っているからな」

「副会長久しぶり!」


 雫もそこまであうことは多くない。

 剣の精鋭のメンバーが生徒会室に向かう場合、その多くは秀星が行くことになるからである。


「会長さん。その甲冑は……」


 銃型魔装具を使うエイミーにとっては、宗一郎が装着している甲冑のほうが気になるようだ。


「ん?これか。私の専用武器にして相棒だ」


 その言い分に、秀星は苦笑した。

 かなり抑えているようだが、彼が装着しているものも神器の一つである。

 マシニクルとはまた別のSF的な魔装具だ。

 見ただけでわかる範囲で言うならば、秀星が持つマシニクルが『戦略級魔導兵器』であることに対して、宗一郎は『戦術単位』であることだろう。


 簡単に言い換えるならば、『戦争として戦う場合、最終的に勝つことができても、その神器が存在する領域の勝利を放棄せざるを得ない』というレベルである。

 神器使いが複数まじりあう戦闘になったとしても、それは変わらないだろう。

 同じく、戦術単位に特化した神器でなければ対抗はできない。

 言い換えるなら、マシニクルの機能を使うだけでは勝てないのだ。

 ただ、秀星の場合はアルテマセンスがあるので、別に負けないのだが。


「かなり高性能のようですね」

「そうだな。これがあれば、たとえドラゴンブレスが直撃してもビクともしなあっつ!熱い!甲冑の繋ぎ目をライターで炙るな!」


 いつの間にかライターを取り出していた英里。

 宗一郎は腰を抑えて悶絶している。


「え、ドラゴンブレスが直撃しても大丈夫なんですよね」

「繋ぎ目はだめだ!」


 駄目だな。この二人が並ぶとコントにしかならない。


「それはそれとして、秀星さん。あの無駄乳姉さんから話は聞いていますが……」

「あの、君たちの姉妹仲ってどうなってんの?」

「ブッチギリで良好です」

「とてもそうは見えないね……」


 大丈夫なのだろうか。


「いろいろとやったようですね。『あのセクハラジジイの鼻っ柱をたたき折ってくれてありがとう』と伝言を頼まれました」

「え、セクハラされてたの?」

「無駄乳ですから。まあ、私と同じ血を分けた姉妹。それはそれなりに制裁を加えていると思いますが」

「……」


 追求すべきことのような気がしなくもないのだが、本人の空気を考えてそれはやめておくことにした。

 というより、英里が宗一郎にやっているような制裁を加えるといろいろな意味でやばい気がするのだが、そのあたりどうなのだろうか。


「それはそれとして、会長。いつまで悶絶しているのですか?そろそろ鎧の機能で治っていますよね」

「いやあの、ドラゴンブレスでも問題ないって自慢してた時にライターで炙ってきておいてよく言えるなお前」

「ん?そういえば、会長さんってかなり頑丈な感じがするけど、あれってその鎧の影響なの?」

「いえ、会長のあれは素なので鎧は関係ないですよ」


 どっちかというと宗一郎のほうがやばかった。


「……お前らって結構非常識なんだな」

「いや、私は君にだけは言われたくない」


 来夏がつぶやき、宗一郎が否定する。

 だがぶっちゃけ……全員が全員に言えないというのが現状である。

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